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1:声無きカナリア

「ふん!泣きわめきもしないΩなど、遊びにもならんわ!」 そんな声と共に振るわれるαからの暴力。その暴力を、Ωであるイリは黙って受け入れるしかない。そもそも、声を発することの出来ないイリは、助けを呼ぶことすら出来ないのだ。 この狭い汚い部屋の中で、イリが暴力を振るわれていることを誰もが知っている。それでも、誰もイリを助けに行こうとしないのは、イリの見た目であった。 イリは、αの子を孕むための道具であるΩであるのに冴えない見た目をしていたのだ。Ωは、αを欲情させるために美しい見た目をして産まれるというのにだ。 見た目の冴えないΩであるイリは、そのせいで親にも捨てられこの店で働くことになった。 この店、Ω専門の遊郭。一時の快楽と美しいΩを買う為に金を持つαがこぞって訪れる。それは、人間のαも、そして特別な存在である獣人のαもそうだった。 そんな場所で、見た目のさえないイリが蔑ろにされるのは当たり前のことだった。 「―――本当、お前みたいなΩがこの店にいること自体がおかしいんだ」 「っ、」 それはイリ自身が1番分かっていることだ。しかし、それでもこの場所しかイリの居場所はない。 どんなに蔑ろにされても、暴力を振るわれても。それでもイリはΩなのだ。αに媚を売り、そして守ってもらわなければ生きることすらできない。 「まぁ、お前みたいなΩは、αのストレス発散の道具にはなるだろうな。βだけでは飽きるからなぁ」 今のαの言葉に、イリはただ唇を噛み締めることしかできなかった。 αにとって、βもΩも道具だ。しかし、αの子を孕めるのはΩだけなので、Ωは大切にされる。βは大切になどされない。そして、イリもだ。 仕方ない。自分は見た目のさえないΩだから、声を出してαを楽しませることができないΩだから仕方がない。 そう思って耐えることしか、イリには出来ないのだ。 いつか、この汚い小さな籠の中から飛び立てることを夢見て。決して、叶うことのない願いだと分かっていながらも。 願わずにはいられなかった。

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