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第599話(sideアマダ)
「離せッ! 貴様の相手をしているほど、私は暇ではないッ! 王が魔王に……っ」
飛びかかって剣を振るいセファーの足止めをする勇者に、セファーが叫んだ。
繊細で美しい顔を焦燥に歪め、白い長髪を瓦礫の砂ぼこりが汚しているのも気にせず、悲鳴や怒声が上がる戦場と化した地獄で、アマダを見つめている。
だがアマダはセファーに視線をやらなかった。
無視したわけじゃない。眼中にも入らなければ、耳に声も届かなかっただけだ。
「はッ! 政治担当の文官が精霊王サマを守るってかァ? 自分一人で? 精霊族ってのはやっぱ冷てェなァッ!」
「同感です」
温和な声と共に、セファーの足元にドサッ! と黒い塊が落とされた。
「くっ、ジファー……っ」
それは双子の弟であるジファーだ。
簀巻きにされて気絶しているジファーは、自慢の艶やかな黒い長髪が焦げてチリチリとしている。
ジファーがなにをしていて姿を見せていなかったのかなんて、知らない。
アマダの知らないことだ。
バサッバサッと羽ばたく音がしてアマダが振り返ると、陸軍長官の土魔法で荒れた石畳の上に、二人の魔族がいた。
「自分の国の軍事のトップが帰ってこないというのに、誰一人助けに来ないのですから。弱肉強食の魔族でも、家族くらいは守りますよ」
夕焼け色の翼を折りたたみ困ったように微笑む長身の麗人は、不死鳥である魔界宰相──ライゼフォン・アマラードだ。
そしてその隣で機械仕掛けの箱を背負い、小柄だが本人の体躯ほどもある魔導具を構えている少年を見て、勇者が凶悪犯のような悪辣な笑顔を浮かべる。
「というか、未帰還の時の決め事もなく単独先行させるような杜撰な戦略、戦闘のエキスパートである魔族はしないよっ! 脳みそないんじゃないっ?」
彼はたぶん海軍長官の息子だ。
魔法学園を首席で卒業した一級の魔導具研究員──ユーリセッツ・ケトマゴ。会うのは初めてだと思う。
「ウォォォ生ユリスゥゥゥッ!」
「バカにゃんこ、ステイ。あそこ潰されたくなければシリアスシーンに水差さないで。……終わったらちょびっとだけ、抱き着いてもいいよっ」
「オラァ! 最速で叩きのめしてやるッ!」
「ぅぐッ、くそッ」
ユリスの言葉を聞いた瞬間セファーに向かってノーモーションで剣を叩きつけた勇者は喜色満面で、セファーは苦しげにどうにか躱し、押さえ込む。ギリギリだ。
「魔王様」
「っ」
「よお、ライゼン。タイミングぴったりだったぜ」
億劫そうにアマダを見つめていた魔王が地面からほほえみと共に声をかけたライゼンに、喉を鳴らして機嫌のいい笑顔を見せる。
そんな顔、向けられたことがない。
子どものように無邪気な笑顔。ライゼンを心底信頼している笑顔。
「扉に精霊族が近づかないよう、陸軍がうまく押し返しています。援軍の阻止と逃げ出す精霊族が射程範囲に入らないように、空軍が見張っていますよ。うぅん、ちょっとだけ激しいんですけどね……」
「ガドに言っとけよ。シャルとタローを落としたらファイナルステージは俺とお前のデスマッチだってな」
「なるほど。そっぽを向いていたのではなく、シャルさんたちを見ていたのですね。一ヶ月ぶりなのにお変わりなく平常運転でうれしいです、我が王」
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