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一晩でジョブチェンジ(サトウ兄視点)

「お前、オレの母校合格ってマジなん…?」  母さんのジョークであってくれ、と心の底から願ってたのに。 「せやで!僕も兄ちゃんみたいに寮に入って、頑張ってみるから応援したってや!」  でっかいおめめからお星さま飛び出して来そうやん!六歳下の可愛い可愛いクッソ可愛い弟が、どう見ても天使にしか見えへん。いや違うそうじゃなくて。  高等部からの外部受験は超々々難関やのにさすがオレの弟、賢くて可愛くて可愛いとか神様の申し子としか思われへん…でもなくて。  ああ、お前には地元の学校で、普通にまともな青春を送って欲しいと兄ちゃんは思ってたのに。  このまま、何の準備もなくあそこに放り込まれてしまったら…ペロッと食べられてまう未来しか見えへんやん(性的に)。  オレに弟が出来たのは、オレが九つのとき。おとんが再婚する言うて、モデルみたいなゴージャス美人を連れて来た。美女は、やたらデカいお人形を抱っこしとって。  なんやその見た目で特技が腹話術とかヤるやん!とか勝手に評価爆上げしてたら、三つになる直前の弟やった。  オレは一目でその愛くるしい生き物に夢中になって、そりゃもう可愛がった。ぐりぐり可愛がった。毎晩一緒に寝て、一緒に風呂入って、膝に乗せて遊んで……。 今思うと変態やと思われてもしゃーないくらい、可愛がってた。  けど、中学生に上がると同時におとんが行ってた全寮制の学園に入れられた。もしかして弟からオレを引き離す為やったりして、と思わなくもない。  中一の頃の事は、正直そんなに記憶にない。たぶん、慣れん生活と環境に馴染むのに必死やったんやと思う。  中二になってやっと周りが見えてきて、何かちょっと思ってた中学生生活とちょっと違う様な、妙な違和感があった。  運命の出会いは、中三のゴールデンウィーク明けやったと思う。 ムラカミ。  園児の頃からずっと、体力テスト以外の試験と名の付くもんはことごとく満点一位とかいうほんまもんの変態やった。 何でそんなヤツが海外で飛び級もせんと、環境が整ってるとはいえ日本で中学生やってんのか、学年最大の謎とか言われてた。  話すきっかけが何やったかも覚えてへん。同じクラスで席が前後。アイツが前で、オレが後ろ。 授業内容の解らんかったとこ、オレが訊いたんやったかな…ムラカミ、人に教えんのめっちゃ上手いねん。さすがメガネ。さすが変態。 とにかくオレらは不思議なくらいウマが合った。 「サトウ、何やってんの?」 「あ、ぅ…?ムラカミ!ごめんやけど部屋入れて。」  オレが座り込んでうっかりウトウトしてたのは、寮のムラカミの部屋の前やった。ムラカミの手には小包が乗っかってて、寮監のとこに受け取りに行ってたっぽい。 「………何で?」 「オレな、ゴールデンウィークは弟と遊びたくて実家に帰っとったんやけどな、」 「知ってる。」 「宿題しようと思って、一日早く帰寮したんやけど…ああ、うん、最終日にまとめてやろうとしてごめんって。そんな目で見んなって。…その、荷物で両手も塞がってたし、ドアをバーンと蹴って開けたら……。」 「ヒラノとナカガワか!」  ムラカミが軽く興奮しだしてちょっとびっくりしたけど、それよりも。何でまだ何も言うてないのにわかるねん!天才か!?いや、前から天才やったなッ。 ちなみに、ヒラノがオレのルームメイト。 「手でも繋いでたのか?まさかキス!?」 「いや……引くなよ?共有スペースのソファの上で、半裸で組んず解れつ…え?ムラカミどうしたん?鼻息荒くない?」 「…どっちが、どっちが上?」  メガネの奥で、ムラカミの目が爛々と輝きだして困惑するオレ。 …上っていうか、えーと、押し倒してたのは……。 「たぶん、ヒラノ?」 「可愛い系クーデレ攻めからの爽やかスポーツマン受け……ッ。」 「は?」  その夜は結局、成績優秀者で一人部屋を与えられてるムラカミのとこに泊めて貰った。宿題を見て貰い、尚且つ、ムラカミの秘蔵書と愛読書を片っ端から叩きこまれた。 そこでオレは、アイツが何でわざわざ学園に居るのかを悟った。  そしてオレにとって残念やったのは、ムラカミの守備範囲が広過ぎて一気に濃厚ハードなとこまで連れてかれたことやった。 十八禁なんて警告はアイツの世界には存在してないんかもしらん。  ムラカミはガチのマジで変態やった。頭が良過ぎるのも色々とあかんのかも知らんなぁ。天才と何とかは紙一重って言うやん? 少なくともオレは、ハッピーエンドがいいって言うてる初心者に俺様筋肉風紀委員長の強制調教快楽堕ちモノなんか薦めたりせぇへんわ! 「オレの常識なんて、ペットボトルの蓋の容量以下やったんかもしらんな……。」 「サトウの常識ちっさ!」  ムラカミは読んでいた本から顔を上げた。ちなみに通販で買って、前日に届いたとかいう平凡総受け異世界転生モノやった。電子書籍版が気に入って、紙も買うたんやって。 ほら、会ったときに持ってた小包。アレ。表紙には触手増量仕様特別限定版、て書いてある。  オレはたった一晩で一般的男子中学生から、あの内容を理解し、更には萌えてしまう立派な腐男子中学生へと進化した。 新しい世界が開けた様な、何かの感染症をうつされた様な…。  幸いにも、オレもムラカミもどんだけぐっちょぐちょの秘蔵書を集めても、実践派ではなかった。ひたすらに、親友として同志として共に学園内のあはんうふんを追いかけ、観察しては語り合った。  卒業した今も、月イチでアイツの部屋に吞みに行く。店じゃないのは、大きな声で話せない内容ばかりになるからだ。  ムラカミに、相談しよ。愛する弟を、あの学園の魔の手から護らなあかん。とりあえず標語は『ヤられる前にヤれ』の一択やろ。 いつかのヒラノみたいに、チワワ攻めしか弟の尻が生き残る道がない。なんせ可愛過ぎるし天使やし!  と、思ってたら高一のゴールデンウィークで帰省してきた弟は、まさかの初恋の相談を持って来た。 お相手は生徒会執行部役員の寡黙武士系書記様付きの親衛隊隊長。彼を目当てに入隊までして弟が健気でツラい…。  書記様の設定に戦慄するわ。王道転校生とか来たらどないするよ…まさかな。そんな漫画みたいなん、ある訳ないよな。 ウチの天使が…制裁に加担なんてする訳ないよな…。ああ、兄ちゃんはお前が心配で心配で、ぽんぽんがキリキリするぅぅぅ! end.

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