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第1話

 その城は木々が生い茂る森の奥にひっそりと佇んでいた。  人里離れたその城には誰一人訪れる事はなく、その存在すら知る由もないのだ。  そこに暮らしている住人はたった一人だけ。  彼は畑を耕し家畜を飼い、自給自足で暮らしていた。  そんなある日、城の側で男の子を拾ったのだった。  何故こんな所に子供が? そう思っが、近くにはオオカミや熊等も出るし、置去りに等出来なかった。  男はその子を拾って帰る事にした。  名前を白(ハク)と名付けたその子は、色白で、金髪。碧眼の綺麗な男の子であった。 「黒(クロ)さん」  名前を呼ばれて目を覚ます。そう名前を付けられたのもう随分と前の事である。 「朝ごはんが出来きましたよ」  そう白に呼ばれて黒はベッドを出た。  拾ったばかりの頃まだハイハイも出来ない赤ちゃんだった白は、今では十八歳。立派な青年となっていた。  肌は白く、金髪の碧眼は変わらないが幼かった顔も凛々しくなり、男らしくっなったと思う。  彼の金髪は自然のウェーブがかかり、フワッとしているのが可愛いと思う。 「今日はハムエッグです」  「今日も美味しそうだ」  テーブルには朝食が並び、黒はそれをいつも美味しく頂く。  ここから町は遠く、白は小学校から高校まで寮に入れていた。  そこから大学生になり、社会人となる。きっとこの場所に等もう、戻って来ないだろうと黒は思っていた。  しかし、一週間前の事だ。 「高校を卒業したので帰ってきました」  そう言って、白は帰ってきてくれたのだ。  黒は白が来るまで一人暮らしをしていたし、正直一人でも平気だと思っていた。しかし白が居なくなった時はやはり寂しかった。しかしそれもその内なれるだろうと思っていた。  だが、ついにその日まで寂しさは消えなかったのだった。  だから帰ってきてくれて、黒は本当に嬉しかった。   六歳の頃に別れたきりだった白は、大きく成長し、見違える程である。だが、それが白だと黒に解らない訳が無かった。  目の前に立っているのは間違いなく白で、帰ってきてくれたのだと。  黒は思わず涙ぐんでしまった。 「ただいま黒」  そう、白に抱きしめられ、黒も抱きし返したのだった。  白は物心ついた頃から黒と一緒だった。  黒には初め名前は無く、『おじさん』と呼ばれていた。 「おじさんの名前は何なの?」  ある日、白は不思議に思って問いかけた。白には白と言う名前が有る。しかし『おじさん』は名前ではない。この前読んだ絵本にも『おじさん』は出てきたが、あれは名前では無かった。 「俺には名前は無いんだ。もしかしたら有ったのかも知れないが…… 呼ぶ者が居なかったから忘れてしまった」  そう、苦笑する『おじさん』に白は困ってしまう。  白も『おじさん』に『ハク』と呼ばれる様に、『おじさん』を名前で呼びたかったのだ。でも、名前が無いとなると呼べない。  落ち込んだ顔をする白に気付きた『おじさん』 「あー、じゃあ、白が付けてくれないか? 俺の名前」 「僕がつけて良いの?」  『おじさん』の台詞に白は顔を明るくする。 「ああ、一人なら問題ないが、お前が居るのだし、やはり名前が無いのは困るだろうからな」  白に笑いかける『おじさん』。白は少し考えた後で口を開いた。 「じゃあ、僕が白だから、おじさんは黒!」  そう、白と黒はいつも対になっている。チェスの盤や駒だってそうだ。  チェスはこの前おじさんに教えて貰った二人でするゲームである。 「黒か。いい名前だ」  おじさんも気に入ってくれた様だった。  それが黒の名前を決めた経緯である。  それから黒にはまだ不思議な事があった。  家の中には鏡がある。自分の姿は黒と全然違うのだ。  白は自分も大きくなれば黒の様になるのかと思っていた。  黒の姿は黒豹の様であった。

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