13 / 21
第13話
どうせ、また。
知らない人と一緒にいると思います。
小生が、勝手に孕んだ……?
違います。
朱音さんが、勝手に孕ませたんです。
小生だって、本当は子供は作りたくありません。
でも、出来てしまったのだから。
仕方がありません。
ちゃんと育てないと、と思います。
だけど、朱音さんは違います。
朱音さんは、無関心です。
最初の頃の優しい人は、嘘だったのです。
自分勝手で。
周りが見えていない人です。
彼の中には、彼しか存在していなくて。
他は存在しないのです。
「っ、ぅあっ」
小生は、涙が止まりません。
止まってくれません。
「ぅぁぁぁぁぁあああああああああああああああんんんんん」
もう耐えられません。
もう耐えたくありません。
小生は。
小生は――
⊿
しばらくしたら、涙が止まりました。
すると、急にお腹が痛くなりました。
お医者様に連絡をしました。
少しすると、お医者様が来てくれました。
「予定日よりも少し早いけど」
お医者様の言葉に、小生は小さく頷きます。
「あの……、その」
「……パートナーは? こんな大事な時にいないって、どうかと思うよ」
「出かけました……。きっと、女の人です」
「え?」
「っ、ぁ」
お腹の痛みで、小生はあまり話せません。
お医者様は、小生に聞こうとしますが。
今はそれじゃない、と出産の準備をしてくれました。
――そうか。
お父さんの顔を見ることができない。
そう言ったから……。
お腹の子は、見たいと思ってくれて。
こんなに早くなってしまったのでしょう。
痛みや苦しみ、不安、全てが混ざって。
小生は涙を流しました。
⊿
「お疲れ様。よく頑張ったね」
お医者様の言葉で、小生はハッとしました。
途中で気を失っていたか、眠っていたみたいです。
お医者様は、優しい声で小生に言います。
「元気な女の子だよ」
「女の子……」
「葵くんと同じ髪、耳、尻尾だね」
「…………」
生まれたばかりの子は、小生と同じでした。
目は、朱音さんと同じ。
でも、他は小生と同じ。
「今はまだ、細かい性別は判らないから、二週間後、医院に来てくれるかな?」
「……はい」
「? どうかした?」
「いえ、安心しました」
朱音さんに、似ていなくて安心してしまいました。
少し前なら、慌てていたはずなのに。
今は、とても安心しています。
愛しく感じます。
とても、とても。
「ありがとうございます」
「ん」
お医者様は頷き、赤ちゃんを小生に渡します。
「しばらく抱きしめてあげなさい」
「はい」
近くで見ると、本当に愛しくて。
大切に育てよう、と思いました。
「産後疲れもあるし、一週間は安静にね」
じゃ、とお医者様は笑って、小生の頭を優しく撫でて、帰りました。
ともだちにシェアしよう!