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第560話(sideキャット)
「にゃんにゃん、私、それしてもいいかなぁ……。ええとね、んと、りすぺくと、する。……私がしてもいいかな……? わがままだって、しかられない?」
魔王様のパペットからシャル様のパペットを離して、シャル様のパペットで口元を隠しながら上目遣いに告げられる。
不安だけだったその目には、期待が混じっていた。迷いと不安と期待。
子供らしい苦悩と成長に満ちた瞳は愛しさすら感じて、俺は魔王様のパペットをシャル様のパペットにくっつけ、キスをしてみせた。
静かな夜のお泊まり会は、恋バナだけが醍醐味ではありません。
パパにも、お父さんにも、秘密のお話ができるんですよ?
「タロー様のパパとお父さんはですね、いろんなひとにたくさん、何度も、お前たちは一緒にいちゃいけないと叱られたんです」
「! ひどいこと! ばりぞーごん……!」
「そうです。罵詈雑言。俺は天界……遠い空の国までお二人のお供をしました。魔王様は泣いて、シャル様は泣いて、それでも一緒にいたいと、二人でこの魔王城にまた帰ってきたんです。とってもかっこいい!」
「そうなんだねっ、うん、かっこいい……! まおちゃんとしゃるは、いっしょじゃないとへん!」
「そうです! でも、その仲間にタロー様も入っています」
「えっ……? あ、あぅ……う、うん。そだと、おもうの」
ニコニコとそう言うと、彼女は困惑して、それからその自覚があるのか、コクリと頷いた。
「シャル様はいつもタロー様に嫌いと言いますか?」
「うぅん。あいしてるぞ、きょうもだいすきだ、おまえはまいにちすてき。いっぱい、そういう……」
「ね? 魔王様はいつもタロー様にあっちに行けと言いますか?」
「うぅん。おれのそばにいろ、かってにはなれるな、おれがまもる、そういう。……いっぱい、そういうよ!」
思い出を振り返ったタロー様は、次第に笑顔になっていく。
自分がいかに二人に愛されているか。それを思い出したのだ。
あの二人は二人共が愛情深く、ひたむきで、眩いくらい惜しみない愛し方をする。
なにに変えても愛する人を幸福にするという愛し方。
散々世界に不幸だと言われ続けた二人だから、その気持ちはひとしお。
「片割れの恋を貫くのが俺の愛し方。だけどそんな二人と両想いのタロー様は、離れちゃえと言うまわりの人の言うことは、耳をふさいであーあー! 魔王様とシャル様の大好き! って言葉だけ、信じていれば大丈夫です!」
俺が胸を張ってそう言うと、苦悩していた彼女はとびきりの笑顔を見せてくれた。
なにかを決意したような、吹っ切れたような、明るい笑顔。
俺にはそれが〝両親が子どもに贈った愛情の結論〟に見えた。
彼女が俺の質問に答えるたびに自信を持ち、笑顔に幸福をにじませていくのが、なによりの証拠。
それを邪魔する世界があるなら──臨時シッターの俺は、持てる全ての力を使って抗うだろうと、確信するくらいに。
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