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さようなら、僕の心臓

年下エリート営業な美形×年上ノーと言えない平凡 ―――――――――― 「うっわ、どしゃ降りだ」 オフィスが入ってるビルのエントランスを抜ければ、上から放水されてるのかと思うくらい雨が降っていた。オフィスの窓はブラインドが下りていたし、天気予報でも雨が降るとは聞いていない。まさに青天の霹靂だ。しかし、幸いにも目の前が乗降場になっているため屋根もあり、風もそんなに強くないから吹き込んでくる事はない。 傘がないのだろう。足早に駆けて行く人を見ながら左へ折れ、奥にある喫煙スペースへと向かう。時刻は18時。勤めてる会社の定時だが、これはお疲れ様の一服ではなくもうひと踏ん張りの一服だ。 誰もいない喫煙スペースの奥の壁へと寄りかかり、胸ポケットからかれこれ10年は共にしてきたタバコとジッポを取り出す。1本口に銜え、軽やかな音を立てて火を点ける。この燃えたオイルの香りがたまらない。 深く吸い込み、ゆっくりと吐き出す。 自分の失敗を部下に押し付けてきたパワハラ上司のせいで、ささくれ立ってしまった心がいくらか落ち着いた。 一服し終わったらコーヒー買って戻ろ。で、上司が間違ったデータの見直しをして正しいデータを入れたグラフを作って上司に送る。あー、あと近々の研修情報のピックアップ面考えなきゃ。 勤めている会社は法人向けの様々な研修情報を発信するサイトを運営しており、主に人事向けのものに特化している。この時期は新入社員研修がほとんどだ。あとはスキルアップ研修も多い。 僕はそんな会社で業務部トータルサポート課に属している。所謂、雑用課だ。営業からもシステムからも日々扱き使われて定時で上がれるのはノー残業デーの水曜日だけ。ちなみに今日は金曜日。たまに総務からも買い出しをお願いされて、明らか僕の仕事じゃないでしょ…と思いながらもノーと言えない日本人らしく請け負ってしまう。 ため息のように深く深く煙を吐き出す。 本当はビルの中にも喫煙スペースはある。でも昨今は加熱式タバコを愛用する人が増えて、最近では普通のタバコを吸っていると嫌な顔をする人がちらほらいて外のここで吸うようになった。まあ、スーツに匂いがつくのが嫌なのはわかる。しかも僕の吸っているタバコは他のより煙の量も多いし、燃焼時間も長いから余計になんだろう。 でもお前らも元々は吸ってたじゃねえか…。 悲しい気持ちになりながら灰皿に灰を落とすと、こっちに近づいて来る足音が聞こえてきた。コツ、コツ、とゆったりとした革靴の音。この奥はビルの用務員用のドアしかないので、革靴という事はこの喫煙スペースに用があるんだろう。 ここ最近はずっと独りでここを使ってたから、久しぶりの利用者に少し緊張する。 とりあえず煙を摂取しようとフィルターを銜えたところで来訪者が姿を現した。予想外の人物に目を見開く。 「あ、どうも。ご一緒していいですか?」 「えっ?あ、どうぞ」 柔和に微笑んで声を掛けて来たのは、屋内の喫煙スペースでよく見かけた久米(くめ)さんだった。 このオフィスビルの最上階にある、今や飛ぶ鳥を落とす勢いで業績を上げているIT企業で営業成績トップに君臨し続けている恐ろしい28歳だ。しかも見た目もとてもよろしい。俳優にいそうなほどの甘いルックスで、適度に脱色された髪はエアリー感を残しつつ後ろに流されている。身長は182cm。ノンシュガーのカフェラテをよく飲んでる。笑うと見える八重歯が可愛い。神奈川出身。今はここから2駅隣のマンションで一人暮らしをしている。現在、彼女、なし。ここ大事。