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第15話
家に帰ると、朱音さんはいませんでした。
また出かけているみたいです。
小生は、空薇の世話を一通りし。
少し疲れたので眠ることにしました。
小生の隣で、空薇はすぅすぅと寝息を立て、眠ります。
とても幸せです。
暖かい日差しが気持ち良く、外では小鳥が囀ります。
「空薇……。あなたは、朱音さんのようにならないでね」
そして、小生のように酷い目に遭わないでほしいです。
周りと変わらず、普通に生きてほしいです。
仲間と笑ったり泣いたり、時には喧嘩をして、仲直りをして。
小生が、あまりできなかったことを。
たくさん経験して、たくさんお話をしてほしいです。
「おやすみ」
⊿
目を覚ますと、玄関の方で声が聞こえました。
朱音さんと、誰かしらない人です。
女……でしょうか。
部屋から顔を出すと、玄関の方からキツい香水の臭いがします。
信じられませんでした。
小生や空薇は、匂いに敏感です。
それは、解っているはずです。
それなのに、そんなキツい臭いのする人を連れてくるなんて。
小生は、許せませんでした。
もう我慢の限界です。
部屋から出て、扉をきっちり閉めます。
そして、台所にある出刃包丁を後ろに隠しながら、玄関に行きます。
「おかえりなさい、あなた」
小生が言うと、朱音さんは小生を見て、ビクッとします。
「た、ただいま……。お前から話しかけてくるなんて、珍しいな」
「そうですか? ところで、そちらは?」
「こっちは、柚子原 さん。行きつけのバーの店員」
「そんな人がどうして?」
「どうだって良いだろ?」
「……そうですね。どうだって良いです」
もうどうでも良い。
あなたは、変わりません。
変わろうとすらしてくれません。
「あの、柚子原さん」
小生は、キツい臭いの女に言います。
「今、娘が眠っています。だから、今日のところは帰ってくれませんか?」
「娘? え、木田さん、子供いるの? 信じらんない! じゃあ、この人がパートナーってこと? 嫌!」
「え、ちょっ」
女の台詞に、朱音さんは少し慌てました。
が。
だからといって、向こうがどうってことはありません。
素早く立ち去って行きました。
⊿
それを見て、小生は小さく息を吐きます。
朱音さんは、無言で小生を殴ります。
「どうしてくれるんだ!」
「何がですか……」
「あともう少しだったのに」
「……そうやって、いつもいつも色んな女と遊んで。あなたは暇で良いですね。子育ても何もしない。聞いてくれない」
「だから、お前が勝手に孕んだんだろ!?」
「違います。全部、全部! あなたが悪いんですよ!」
小生は、何も悪くありません。
文句を言わず、頑張ってやってきました。
「どういう神経をしているんですか? 勝手に孕ませて。それで、勝手に人の家に住んで。小生は、ここにあなたが住んで良いなんて言っていません。嫌なら出て行けば良いじゃないですか!」
「んだと、てめえ!」
「あなたが、人に文句を言うことはできません。そんなことして良いはずがありません。出て行ってください。どうせ、他にも女はいるんでしょ?」
「っ」
「もう関わらないでください。小生は、娘と暮らします」
出てけ、と小生が言うと、朱音さんは、また小生を殴りました。
いつもいつもそうです。
いつだってそうです。
「結局、そうやって暴力じゃないですか」
何も返さないと思っているのでしょうか。
何も思わずにいるとでも……?
そんなことありません。
「ふざけんな……」
小生は、そう言って、出刃包丁を朱音さんに向けます。
「ふざけんな!!」
「はっ! んだよ、それ! 俺を殺そうってのかよ」
「そうやって、いつも自分が上みたいな感じでいるのが、とても嫌でした。自分勝手すぎるところが嫌いです。嫌いです。あなたなんて」
「殺れるもんなら、殺ってみろ。どうせ、お前には無理だろうけどな」
「っ」
その言葉で、小生は切れました。
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