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第555話(sideキャット)

 ──魔王城。 「ようし、できたぞっ!」  テケテーンと効果音がつきそうな勢いで両手を上げた俺の手には、手作りのパペットが二体。  もうすっかり月が天に昇る時間なので大声は出さないが、誇らしい気持ちでニコニコと笑ってしまう。  こう見えて俺は、貴族の三男にしては貴重なことに、裁縫が得意だったりするのだ。  おっと、だけど料理や掃除はできないですよ?  空軍の軍魔は翼だけを出して飛行することも多いので、よくそのあたりを破いてしまうのです。ようは慣れですね。むふふん。  しかしながら、コツコツ作ったものが完成したことが嬉しいのは嬉しい。 「にゃんにゃん、できた?」  機嫌のいい俺を月明かりの中でキラキラと瞳を輝かせて見つめるのは、魔王様のご息女様である、タロー様だ。  にゃんにゃんというのは俺のことで、俺の愛称がキャットだからである。  そんな猫にゃんな俺は、ベッドで上体を起こすお待ちかねのタロー様に笑顔で向き直った。 「じゃじゃーん! 右手が魔王様で、左手がシャル様ですよっ!」 「まおちゃんとしゃる……! にゃ、にゃんにゃん! にゃんにゃん凄いねぇ〜!」 「いやいやそれほどでも……っ! 喜んでもらえたなら、それだけで俺は光栄の極みですからねっ!」  まぐまぐと指を入れた手の部分を動かして見せると、ネグリジェ姿のタロー様は凄い凄いと言って、ベッドの上できゃっきゃとはしゃぐ。  照れくさくって腕で顔を擦ると、タロー様は猫が顔を洗う、と頷いていた。  シャル様の故郷の言葉らしい。  シャル様の英才教育のおかげか彼女はすこぶる素直でめいいっぱい喜んでくれるから、作りがいがあるのだ。やる気十分! 「きょうは川の字だねっ! にゃんにゃんもいっしょ~」 「ふむふむ、川の字……なんだか楽しそうです! 是非お供します!」  ドン、と胸を叩く俺は、ニコニコと笑うタロー様に安堵の息を吐く。  そしてこうなった経緯を思い、少し寂しい気持ちにもなる俺だ。  全ての原因は──魔王様とシャル様とリューオ様が精霊界に旅立って、ひと月も経ってしまったことにある。  おかげで両親が大好きなタロー様は、日が経つにつれてなにか考え込み、寂しそうにしょげかえってしまうようになったのだ。  初めはユリス様が叱咤激励されていたのだが、ユリス様も恋人であるリューオ様と離れ離れで、しょんぼりモード。  本人は彼なりに、表に出さないようにしている。  けれどタロー様が寂しくて丸くなると、同じように丸くなって黙り込むので、恋しいのだろう。  こういう時にいつもタロー様と遊んだり、強引に空気を変えてくれるリューオ様が、今回はいないからなぁ。  あの人は殺したら死んでしまう人間なのに、我らが魔王様とよく殴り合いや斬り合いの喧嘩をしている。  俺は彼を前にするとついつい怖くって緊張モードに入っちゃうけれど、怖いもの知らずなところは凄いなぁって、思っていたりするのだ。  そして全く自分がブレないシャル様至上主義系モンペ属性を取得している、魔王様。  更にどんな時でものほほんとした顔立ちで魔王城に和やかムードを振りまく、のどか発生源なシャル様。  魔王城の〝取り敢えずいたらなんとかなる四天王〟が三人もいない生活が、なんと一ヶ月だ。

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