彼女、なし。ちなみに全てうちの女子社員が話していたのを盗み聞きして得た情報だ。 「上の喫煙所で最近見かけなかったんで、タバコ辞めちゃったのかと思いました」 まさかの久米さんが。 こんなどこにでもいるうっすい印象の僕を覚えているとは露程も思わず、気持ちがひとりでに舞い上がる。気にかけているような口振りが嬉しい。 もう、はっきり言おう。僕は久米さんが好きだ。ぜひ恋と愛のランデブーをしたい。 「い、いえ、辞める予定は当分ないですよ。ちょっと、上だと吸い辛くなったんで…」 「ああ。最近は喫煙者が喫煙者に対してキツくなってきましたからね、流行りものは困りますね」 「ええ…」 苦笑すれば、久米さんも苦笑して胸ポケットから青い箱のタバコを取り出す。1本取り出して口に銜えるその仕草さえカッコイイ。 「あれ?」 そう言いながら全身のポケットを叩く仕草にピンと来た。 「火、貸しましょうか?」 「すみません、置いてきちゃったみたいで…」 そう照れたように笑って近づいてきた久米さん。また軽やかな音でジッポに火を点けてタバコの先端を燃やす。 「……ふうー、ありがとうございます。オイルの匂い久しぶりに嗅ぎました。やっぱいい匂いですね」 いえいえ、久米さんから香ったフレグランスの方がいい匂いです。 「ですよね。未だにオイル入れるの苦手なんですけど」 「ははっ!沖川(おきかわ)さん、不器用そうですもんね」 「そうなんですよ……て、え?名前…」 「ああ、すみません。以前、職場の人に呼びかけられてるのをお聞きしたので」 「あ、ああ、なるほど…」 それで名前を覚えてくれたなんて、さすが営業成績トップなだけある。もしかして、このビルに勤めてる人の名前と顔も覚えてるとか? 年下だけど自分とのスペックが違いすぎて、有り得ない事まで出来るような気がしてくる。 それから当り障りない会話をして楽しい時間を過ごし、短くなったタバコを灰皿に落とす。この奇跡な時間が終わってしまうのは悲しいけれど、仕事に戻らなくては禿げ上司の当たりがまた強くなってしまう。 「じゃ、僕はこれで」 「あっ、沖川さん今日何時ごろ上がれそうですか?」 「えっ?」 「そんなに遅くならないようなら、一杯飲みに行きません?」 笑顔で飲みに誘ってきた久米さんに目が点になる。まさかのまさかすぎてフリーズしてしまうと、沖川さーん?と目の前で手を振られる。 「20時、くらい、かと…」 ぱちぱち瞬きしながら、整理できてない頭でおおよその時間を伝える。 「わかりました。それくらいの時間にまたここで待ち合わせしましょう。あ、念のために連絡先交換しませんか?」 そんな笑顔で言われて断るなんてバカは、この世にいないんじゃなかろうか。 ―――――――――― エレベーターに乗りながら、交換したばかりの久米さんの連絡先を眺めて思わずニヤける。他に誰も乗ってなくてよかった。危うく変人扱いされてしまうところだ。 自販機に寄ってコーヒーを買ってからデスクに戻ると、隣に座ってる菊池(きくち)に小突かれた。 「これから残業だってのに、なんでそんな幸せオーラ出てんの?」 「そんなオーラ出てる?抑えてるつもりなんだけど」 「沖川ってめっちゃ顔に出るからわかりやすい。で?なんかあったのか?」 コーヒーを一口飲んでから顔に手を当てる。ニヤけ顔はエレベーターに置いてきたから大丈夫だと思ったんだけど、菊池はそういう些細な変化に敏感すぎて困る。 「うん、仕事終わったら好きな人と飲んで来る」 「うわー、惚気かよー。聞いて損したわ」 「わかってたくせに。遅れる訳にはいかないから、これ以上は話しかけないでね」 「へいへい」 菊池はため息を吐くように言うと再びパソコンへと向き直った。