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第573話(sideタロー)

 お人形さんは入口の前でフワフワと浮かんで二人並び、魔法で動かしているのか、ぎこちなく手を振っている。  入口が閉まって部屋の中がまた薄暗い寂しい色になっても、お人形さんはフワフワと浮かんでダンスをしていた。  ポカン、と口を開けたままの私。  だって、私にはこっそりと部屋の中に入ってきた人が、ちゃんと見えていたから。  ポスン。 「あっ」 『ニゲル。フカコウリョク』  お人形がフワリと飛んで私の手の中に戻ってきても、それは変わらない。  代わりに逃げ出したコウモリさんが鳥かごの隙間をすり抜けて、逆さまになって天井に張り付いても、私はすぐにかごの前へ立っている人に視線を戻した。  黒い人。  黒い人は──私のパパ。  シャルがいないとしょんぼりしちゃうところも、つまんないって顔に見えてそれは普通なところも、知っている。  私が目の届かないところに行くとすぐ連れに来てくれるところも。 「ま、まおちゃん……っ!」 「あッ馬鹿野郎ッ、しー、だぜ……!」  どうして私がわかったのかわからないけれど、お人形を取り返してきてくれたまおちゃんに、私はかごごしに手を伸ばして抱きついた。  静かにしなさいと叱るけれど、すぐにまおちゃんも私を抱きしめてくれる。  あったかい。  本物のまおちゃん、私のパパだ! 「まおちゃん、まおちゃん、まおちゃん、」 「ん。なんだよ。俺だぜ」  涙が止まった真っ赤なお目目で静かにまおちゃんを呼ぶと、まおちゃんは全部にうんうんと応えてくれた。  まおちゃん、精霊城でも変わらない。  服はなんだか違っているけど、黒いから一緒! ガドくんの服みたい。かっこいい。  来てくれた。  ほんとに守りに来てくれた。  うぅ〜っかっこいい! この人、私のパパだよ! えへへ、えへへ。  嬉しくってにへにへと笑ってしまうと、仏頂面で私をそーっとなでていたまおちゃんは、頭にポンと手を置いて体を離す。 「タロー。やっぱり俺の夜間気配隠蔽スキル効かねぇのか」 「んむー。夜でもまおちゃんみえるよ。私、まおちゃんだいすきだもん。えと、あいはいだい!」 「グルルル。誰に聞いたんだそれは」  まおちゃんはわんこみたいに唸ったけれど、これは照れ隠し。  だから私の頭をわっしゃわっしゃと真剣になでてくれて、私は余計にニコニコと笑った。  それからどうしてまおちゃんがお人形さんを持ってきてくれたのか聞くと、まおちゃんはまたグルルと唸る。 「お人形さんを捕まえたのは、人形とは言え他人の手の中にシャルと俺がいたのが気に食わなかったからだぜ」  ふむふむ。わからないけどこれは機嫌がよくない唸り声だから、まおちゃんもお人形さんを盗られたのは許せなかったみたい。  まおちゃんは身代わり? になる小動物をまおちゃんに見立てて、お出かけするところだったんだって。  お出かけする前に、私が捕まっているこのお部屋に私が来たか見に行こうと思った。  そしたらお人形さんを持った左王腕様を見つけたから、こっそり没収したって言ったよ。  よくわかんないけど、まおちゃんは凄い。  凄くてかっこいい、私の自慢のパパだ。

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