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第610話
「ん。だから特大ケーキを焼いたんだぞ? ケーキ入刀するんだろう」
「! 結婚ケーキかっ」
「けっこんケーキ!」
クスクスと笑いながら特大ケーキを手に近づくと、アゼルとタローが同じように目を輝かせてこちらを見た。
似た者親子だな。
タローも今回はたくさん頑張ったから、ご褒美を貰っていいはずだ。
三段重ねの特大ケーキは、いわゆるウェディングケーキを模して俺が作ったものである。
マジパンで作ったミニマムな俺とアゼル、タローもいるぞ。自信作である。ふふふん。
ベッドのそばのテーブルにトン、と置くと、二人は揃ってベッドの上で正座した。
胸を張る俺の前で、ケーキを見つめて大興奮だ。
かわいいな。頑張って作った甲斐があったぞ。
「ふぉぉ〜! おっきいケーキだねぇ! これが〝きょどさーぎょ〟のケーキ?」
「そうだぜ。本によれば、結婚した番が初めてする共同作業は、ケーキを真っ二つにすることらしい。真っ二つにしたケーキは、家族やトモダチに振る舞うのが粋なんだぜ」
「かぞく! ともだち! ねぇねぇおとーさんっ、それじゃあみんなも呼んでいい?」
得意げなアゼルの説明を聞いたタローはにこにこと笑いながら、魔王城のみんなも呼ぼうと言った。
もちろんだとも。
今まで二人っきりの結婚式ばかりあげていた俺たちだが、みんなに祝ってもらうのはとても幸せに決まっている。
俺を見上げる愛らしい瞳にこっくりと頷いて、親指を立てた。
「もちろん構わないぞ。じゃあみんなも呼びに──」
「フッフゥ〜! 呼ばれなくてもジャンジャジャァン?」
──突然聞こえた軽い声と、ドガシャァンッ! という激しい破壊音。
弾け飛んだのはデッキに繋がった窓だ。
いつの間にここはハリウッドになったのだろう。スタントマンも真っ青である。これは酷い。
「来たな、破壊神。闇、深淵」
ゲゲッ! と眉間にシワを寄せるアゼルは、慣れたように魔法を使って破片を闇の中に片付けた。
しかし侵入者に「でも追い出さねェだろォ」と言われ、返す言葉を失っている。
アゼルはツンデレさんだからな。
追い出さないということは、別に窓の一枚や二枚、構わないのである。
「匂いに釣られて飛んできたら、楽しそうなことやってんなァ〜?」
もはやお約束である窓からの侵入者は、もちろんいつものあの男。
俺の初めての友人でありアゼルの義弟でありタローの義叔父にあたる、ガドだった。
ガドはブォンブォンと機嫌よく尻尾を振り、無傷でベッドに近寄ってアゼルの隣にドスンッ! とダイブする。
「ガド! 俺とシャルの間の空間に入るんじゃねぇぜッ。俺とシャルがサンドイッチのパンなら、具になっていいのはタローしかダメだッ」
するとベッドにいたアゼルがタローを抱きながら、ガドに唸り声を上げた。
元々空いていた空間にガドがすっぽり収まっただけだが、アゼル的にガドは遮蔽物と判定されたらしい。
「んっん〜。ダメだぜ、ダーメ。俺をのけ者にするなんて、そんなのひでぇよう。いじわる兄ちゃんは仮病だってシャルにバラ「グルルルッ! ウォンッガゥッ!」クックック。もうバレてっけどな〜」
「キャインッ!?」
だけど対するガドはメンタル攻撃を仕掛けて、ごろ寝を敢行していた。
強い。空軍長官強い。
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