僕もパソコンにパスワードを入力して上司から送られて来ていたデータを開く。 よし、やるぞ。 ―――――――――― 「すみませんっ、お待たせしました」 鞄を小脇に抱えて喫煙スペースに駆け込む。 禿げデブ上司の尻拭いをしてやったというのにデータを送った数分後に呼びつけられて、礼は言わない。自分の方が仕事が出来るとか思い上がってないよな?とか、あっちの注文が面倒だからいけないんだ!とか負け犬の遠吠えにしか聞こえない事を散々言われて時間が押してしまった。僕は何も悪い事してないのに甚だ迷惑だ。 せっかくの久米さんとの時間が減ってイライラしてたけど、 「お疲れ様です、沖川さん」 その笑顔が見れただけで禿げデブ加齢臭上司の事なんか頭の中からすっ飛んでいった。 「お疲れ様です。本当にお待たせしてしまってすみません…」 「いえいえ、待ってるのも楽しめる派の人間なんで気にしないでください。沖川さん、これが食べたいとか行きたいお店ってあります?」 「いや、特にはないです」 「そうしたら、俺の行きつけの焼き鳥屋でもいいですか?」 行きつけという言葉に食いついて大きく頷くと、焼き鳥好きなんですねと勘違いされてしまった。まあ、嫌いではないので頷いておく。 歩き出した久米さんにつられてエントランスの方へ戻ると、ピタリと久米さんの足が止まった。ぶつかりそうになって慌てて止まる。って、僕のバカ。事故を装って背中に飛びつけたじゃん。僕のバカ。 「まだ雨降ってますねー。通り雨かと思ってたんですが」 「……あ、本当ですね」 横に並んで暗い空間を見る。さっきは急ぎすぎて気付かなかったが、ビルの明かりに照らされてキラキラと雨粒が見えた。 「沖川さん、傘持ってます?」 「それが、雨降るとは思わなかったので…。ちょっと中のコンビニで買ってきますね」 くるりと踵を返してビルの中へ入ろうとすると、ドラマのように腕を掴まれて思わず振り返る。 「もし嫌じゃなければ、俺の傘に一緒に入ります?結構大きいので沖川さんなら余裕でいけますよ」 それは正しく……相 合 傘、というやつじゃなかろうか! 「おっ、お言葉に甘えますっ」 この機を逃してなるものか!と意気込んで言ってしまい、久米さんに可笑しそうに笑われてちょっと恥ずかしい。 久米さんは傘を広げると僕の腰に手を当てて傘の中へとエスコートした。 それがもう、スマートすぎて、自然すぎて、もう、ヤバいくらいにときめく。キュンキュンする。心臓も踊り狂っててヤバイ。 そんな地に足が着いてない状況でお店へと行き、好きだけどあまり強くないお酒を久米さんと飲めてる嬉しさと果てしない緊張感から、気付けば2杯3杯とお酒を呷っていた。 ―――――――――― ふわふわする。 ゆらゆら揺れて、それが心地良くて目が開けられない。 「沖川さん、着きましたよー」 「…んぅ」 久米さんみたいな声がする。ガチャガチャした音が聞こえたなと思ったら、後ろでパタンと扉が閉まる音がして、車の走る音も聞こえなくなった。 布の擦れる音、カチャリとドアを開ける音、カチッと何かを押す音。 「とりあえず、ソファーでいっか」 体が沈み込む感覚にどこかに寝かされたんだとわかった。なんだか眩しく感じて手で目を覆うと、靴が脱がされたのか足元が冷やりとして思わず縮こまる。 「んん…っ」 「ああ、まだ夜は冷えますからね。ちょっと待っててください」 人の気配が遠ざかって行ったかと思うとすぐに戻って来て、ふわりと暖かいものが掛けられた。それに包まるようにすれば、くすりとした笑い声と優しく頭を撫でられる感触に再び眠りへと落ちていく。 「おやすみなさい、沖川さん」 ―――――――――― 「ん…」 ゆっくりと瞼が持ち上がる。