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第561話(sideキャット)
──そうして二人で笑い合っていた時だ。
突然部屋の明かりが全て消え、キィン、と高い金属音のような音が聞こえた。
「……タロー様、俺の後ろに。決して動かないで。付与魔法をかけます」
望まれない来訪者の気配。
不穏なそれを感じた俺は、素早く身体強化をかけ戦闘態勢に入った。
自分の手から抜き取ったパペットをタロー様に手渡し、背後に庇う。
それから「風、物理防御耐性、魔法防御耐性」と唱えると、体内の力が相当量抜ける代わりに、タロー様にバフがかかる。
他人に付与魔法をかけるのは、かなりの魔力を消費するのだ。それでもせいぜい二時間くらいしかかからない。
回復魔法が得意な者が少ないのも考えると、たぶん、根っから魔族は守ることに向いていない種族なんだ。
それでも俺は、守らなけらばならない。
「っ、にゃんにゃ、だめ」
大きく広げた翼の影でタロー様は恐怖からなのか震え、俺を制止した。
生後一年も経っていない彼女が怯えるのも無理はない。敵は姿を現していないからだ。
夜鳥の声すら聞こえない、静かな室内。静寂の夜。
「大丈夫ですよ。俺はグリフォール、グリフォールは財宝の番人……防御が得意な種類なんです。ね」
これは、詭弁だ。
いつも味方陣地を守っている俺は、本当は一人だけの生き物を守ることなんてこと、滅多にない。
今は一人きりだし、魔力も消費している。自信はない。得意でもない。自分の防御力と他者を守ることは、同義じゃないからだ。
だがそうも言ってられないだろう。
ついさっき俺は守ると意気込んだところで、有言実行すべき。
それが魔界軍空軍長補佐官の仕事。
俺はニコリと笑って見せ、安心してもらおうと思った。
けれどタロー様の表情は、変わらない。
「ううん、ちがう、そうじゃない……っにゃんにゃん、みえてないの……?」
「え……?」
「このへや、色がなくなったよ」
〝色がない〟
俺の目には月明かりまで色鮮やかに見えるこの部屋の中で、精霊族であるタロー様には、モノクロに見える……?
それじゃあ敵は、精霊族?
なんで、そんなバカな。なにかの間違いに決まっている。
魔王様とシャル様、そして魔王様の近衛兵黒人狼部隊と、リューオ様。
彼らは今、精霊族に呼ばれ、霊界にいるんだぞ?
「た、タロー様は精霊族……同族なのに……っ」
冷や汗が頬を伝った。
どれだけ明確な敵を探そうとも、展開したグリフォールの固有スキル、魔力警戒には引っかかっていない。
そう、引っかかっていないのだ。
この魔王城には、魔族が犇いているというのに 。
魔力を持たず、タロー様には感知できる力を持つ種族の、攻撃。
魔王城とこの部屋を切り離す能力。
それはつまり……──
「ッ、まさかもう俺たちは、上位精霊の空間支配下にいるのか……ッ!?」
「──ご名答」
聞き馴染みのない静かなバリトンボイスがどこからか聞こえ、俺の予想を裏づけた。
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