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第1話 大嫌いな季節に
春は苦手だ。
新しい学校。新しい教室。
新しい友達。新しい先生。
環境の変化が嫌いだ。子供の頃からずっと。できればずっと同じ場所にいて、ずっと平穏に生きていたい。目立たず地味に生きてきた。それなのに。
目の前に見上げるのは、そんな平凡な人間には縁のなかった超有名進学校。
中学時代の内申点や部活動の成績、素行なんてまったく関係ない。面接も無い。入るのに必要なのは学力だけ。中高一貫性ではないから、内進者も存在しない。入学に必要なのは、単純に入試の成績。それが全て。
全寮制男子校、私立相凛学園。
これが春から俺が通う高校だ。
入学式は明日。入居準備のために殆どの生徒が前日から寮を訪れていた。大きな荷物を抱えた集団が掲示板の前に集まっている。宅配便で送った荷物は、すでに各自の部屋へ届いているはずだった。事前に送られた入学案内に書かれていた部屋番号は「302号室」。
掲示板で部屋の場所を確認して、すぐに寮に向かう。門をくぐって右が3年生寮の建物。左が下級生寮。真っ直ぐ進めば共有スペースで談話室や売店、食堂がある。
この学園には教育係制度というものがある。1年生と2年生が組になって2人部屋となり、3年生からは個人部屋が与えられる。1年生は、同室の2年生から学園内での規則などの指導を受ける。
パンフレットをで見た限りでは、寮の部屋には日常生活に必要な設備が一通り揃っている。学生の寮で、風呂やトイレが共同じゃないっていうのは珍しいと思う。さらには簡易的なキッチンまでついているというから驚きだ。そのせいか食堂はあっても寮で用意される食事は無いらしい。
外出時間などの規則があることをを除けば、一般的な集合住宅での生活と変らない。当然ながら、それだけ設備が充実しているだけあって学費は高額だ。
「302、ここかぁ…」
1階にある管理事務所で部屋の鍵を受け取って、3階の自分の部屋へ。ドアに手をかけると鍵は既に開いていた。先輩が先にもう入室しているのかもしれない。
先ほどの掲示板に貼り出されていた、先輩の名前を思い出す。
野崎 縁。
読み方は「えん」でいいのかな?少し変った名前だ。
これから1年間生活をともにする先輩。
どんな人だろう。
「失礼しまーす……」
緊張しながら静かにドアを開けると、部屋の奥からこちらに駆け寄ってくる姿が見えた。
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