のんびり瞬きを繰り返して、あれ?と不思議に思う。 僕ん家のカーテンじゃない…。 覚醒しきってない頭のまんまゴロリと寝返りを打てば、目の前には整った顔。見た事あるなと吸い寄せられるようにその顔に手を伸ばして頬を触る。男なのにスベスベな綺麗な肌。整えられた男らしい眉に、頬に影が出来るほど長い睫毛。スッと通った鼻筋に、少し開いた薄い唇。それを無意識にぷにぷにと触っていると、その唇が弧を描いて八重歯が覗いた。 「くすぐったいですよ、沖川さん」 じわりじわりと、頭が覚醒してくる。 と、体が石のように固まり、目を見開いて近くにあるその顔に釘付けになる。 「おはようございます」 目を細めて微笑まれ、触れたままだった僕の手を取ると指先にキスをした。 「ぴ」 「ぴ?」 ぴえ~~~っ! じょ、状況が掴めない…!なんで久米さんと同じベッドで寝てるの?指先にキスって、久米さん王子様なの?てか、久米さん裸じゃん!! 「う、お、わっ、」 「うん、沖川さん落ち着きましょうか」 そう言って僕を抱きしめて、背中をトントンとあやすように叩いて来る久米さん。 いやいや、全然落ち着けませんよ、久米さん。これは逆効果です、久米さん! 直に久米さんの胸板に手と頬が触れて、温かさと爽やかな香りにクラクラしてくる、 「昨日飲んでたら沖川さん潰れちゃったんで、俺の家に連れて来たんです。言っちゃえばお持ち帰りですよね」 あ、でも何もしてませんよ?とおどけたように言うが、テンパり過ぎてて愛想笑いも出来ない。 「ご、ご迷惑をお掛けしました…」 「いえいえ、俺にしてみたら棚ぼたです。こうして沖川さんが俺の腕の中にいるとか、夢みたいで嬉しいです」 「あ」 「あ?」 あまーーーい! 久米さんの空気が甘すぎる!それに、好きな人に言うみたいなセリフに胸がキュンキュンしっぱなしなんですけど。さすがに心臓爆発しそうなんですけど。 「く、久米さん、言う相手間違ってますよ。そういうセリフは可愛い子に言わないと…」 「可愛いですよ?沖川さん」 死ぬ。死んじゃう。とりあえず本気で落ち着きたい。 「すみませんが、一服させてください」 「そうですね、朝の一服しましょうか」 僕を解放して起き上がった久米さんに目が釘付けになる。朝日に照らされて鍛え上げられた肉体の陰影が浮かび、セットされていない髪がサラリと落ちる。こちらを見て柔和に微笑むその姿は本物の王子様みたいだ。 部屋着らしい黒いズボンを穿いた久米さんは、惚けている僕へと手を伸ばしてくる。 「行きましょう、沖川さん」 気付けばその手に自分の手を重ねてベッドから下りていた。やたらと足元がスース―すると思い下を見れば、スラックスは穿いておらず僕には大きいサイズのシャツしか着てない。驚いてシャツをめくって下着を穿いている事を確認する。よかった、僕のパンツだ。 「……沖川さん、彼シャツ状態で急にめくったらダメですよ。刺激が強いです」 「え?」 彼シャツ…? 「自分で着せておいてなんですけど、結構キますね。足のラインも綺麗だし、色も白いから物凄く……やらしい」 「キ」 「き?」 キングだーー! 王子様じゃなくてキングだー!今の雰囲気はめっちゃキングだった!もう、そんな久米さんもカッコいい…。てか何もしてないって言ってたのに僕の服脱がしてるじゃん。こんな貧相な身体見られたのは恥ずかしい。ぜひ今度は意識ある時にやって欲しい! 内心めちゃくちゃ悶えながら、久米さんに手を引かれてキッチンの換気扇下まで来た。久米さんが上部のスイッチを押すとファンが唸り出す。ふと見れば僕愛用のタバコとジッポもそこに置いてあって、わざわざ準備しといてくれたのかと思うとニヤけそうになる。