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第557話(sideキャット)
「むー? しゃるとまおちゃんは、いつもちゅーするんだよ! ちゅーとね〜、ぎゅーとね〜、あとはいつもの!」
「ほっほほほぅ……!」
メンタル強化合宿にでもなったのかと思ったが、気を取り直して話を聞くと、二人はいつもキスをしているらしい。
「キスと、いつもの? その、いつものってなんですか?」
「えっとねーしゃるが『ちょっとおとなたいむをするから、めとみみをぎゅっとしててな?』っいうの」
「大人タイム……あっ、察しッ!」
更にニコニコと無邪気に説明してくれたことからお察しした内容に、俺の翼もワサワサと蠢いてしまった。
ええと……その、つまり……魔王様とシャル様は、おかえりのキスが濃厚な世界の番だったらしい。うん。
いつでもお互いを想いあっているのが傍目にもよくわかる二人を思い出し、りんごのように赤くなる。
聞いてはいけないことを聞いてしまった気分だ。
流石師匠、やはりめくるめく官能の世界を愛する魔王様と過ごしていたんですね……! 尊敬度がアップする。
しかしながら相思相愛の魔界でトップクラスのおしどり夫夫を思い出すと、同時に自分を省みてしまうもので。
頭によぎるのは、俺の恋しい人。
目下全力片想い中である、魔界でトップクラスにクールなハーフヴァンパイア様の、無慈悲な塩対応。
「……め、めくるめく……イチャイチャ……ラブラブ……うっ頭がッ!」
「にゃ、にゃんにゃんーっ!?」
突然の頭痛に苛まれた俺は、ボッキリへし折れたメンタルに従い、ポスッ! とベッドに倒れ込んだ。
(うおおおお……! おかえりのちゅー……! う、羨ましいぃいぃぃ〜……っ!)
「かぜしたっ? ばたんきゅーっ?」
「いえ、いいえ! ただこう、俺もゼオ様と新婚さんになりたいって思っただけです〜っ! おかえりのちゅーもしたいって言うかぁぁあぁぁぁ……! 端的に羨ましいですよう……っ!」
「ほっほーう! いつもの〝こいわずわい〟だね! でも、むぅん? ぜおさまとちゅー、したいの?」
「はい、いつもの恋煩いです。恐れ多くもおやすみもおはようもちゅーしたいです」
それはもう、これでもかと言うくらいしたいです。はい。
むしろいつ抱かれてもいいように、諸々の処理は日々整えていますとも。
(俺もゼオ様におかえりのちゅーされてそのまま『お風呂にします? ご飯にします? それとも俺ですか?』というセリフの後『それじゃあキャット副官で』と冷淡に抱き寄せられベッドインしてぇぇ〜……っ!)
真剣に欲望にまみれた妄想のあれこれは、心の中でだけ吐露する。
タロー様には開けちゃダメですよ、とお願いしたベッドサイドのチェストの中には、通販した夜のグッズがわんさかとあるのだ。
いつもの恋煩いと言われるくらいには、日々嘆いては泣きながら立ち上がって告白のタイミングを探し、物陰から見守る毎日。
それくらいには本気でゼオ様に身も心も捧げたい俺だが、受け取ってもらったことがない。
なので魔王様たちと違いどんなアピールもなしの礫なゼオ様を思い出し、丸くなっているのである。
あぁ、なぜですか。筋トレは怠っていないし、笑顔の練習も継続中ですよ。
(緊張モードの傲慢なニヤリ顔にならないよう、ゆるりとしたシャル様の笑顔を参考に鏡とにらめっこしているのに……!)
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