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第581話

 ──数日後。  さて。  あの日改めて個人としてよろしくとなった俺たち三人は、まず儀式の日に精霊城に乗り込む算段をつけた。  ちなみにチーム名は〝やっつけ三人組〟。  その名の通り適当に付けたのだ。  ガルによると精霊城には攫われてきたタローが既に囚われているのだが、儀式の時まで外には出されない。  だから来賓という立場を利用しワガママな妃を装って、敵の撹乱をしようということである。  それを聞いた時はタローに傷がなかったかと、ガルに詰め寄った俺だ。  剣を召喚して「傷があったら用事ができてしまう」と言うと、ガルは無傷だと言ってくれた。  曰く、キャットが守ってくれたらしい。  帰ったら改めてお礼をしよう。  当事者であるタローにはボロが出ないよう計画を話していないが、アゼルがフォローを入れたおかげか、やる気満々でお留守番をしているそうだ。  流石魔王の娘。  アゼルの魔王学を日々聞かされているタローは、アゼルの言葉でメキッと強くなる。  アゼルはな、昔と比べて、ずいぶんハートの強い男になった。  不器用なのは相変わらず。  けれど、自分にはなまるをあげられるようになったのだ。  つまり俺や仲間たちが自分のことを大切に思ってくれている、自信が持てるようになった。  だからアゼルはタローを、自分がしてもらったように愛している。  タローの強さは俺とアゼルのハイブリッド。  閑話休題。話を戻そう。  ……俺は旦那さんと娘のことを思い出すと、つい口数が多くなる。反省だな。  とにかくタローが迎えを待って儀式まで大人しくしていてくれている間に、大人は動かねばならないということだ。  戦場は午後の儀式に向けての立食パーティー。  儀式が終わるまで監視付きで隔離されている俺たちは、当然招待状を貰っていない。  洗脳されたフリをしているアゼルはもちろん招待されている。  されているが、神扉を解放して儀式が始まってから不意を突くために、ボロを出すわけにはいかない。  だから俺たちが代わりに動き、ついでにヘイトも集める魂胆だった。  ガタンゴトン、ガタンゴトン、と揺れる馬車の中、俺とリューオは向かい合って座り、お互いをじっと見つめる。 「まさかユリスに贈って突っ返され、召喚領域のこやしになっていた美容グッズが役に立つとは思わなかったぜ」 「そしてまさかその美容グッズとユリス仕込みの技術を、俺が施されるとは思わなかったぞ」  淡々とした呟きに真顔で返し、同時にそっと目を逸らした。  ──なにがどうしてなんともいえない空気感になっているのかと言うと、かんたんだ。  俺とリューオはパーティーに相応しいビジュアルを手に入れるべく、ふたりぼっちのビューティーコロシアムを行ったからである。  いやいや、至って真剣だぞ?  ガルが用意した正装に身を包み、髪や肌を整え、少しでも見栄えを良くしてだな。  こう、美しさを磨き、有無を言わせない威圧感を増すためなのだ。  俺は豪華な衣装が映えない地味顔なので、ネイビーの体にフィットする衣服で、刺繍が美しい大判の布で飾る。  片耳にはアゼルのピアスを着け、魔封じのチョーカーは詰襟の中へ隠した。  代わりに細いチェーンにしずく型の石がいくつか付いたネックレスを、形違いで二本かけている。  相対するリューオは威圧感のある顔なのでいつもの軍服ではなく、勇者時代のゴテゴテな鎧を着るだけに留めた。  そして俺たちはプラス、メイクアップ。  フェイスマッサージはもちろん、トリートメントに香油、美容液パックをキメた。  魔界のメイク道具で眠たげな目元はキリッとさせられたし、唇は桃色だ。  やや太めだった眉も整えられたぞ。  当然俺がプルプルになったということは、リューオもプルプルである。  ついでに言えば、リューオの聖剣でお互いムダ毛はツルツルだ。  そっと顔を逸らす。  馬車の窓に映る自分をじっと見つめると、俺はつい頬をムニ、とつねってしまった。  むむむ……俺じゃないみたいだ……アゼルの好みはどっちなんだろうか……。

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