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第608話

 あぁそうそう。  それから、アマダたちの話だな。  ライゼンさんに回復してもらったセファーと、その双子の弟らしいジファー。  セファーは予想通り、アマダに恋していた。  そのせいで、暴走思考になっていたのだ。それに精霊族至上主義でもあった。  なんでそんな、俺たちの敵になりそうな要素が盛りだくさんだったのか。  ジファーもアマダが好きだった。  アマダの役に立たなければ、いつも共にいるからこそ、自分は見てもらえないと思ったそうだ。  だから魔界に侵入するのは良くないと思いつつも、タローは元々精霊族のものなので、取り返してもいいと結論づけたと言う。  もう、もう。  この困ったさんたちめ。  俺は話を聞いて、レンガの広場に正座をする二人を前に、無言でビシビシッ! とデコピンをした。 『『いッ』』 『これはアゼルのぶん。これはタローのぶん。これはリューオのぶん。これはユリスのぶん。これはガドのぶん。これはライゼンさんのぶん。これはキャットのぶん。これはゼオのぶん……』 『『いっ、痛い、痛い(ですよ)!』』 『そしてこれは──今回困ったみんなのぶんだ!』 『『ぐッ! じ、自分のぶんはいいの(ですか)!?』』 『いい!』  連続でビシビシすると、双子はカラーリングと性格は違うのに同じ表情でポカンとする。  そしてこの後──双子は悲惨だった。  リューオによってボコボコにされたセファーは、神霊を追い返したアゼルによって、十分の九殺しにされたのだ。  つまり、魔族最強と人間最強のタッグ攻撃を受けたことになる。  慌てた俺がリューオに理由を聞くと、こう。 『だってコイツ、この俺とついでにシャルと、そのまたついでに魔王をハメやがったんだぜッ? 俺は数々の嫌がらせを忘れてねェかンなッ! 真・勇者必殺バックドロップッ!』 『ぐぇッ!』 『あぁっ、アマダーっ!』  リューオはそう言って唸り、ついでとばかりにアマダに見事なバックドロップをかましていた。  こらこら、待て待て。  同盟国の王様相手に、バックドロップはいけない。政治的にまずい。  精霊族がどよめいたが、アマダ愛好団体のトップである双子がのびているので、手出しできず、である。 (……というか、離れの数々の不具合はセファーの嫌がらせだったのか……)  俺は別にいいかと思っていたのだが、あれは明確に嫌がらせだったらしい。ビックリだ。  それを聞いたアゼルがライゼンさんに回復を命じて、再度十分の九殺しにしていた。  オーバーキルすぎる。  やはり魔王、一番大人気ない。  そしてそのアゼルはセファーどころかジファーまで十分の九殺しおかわり、と洒落こんだのだが。  その理由は、こう。 『つまりこれまで大人しかったのは、我慢してただけだ。我慢してただけなんだよ、俺はな……。……先輩王様直々・教育的キックッ!』 『グハッ!』 『あぁっ、またかっ!』  アゼルは思うところが山のようにあったのに、ずーっと我慢していただけだ、と言って、アマダに蹴りを入れた。  またしても、ノックアウトアマダ。  どうして二人とも必殺技のような名前を叫び、助走をつけて仕留めるのだろうか。  そして魔王の愉快な仲間たち。  そわそわと次は俺なとでも言いたげな顔で並ぶんじゃない。  魔導具を構える非武闘派のユリスも驚きだが、ライゼンさんがその列を整えていたのが一番強烈だった。  魔界のみんなは、やはり根が魔族である。

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