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第595話(sideアマダ)

 離れでのやりとりも、シャルは尋ねられたことにありのままを答えただけだが、アマダにそれは届いていない。  思い出話を語りながら無意識に〝お前よりも俺のほうが価値があるだろう?〟とあてつけていたことも、気づいていない。  無意識だからこそ、改めて面と向かって言い難いことを指摘し、アマダを真っ向から叱ったシャルが、嫌いだ。  アマダよりずいぶん恵まれているのに、愛されているのに、唯一欲した人さえ許されない。  それは逆恨みや逆ギレに等しい感情だったが、やはりそれもアマダは気がついていなかった。  天界の策略と生い立ちから悪意を向けられていたアゼルと、本当のところ、アマダは違う。  ガルだけが気づいていることだ。  アマダは、愛されすぎていた。  初めから愛されすぎていたから、それをノーマルだと捉え、それ以上の愛が与えられなければ愛されていないと思い込む。  それではアマダを愛する人の想いは報われないが、それも気が付かない。  いつの間にか兄の姿が見えなくなり、儀式の準備が整った頃。 「開扉!」  アマダが儀式の開始を告げる言葉を発すると、大小様々な精霊族が踊り、空を彩る。  ルノたち司祭がシャン、と鈴なりの祭事具を振ると、光の粒子が霊法となって舞い上がった。  あの祭事具は精霊石の精導具に魔石を組み込んだ、貴重なものだ。  暴れ物の魔石を使うことで精霊石の出力をあげる。今年の顔合わせは、このための取引であった。  舞い上がった粒子が神殿を螺旋状に包み込み、徐々に神殿の大広間が開いていく。  粒子が神殿を透かすのだ。  大広間は扉が開くように開くのではなく、生き物が通れるよう、透ける。  シャン、シャン、と鈴の音が風と共に夜の広場を駆け抜け、楽隊が音楽を奏で始めた。  ゴゴゴゴゴ、と地響きのような音が響き、中から十メートルを超える全長の豪奢な扉が現れる。  あれが神扉。  一の扉を開くと、その中の空間に、二の扉が封じられている二重構造だ。  チラリと視線をやる。  真ん中の広い道を神輿が通り、華々しく扉を目指して進むパレード。  神輿に鳥かごごと乗せられたジズの首から、鍵となる神石がさげられていた。  一の扉を開ければ、緩んだ二の扉の隙間から、神霊様がこちらを見ているだろう。  その二の扉に鍵を当てるならば、ジズは内側へ引き込まれる。  逃げられない距離だ。  だから、供物。 「…………」  アマダは神輿へ向けていた視線を外し、王座に座る自分の隣で佇む、魔王へ目を向けた。  五年間、片想いを続けるだけの日々。  不器用でぎこちない人物だとわかっていたから、明るく気さくにしていれば、親しくなれると思っていた。  それを気づかないうちに横から奪われ、奪った人物はアマダに厳しいことばかり言う。  セファーはアマダのほうが王として対等であり、美しく優しいと言ってくれるけれど、シャルも勇者も、そうは思っていないらしい。  シャルを愛する魔王を、無理やり奪うわけには行かない。  様子がおかしいので洗脳というのは気がついたが、それはセファーが勝手にしたことだ。  だから、こうして寄り添って尽くすことで、振り向いてほしいと祈るだけ。 (アゼリディアス、俺は待っているんだ。今も昔も、お前が振り向いてくれるのを、俺はずっと待っている)  本当の愛というものが、欲しい。  なにもかもを持っている最強の存在に、愛されたい。  叶わない恋を続けるのは悲しいけれど、自分が人間の妃より深く愛しているという、自負があった。

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