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第570話(sideタロー)
右王腕様に攫われた後、私は気がついたら、ベショッ、と吊られた鳥かごの中に落ちていた。
よくわからないけれど、空間を作れる右王腕様だから、私を空間を使って鳥かごに送ることも出来ると思う。
ここは、どこだろう。
キョロキョロと周囲を見てみるけれど、鳥かご以外はなにもなくて、よくわからない。
だけど、この冷たさと静けさには、覚えがあるような気がした。
「ふっ……ぅ、にゃんにゃ……」
私は傷のない体でしゃるとまおちゃんのお人形さんを抱き抱え、小さくなる。
にゃんにゃんは、傷だらけだった。
私を守って、たくさん傷だらけだった。
私には見えていた右王腕様の姿が見えないにゃんにゃんは、それでも一生懸命私を守ってくれたのに。
私は怖くて、助けてって言えなくて、行きたくないって言えなくて。
にゃんにゃんに隠れて私に近づこうとしていることを、教えてあげられなかった。
大切なことを教えてくれた友達なのに、私は……なにもできなかった。
「うっ……ひっく……ごめ、ごめんなさい……っ」
ポロポロと涙が零れて、目元を擦っても擦っても、止まらない。
全部、私が黙っていたからだ。
みんなと家族でいるのが幸せで、私は、ワガママを押し通した。
親という人が、私にはいなかったから。
シャルが私をあっためてくれて、まおちゃんが私をころころしてくれて、勝手に、二人が私の親になってくれたらって、思ったから。
私は〝ジズ〟じゃなくて──……〝タロー〟で、いたくなった。
『さぁ、口を開けて。美味しいか? ふふふ、お前のために作ったんだ。今日もタローが笑顔で、シャルは幸せだぞ』
『積み木はこうだ。いいか? 外壁を強固に、んん、ガッシン! ってしねぇと、敵がきたら危ねぇぜ。あぁ? 俺のそばにいれば、お前は俺が守ってやる。タローは俺とシャルの娘だからな』
本当は、本当は、私に親はいないのに。
私はダメな子。いけない子だね。悪い子だね。
にゃんにゃんみたいに、私はちっとも強くない。たくさんの人に迷惑をかけてまで、私は私を貫けない。
じっと二人のお人形さんを手に、俯く私の涙が落ちていくのを、どうしようもなく見つめる。
ニコリと笑ってくれるシャルが恋しい。
ツンと抱きしめてくれるまおちゃんが恋しい。
わかってる。
ここはきっと精霊城で、きっと私が元いた鳥かごだって。
もう、あのあったかい魔王城へは、戻れないんだって。
「でも……もっと、もっとね、いっしょにいたいの……っ……たすけて、って……わがまま、わたし……っ」
グスン、グスン。
誰もいない部屋の中に、叶わない言葉がから回った。
もっと早く言えばよかった。
精霊界へ行かないで、私といっしょにいて。私、ここにいたい。助けて、守って、お父さん、パパって、言えばよかった。
自分がなになのか、どうして魔界にたどり着いたのか、精霊族の儀式のこと、全部話しておけばよかった。
都合の悪いことは全部隠して、なにも知らないフリをしたから、一番悪いことが起こっちゃったんだよ。
私、知ってたのに。
知ってたのに……!
シャルとまおちゃんが私を愛してくれていること、必ず私を守ってくれること、知ってたのに、信じなかった。
「ご、ごめんねぇ……ごめんねぇ……っ、私、しゃるがおるすばんしてていいよっていったのに、ありがとうも、言ってないぃぃ……っ」
私がなにも言わないからなにもわからないのに、みんな私を守ろうとしてくれたのだ。
だから私今、ここに一人でいるのは、じごうじとく。
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