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15.音楽室の隣①
奏太は約束通り、三階の第二音楽室の隣のトイレにいた。校舎の端にあるトイレは、周りに使われている教室もないため、ひっそりとしている。
奏太は突き当たりにある開きっぱなしだった窓を閉めた。グラウンドから聞こえる運動部の掛け声が遠くなり、晴れた空を映す窓に反射した半透明の自分が映る。いつも襟まで閉めていた学ランのボタンは全て外され、中のワイシャツも上から二つ目のボタンまで留められていなかった。緩められた首元にはリングのついたネックレスが揺れていた。
背後の扉が開く音に振り返ると、白坂が入ってきたところであった。彼は奏太のいつもと違う服装に少し意外そうな顔をした。
「なんだ、その格好」
「別に……。どうでもいいだろ」
素っ気なく返すと彼はそれ以上、服装については何も言ってこなかった。代わりに、事前に用意していたであろう提案を口にする。
「なあ、なにもこんなところでやる必要ないんじゃないか。俺だって業務残ってるし、仕事上がりでよければ……」
「なに、お前準備してないの?」
「いや、してきたけど……」
途中で遮られ、白坂は不満そうに答えた。それが言葉になる前に、奏太はきっぱりと言い放った。
「じゃあ早く脱げよ」
一方的な言い方に白坂は言葉を詰まらせている。その顔に向かって奏太は冷たく言い放った。
「悪いけど、俺、あんたと会話する気ないから」
悔しそうに唇を噛む白坂の顔を見て、奏太はいささかの溜飲を下げた。
初めて白坂とセックスした時の、奏太の悔しさを少しは思い知ればいいと思った。しかし、スッキリしたのは一瞬で、次の瞬間には、何も言ってこない白坂に対して苛立ちも覚えた。もっと嫌だとごねて悔しがってほしかったのに、白坂はあっさりと奏太の方へと歩いてきたのだ。
(なんだよ、その程度か)
一番奥のトイレの個室に先に入った白坂に奏太は静かに肩を落とした。
会話をしたくないと言ったのは、奏太の方なのに、どこかでがっかりしている自分がいた。本当は、「お前と話したい」と言ってすがる白坂を見たかったのだと気づいたのは、個室の扉を閉めたあとだった。
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