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「最後の日」4

ただ愛されたかったんだと、今になって気付く。 けれどそれを口に出す事は出来なかった。 のんびりな僕は、彼と友人のままでいいと。 たとえこのまま最期を迎えても。 きっと『平気』だと、どこかで思っていたんだ。 もう二度と会えない事実に、止まらない涙。 どこからどう見ても、僕は『平気』じゃなかった。 同じようにただ泣く事しか出来ない日があった。 本当に子どもだった小さな僕に、死という現実は重すぎた。 どうして病気が治らないのか 何故ピクリとも動かないのか。 僕の世話が下手だったからなのか。 母が帰って来る前に何とかしようとしたものの。 どうにもならずにぐるぐると悩んだ。 そんな僕に、貴方はゆっくりと話し始めた。 「これは、寿命、と言う奴だ。  ……君のせいではないよ」 僕の頭を撫でながら、彼は優しく微笑む。 普段は饒舌な貴方が言葉を沢山選んで話してくれた。 物事の全てには終わりがある事を。 「人もね、死……いつか終わりが来るのさ。  それが君より早いか遅いか、その違いだ。  この子は人と過ごす時間が違った。  だから……お別れをしなくてはならないんだ」 あの時はとても優しく説明してくれた事が分からなくて。 別れを告げなくてはならない事が分からなくて。 母が帰って来るまで彼を困らせたのだった。 「いや、私をハムスターと一緒にしないでくれないか。  もっと長く君と一緒に居ただろう?」 なんて事を、貴方がここに居たら言うのかもしれない。 もう何かを語りかけて来る事はないはずなのだが。 それでも想像が容易に出来るほどに。 彼と過ごしてきた時間は長かった。 ……いっそ、貴方がハムスターだったなら。 堂々と家族として過ごすことが出来たのかもしれない。 等と少々自分でも気持ちの悪い事を考え始めている。 気が動転しているにしたって、別の事を考えるべきだ。 もしもの明日があったのなら。 僕は言えたのだろうか。 考えても意味は無い。 過ぎてしまった時は何をしても戻らない。 「お別れをしなくてはならない、か」 ポケットの中に入れていた合鍵を取りだす。 君は何度も来るだろうから、と預かっていた物だった。 今日は彼の親戚が来ていたから使わなかったけれど。 貴方の居ない家に、勝手に入る訳にはいかなくなる。 そっと遺影の前に鍵を置いて、立ち上がる。 改めて何度も遊びに来た部屋の中を見渡す。 普段はどこかに生活感を感じられたが、今は片付いている。 元々持ち物は少なく、家具もすべてシンプルだったから余計にかもしれない。 落ち着く為に瞳を閉じて、ゆっくりと息を吐きだす。 彼の好きだった柑橘系の香りがまだうっすらと漂っているのを感じた。 もう来ることは無いこの部屋だとしても。 彼と過ごした時間を、僕は忘れないだろう。

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