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第2話
白が五歳になった時だった。黒は白に「白は今年から学校に通う事になる。ここから小学校は遠すぎるので、これから12年間を寮で過ごす事になる。俺とは暫くお別れだ」そう告げられたのだ。
白は泣いて嫌がった。人はそもそも黒しか知らない。学校には沢山の人が居るそうだ。怖すぎる。
「僕、勉強ならここで出来るよ!」
そう白は訴えた。黒の家は広く、家の中に図書館も用してる。そこで黒は色々な事を白に教え、白も物覚えが良く、現在小学六年生ぐらいの勉強が出来る程であるが、黒は白に友達を作って欲しかった。それにずっと此処で二人で暮らして行く事など出来ないのである。白は普通の人間として人間と暮らした方が幸せな筈なのだ。
拾った動物を森に返す様に、白も人間の元に返してやる時が来たと黒は思った。
今は二人っきりなので白は気づかないかも知れないが、外き出れば自分が普通の人間とは違う事に気づく、そうしたらきっと戻っては来ないだろうと黒はそう思っていた。
黒は人間ではない。
半獣と呼ばれる獣の姿をした魔物であった。
黒の魔力は強く、魔物の中でもトップクラスのエリートであった。魔物中でも一目置かれ、いつの間にか配下が増え、自分は魔王等と呼ばれる様になったいた。そして人々は勇者を立てて黒を倒そうと躍起になった。
黒は魔力こそ強かったが、人間と争う気は全く無く。元々心根の優しい魔物で有った為に、自分を倒しに来る人間と、自分を守ろうとする配下が血を流し合う事に心を痛め、元居た城を捨てた。
自分は争いの種になってしまう。一人で暮らそうと決めたのだ。
それからは人間と魔物の住む世界の中間程に有る深い森に住むようになった。
何方からも見つからからない様にシールドを張り、その中で一人孤独に暮らした。その孤独は、黒には嫌では無かったのだが……
白を拾ってしまった。
まるで母親の様、そして父親の様に白の成長を見つめ、黒は幸せな気持ちを味わった。
白は可愛く黒に懐いたが、聡明な子であり、自分を親だとは思っていない様であった。
出来る事なら、黒とて白と別れるのは嫌である。
だが人間は魔物とは暮らせない。
魔物と人間では歳を取るスピードも、力も、容姿も、何もかも違うのだ。
魔物である黒は自分の力を必死に抑えて五年間、白を育ててきた。しかしそれももう限界である。
抑えた力がいつ反動で白を傷つけないかと、不安で仕方なない。
それにここではシールド内でしか遊ばせられないのだ。
白は好奇心旺盛で、外に出たがる事が多くなっていた。
しかし、シールドを出れば凶暴な獣や、魔物達がウヨウヨしている森である。ひ弱な白は直ぐに食べられてしまうだろう。
そう、魔物の食事も人間なのだ。
ずっと我慢している事が黒はまだあった。
白を食べてしまいたい欲求である。
白からは美味しそうな匂いがする。肉は柔らかそうで…… 食べてしまいたい。
そう何度も考えてしまう様になった。
白を骨まで味わい尽くし、ハッとなる悪夢に、何度魘されたことだろうか。
黒はもう色々と限界なのである。
「白がもし学校を卒業して、それでも俺と暮らしたいと思った時、帰ってきてくれ」
黒は白にそう告げると、最後までいやがっていた白を無理やり学校へと送り出したのだった。
自分の言うことを良く聞くペットの馬達は、ちゃんと白を学校へと送り届けてくれた。
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