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第556話(sideキャット)
両親にべったりなタロー様でなくとも、普段彼らと接している者たちはソワソワと落ち着かない。
なんだか軍部は長官たちが集まっていて落ち着かないし。海軍長官であるワドラー様まで顔を出したくらいだ。
副官である俺にも知らされていないなにかがあるのだろうか。
最強の存在である魔王様がいないので、問題が起こると不安でたまらない。魔王様がいれば魔界軍は負けないのに。
不安なのはもちろん、恋の悩みの相談相手と尊敬する上司を失った俺とて、例外でもないぞ。
陸軍の軍魔たちもいつも遊んだりゼオ様の目を盗んでオイタをする筆頭なリューオ様がいなくて、日々つまらないと小石を蹴っている。
とにもかくにも、魔王城はいじけた空気が充満していた。すねているとも言える。
みんなおもしろおかしい人たちがいないと、つまらないんだろうなぁ。
中でも最も深く落ち込んでいるのはタロー様だ。
そんな彼女を見かねたのは、なんとかなるさ四天王の最後の一人にして、最強のムードメーカーである俺の上司──ガド様だった。
ガド様はお忙しいため構ってあげられない。
その代わり、俺とゼオ様に持ち回りでお泊まり会をするよう、命じたのである。
閑話休題。
長くなったけれどそういうことで、順番に部屋を渡り歩き、今日は俺の部屋でタロー様をお世話しているわけだ。
いつも一人寝の俺としては大歓迎。
妹ができたような気持ちである。
「ねーにゃんにゃん!」
「はいです?」
パペットをコミカルに動かしていた俺を、愛らしい声が呼んだ。
ベッドの上で向かい合ってキョトンと首をかしげると、夜着の裾を両手でぎゅっと掴まれる。かわいいぞ。えへへ。
「しゃるね、いつもね、おやすみの前、おままごとしてくれるよ〜。私おとうさんするからね、にゃんにゃんぱぱして〜っ」
手作りのパペットを見て元気を出したタロー様。
翼をワサワサと動かして、俺におままごとをせがんだ。
なるほど。せっかくだから遊ぼうということですね? これは重要任務!
(俺に魔王様の役が務まるかどうかわからないけれど、やってみせるぞ!)
「わかりました! 若輩ながら、魔王様役をさせていただきます!」
「まおちゃんはぱぱだよ!」
「はい! パパ役ですねっ」
幼児の意図がわかって意気込んだ俺はしっかりと頷き、シャル様のパペットをタロー様に手渡した。
ようし、立派にこなして見せるぞ!
「えぇと、こんこん。タロー様、ただいまですよ! パパが帰ってきましたよ〜」
「うん! あぜる、おかえりだー! おかえりのちゅー」
「えぇっ!? こ、これは俺がしていいものなのか……っ!」
駄菓子菓子。
じゃないだがしかし。
しっかり意気込んだのも束の間。
最初の難関──おかえりのキスがやってきて、俺は頬を染めてドギマギとしてしまった。
だって上司とお世話になっている師匠のキスシーンを、その二人の娘さんの前で演じるんだぞ?
あやうく緊張モードになってしまいかけた。危ない危ない。
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