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第611話

 尻尾をくねらせ、アゼルがニョロリと伸ばした鎌でつついてくるのをペシペシと避ける。 「魔王一人でのほほんコンボのパラダイスなんて、いけないなァ? この世の愉快はぜぇんぶ俺も楽しむ権利がある。空軍長官ってのは、そーゆー仕事だろ?」 「フンッ。全然、全然仮病じゃねぇ。魔王はシャルとタローに癒されるのが仕事だろうが! 俺が本職だ! いいか? 俺はケーキを一刀両断で殺害したら、夜には川の字で眠るんだよ……! バレるわけにはいかねぇ……!」  そわそわとしながら親の仇のようにガドを睨み、アゼルは唸った。  アゼル、大丈夫。  それは隠さなくていいんだ。  ショックで石化しているところ申し訳ないが、病名が〝シャル不足〟の時点でバレバレだったから気にすることはないぞ?  そう言うと、アゼルは余計に黙り込んでタローを抱きしめ、幼女の癒しを補給していた。  むむ、相変わらずの照れ屋さんだな。  別に構わないのに。  抱かれるタローはタローでパァァ……! と表情を明るくさせ、アゼルのハグをものともしてない。  強い。幼女強い。  アゼルのツンデレには生まれた時からの付き合いなので、慣れっこなのである。  そんなわけで──俺の強制聖徳太子イベントが勃発。  ツンデレと幼女と自由人が、各々一斉に俺に向かって話し始めた。アゼルは謎の呟きだが。  試されるのは、俺のお父さん力だ。  旦那力の進化系である。ユリスがそう言っていたぞ。 「仮病がバレバレ……だと……? ということは倒れたのは本当だが実は今朝には全快していて、動けないふりをしてシャルとタローを合法的に独り占めしようとしていたのが……バレていたとでも言うのか……?」 「わぁいガドくんきたね! みんな呼びたいな〜。ガドくんと、さいしょーさんと、ゆんちゃんと、ガオガオと、にゃんにゃんと、ゼオさま〜。あと、まるお〜! マルちゃんはへんだからめっ」 「シャァルゥ〜。なでてくれよう。存分になででてくれよう。俺はケーキも食べたいぜィ? いちごのところは予約するから、絶対俺の。な? そうだろ〜?」 「そんなの……そんなの俺は客観的にダメっ子じゃねぇかッ! かっこよくない! カッコよくないのはダメだ! 俺は〝俺の旦那さんは世界一素敵だ〟と〝パパかっこいい〟を貰うためだけに頑張ってたところありまくりだったってのに、これじゃ仮病の魔王アゼリディアスになっちまう!」 「おとーさん、きいてっ! そんでね! そんでね! しゅくだいのドリルもちゃんとしたの、あとで見て〜! はなまるだと思うよっ、へへへ〜っ」 「ハッ! 今から手足の一本や二本もげば仮病じゃなくなるんだめだ俺って三秒で全快する系魔王だったぁぁぁぁ……ッ!」 「イチゴのとこと〜クリームたっぷりのとこと〜この花飾りのとこは、俺の。俺のだぜ〜」  一度目を閉じて腕を組み、うんうんと頷いて全神経を耳に集中させ、話を理解する。  身体強化も使って、本気の聞き耳だ。

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