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第14話
子供の名前は、空薇 にしました。
空のように広い心。
薔薇のように綺麗な人になってほしいからです。
朱音さんは、というと。
空薇が生まれた日も、次の日も。
帰ってきませんでした。
彼が、帰ってきたのは、二週間程してからです。
小生と、空薇を見ると。
少し驚いた顔をしました。
「え……」
じっと、朱音さんは空薇を見つめます。
「お前、本当に俺の子?」
「…………」
「この子、俺に似てなさすぎじゃね?」
「…………」
「何か言いなよ」
イライラしている朱音さんを無視して、小生は空薇に抱っこ紐をつけます。
「お医者様のところに行こうね」
空薇に言い、小生は玄関に行きます。
そして、外に出ようとすると、朱音さんが「おい」と声をかけます。
「医者に行って、何するんだよ」
「定期検診に決まっています」
「誰の」
「この子に決まっています。あなたと話している時間はありません」
じゃあ、と小生は空薇と外に出ました。
⊿
お医者様に、空薇は朱音さんと同じ、アルファで。
左目の視力がほぼない、ということを言われました。
無理矢理だったから、それくらいのハンデは仕方がない、とも。
小生は、ごめんね、と空薇に謝りました。
それを見たお医者様が「謝る必要はない」と言います。
「もしかしたら、生まれて来ることができなかったかもしれないんだ」
「……?」
「流産の可能性はとても高かった。たとえ生まれて来たとしても、もっと重いハンデがある可能性が高かった。だけど、そんなに重いものではなく、健康的だ」
「…………」
小生は、眠っている空薇を見ます。
確かに、生まれて来てくれただけで感謝です。
この子に伝わるかは、わかりませんが。
「ありがとう……」
「ん」
お医者様は頷いて、小生と空薇を優しく撫でます。
「じゃあ、また検診のときね。そのときは、うちの病院に来てくれないか?」
「?」
「ここは、そろそろ閉めるらしいからね」
はい、とお医者様は小生に名刺を渡します。
「ここにある、平沢 病院に来てくれ」
「わかりました」
「困ったことがあったら、何でも言いなさい。俺は、いつでも君や君の子供の味方だから」
「ありがとうございますっ」
小生は、久しぶりに心から嬉しいと感じ、笑って挨拶をしました。
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