それを必死に我慢して1本引き抜き銜える。カシンッと軽快な音を鳴らして蓋を開け、ジッとヤスリを回して火を点ける。この香りが落ち着く。 「…ふうー」 あー、ほんのちょっとだけ落ち着けた。結局横に居るから心臓は大慌てだけど。 「沖川さん、火、もらっていいですか?」 「へ?ああ、」 ライター切らしてるのかな?とタバコを銜えてジッポを手に取る。すると、そっと後頭部を包み込まれる感覚に驚いて顔を上げれば、目の前には久米さんの整った顔が。伏し目がちで影を作る長い睫毛、少し傾いた額をはらりと流れる髪が色っぽくて惚けてしまう。 ジリッ… 「…ありがとうございます」 妖艶に笑った久米さんに、僕の顔が火を噴いた。 タバコを指の間に挟み、壁の方にくるりと向きを変えて頭を抱える。 ぼ、ぼぼ僕のタバコで火っ、火を…!これなんだっけ、なんて言うんだっけ!? 「シガーキス、やってみたかったんですよね」 そう!シガーキス!またはシガレットキス!こ、これって恋人同士とかがやるもんじゃないの!?僕なんかとでよかったの!?僕はすんごい嬉しいけど! 嬉しさと恥ずかしさで汗をじわじわかき始める。顔の熱が全く引かない。心臓も暴れ馬状態だ。そんな僕を揶揄うように、スーッと背骨のラインを辿って項に触れてくる指に大げさに体がビクンッと跳ねる。 「後ろ姿もいいですね。曝け出してる項がそそられます」 「も」 「も?」 「もう、勘弁して…っ」 半泣きで後ろを仰ぎ見れば、より一層その笑みが深まった気がした。 「やっぱり沖川さんって、可愛いですね」 タバコを銜えて言う久米さんにまたキュンとなる。壁に寄りかかってズルズルとしゃがみ込み、フィルターを噛む。煙を吸い込み、長く吐き出す様はどこぞのヤンキーみたいだなんて自分で思う。 でも、さっきこのタバコが久米さんのタバコとキスしたんだと思ったら何倍もおいしく感じられて、幸せが体中を満たす。 あー、年下に弄ばれてる感半端ないけど、久米さんだから嬉しい。こんな僕でもいいなら飽きるまで弄んでほしい。 ーーなんて。そんな事は言えないけど。 「久米さん、僕のスーツって?」 熱い顔に手を当てて冷ましながら立ち上がる。せっかくの休みだし、久米さんもやりたい事があったり独りでのんびり過ごしたいはずだ。それの邪魔に僕はなりたくない。というか僕の心臓からメーデーがめっちゃ送られてきてるから救出しないと。 シンプルなガラスの灰皿に灰を落としているとその手を掴まれた。ドキンと心臓が元気よく跳ねる。 「もう帰ります?」 「ぅあ、はい。久米さんのお邪魔になってしまうので」 「そんな事ないですよ。なんだったら今日も明日も泊まって一緒に出勤します?」 「えっ?」 なんて、甘美なお誘いだろうか。一緒に久米さんと出勤とか、本物の恋人みたいじゃん!でも連泊とか絶対迷惑かけるだし……でもでもっ、もっと久米さんとお近付きになれるチャンスでもあるしっ!でも、僕の心臓が……。 ウンウン換気扇のように唸っていれば、スマホで何かを確認していた久米さんが声を上げた。 「月曜日、雨みたいですよ」 「そうなんですね…」 それなら傘もないしやっぱり帰ろうと顔を上げると、思ったより近くに久米さんの顔があって言葉が引っ込む。 「また相合傘、しませんか?」 そうとろけるような声で言って柔和に微笑んだ久米さんに目眩がする。 ああもう、そんなお誘いーー 「………お言葉に、甘えさせていただきます」 断れるわけがない。 さようなら、僕の心臓。 __End__

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