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第8話

 まだ引っ越して間もない部屋に朗らかな日差しが射し込んだ。日当たりのいい2階最奥の部屋にはキングサイズのベッドが部屋の中心に置かれ、窓からは(だいだい)の木がよく見えた。セオノアはじっと陽の光を浴びる橙を見つめていた。ベッドが軋み、剥き出しの肩に体温が触れた。 「何を見ているんだ?」 「あの甘橙(オレンジ)。美味しいのかな?」 「ひとつ取ってきてやろうか」  ホワイトと溝にコールブラックのパーツが充てがわれた義手がセオノアの黒い髪を梳いた。 「ううん、要らない」  セオノアは首を振る。恋人は赤い目を眇めた。 「それよりよく眠れたの。忙しかったんでしょ」 「だから今日は休みをもらった」  恋人はセオノアの前髪に口付けを落とす。 「じゃあ1日中…」 「ああ、1日中」  恋人を仰向けに押し倒す。少し年上の恋人の上に肘を立て覆い被さった。ベッドが小さく軋み、シーツが擦れる。恥ずかしそうに赤い瞳が泳いだ。恋人の下腹部には大きな火傷痕と縫合の痕があり、そこにあるはずの男性器は切除されていた。軍役中の事故だと聞いている。鈍い痛みが頭部を締め付けた。眉間に皺が寄る。 「ノア…?」  不安げに見上げられ、セオノアは大丈夫だとばかりに笑った。恋人は気にしているのだ。首筋に口付ける。 「…ぅ、ん…」  銀髪のかかる耳を柔らかく齧り、耳朶を舌で転がす。肩が強張っている。義手に至るまでの肌を唇でゆっくり辿った。肩に弾痕があり、薄い膜で塞がっていた。口付ける。軍役中に付いた傷だと聞いている。頭痛。恋人と匂いを嗅いだ。すると途端に和らいだ。 「ノア…」  体温のない掌に後頭部を撫でられた。セオノアは微笑んで鎖骨の皮膚を吸う。薄紅の花弁が浮かび上がる。 「ノア…そこじゃ、見えてしまうよ…」 「ダメなの?」  前開きのパイロットスーツでは見えてしまう箇所だった。恋人は高層ビルほどもある大きな人型兵器に乗る仕事に就いている。 「いい…」  恋人はセオノアの頭を両手で抱えた。撫でられる心地に酔いながら胸の突起を舌先で突く。薄い皮膚を舌でくすぐり、凝っていく実をしつこく追った。 「ぅ、あ…あ、」 「胸、あんまりいじると、スーツから透けちゃうね」  ブラックとパープルのパイロットスーツだった。頭痛。見たことはない。ただの想像だった。 「なら、やめ…っ」 「もう片方は自分でいじって」 「そん、な…」  固い金属とプラスチックの掌を開いた。指と手の甲に口付け、それから恋人の胸に導いた。 「ほら、ここ、くるくるして」  少し重い掌の上から恋人の感じやすい触れ方を示す。 「う…っ、ノア、」  眉を下げる年上の恋人にキスする。舌が絡んだ。指で胸を刺激する。恋人も自身の手で反対の胸を触った。 「ぁ、は…っん、ふ、ぁ…」  混ざった唾液を飲み込もうとして身動ぐ姿に脚の間の器官が甘く痺れた。 「んく、ぅン…」  自分で胸を慰めていた固い手がセオノアの前に触れた。唇と唇の間に隙間が出来た。頼りなく透明な橋が架かってぷつりと切れ、シーツに染みを作る。起き上がり、ベッドが2人分の体重に反応した。 「固くなってる…」 「ハービィが色っぽいから…っあぁ」  握られ、擦られると突き抜けるような快感が走った。 「可愛い」  湿った音がする。先端から露が溢れ、茎全体に塗られていく。セオノアは金属の掌を掴んだ。カバーを付けて、と言いかけて頭痛に襲われる。 「ノア?」  赤い瞳に覗き込まれ、返事の代わりにキスで答えた。ほんの一瞬だけだ。 「痛かったか?」 「気持ちよかった」  銀髪を撫でる。恋人は照れて笑った。またその唇にキスしたくなる。恋人はセオノアの口角を啄むとそのまま下降し勃っている雄を口に含む。(すもも)に似た先端をじゃらすように舐め、括れまで口腔に入れると舌の表面と内膜で扱かれた。 「す、ごい…っあ、それ…」  口から出され、舌の裏の滑らかな面で擦られ、根元は冷たい指先で刺激される。快感に頭の中が真っ白になる。 「好きな時に出すといい」  喉奥まで咥えられ、締められる。人の体温に包まれ、腰は恋人の口を突いた。 「んぐ、ッく…」 「あ…ぁ、腰、止まらない…」  銀髪を抱く。唾液が滑りをよくし、唇が柔らかいくせ強く茎を捉える。 「んっ、ンんっ、ぐ、く…っ」 「だめ、出る、ごめ…っ」  射精の寸前で腰を引いたが、反対に恋人は頭を押し付けた。生温かく湿る中に吐精する。脈動し、嚥下が伝わる。 「ぁ…そんな、ごめん…」  恋人は顔を火照らせ、白くにごる唾液を唇に滲ませながらセオノアのグランスを丁寧に舐めとり、最後に接吻する。 「ハービィ」  キスしようとして顔を背けられる。 「今、君の、飲んだばかりだ…」 「ハービィ」  顎を押さえてキスする。苦いようなしおはゆい味が残っていた。体液を飲ませてしまった申し訳なさに恋人を抱き締め、口腔を舐め回す。舌を絡めた口付けの酩酊感がセオノアを解放しなかった。 「ノア…その、最後まで…するのか…?」  恥ずかしそうに膝を擦り寄せる。 「ハービィは、オレとするの、いや…?」  恋人はセオノアの肩を掴んで、共にシーツへと倒れ込む。キスされると、その度に彼の甘やかな唇を吸いたくなってしまい口腔が繋がる。熱っぽい息が頬を撫でる。上に乗っているのは恋人だというのにセオノアにされるがままだった。潤んだ目と眉間の皺。セオノアは透明な糸が切れる前にもう一度キスする。2人を繋いでいたそれは顎に冷たく滴り落ちた。恋人の胸に触れ、慣らすようにゆっくり腹を辿り、下腹部へと向かう。 「こんな、身体だから…君を…失望させそうで…」  火傷の痕は肌触りが違った。男性器があったらしき箇所の縫合痕は他の肌よりも白く浮き出ている。割れた腹筋を撫でる。同時に頭の中を殴られるような鈍痛に襲われた。セオノアは頭を抱える。 「ノア…無理をするな…」 「ごめん…ごめんハービィ…」  縫合痕と火傷の痕。そのさらに奥にある襞のついた穴はあるはずの器官の代わりとでもいうように花開いていた。両生具有でありながら男性器だけ切除されている。頭の痛み。手が震えた。 「ノア。いいんだ。無理をするな。君と触れ合えているだけで十分だ」  セオノアは首を振った。どうなっているのか分からなかった。頭が痛くなる。軍役中の事故で手足と下腹部を損傷したことは聞いている。聞いていただろうか。火花が散るような感じがあった。見慣れない粘膜は何なのか。何故無事なのか。損傷したと聞いている。では何故。覚えがない。いつ聞いた。誰から聞いた。そもそもいつ出会ったのか。 「ノア…?」 「ごめん、ハービィ。ごめん…」  そもそもどこで繋がろうとしていたのかさえ曖昧で、セオノアは激しくなる呼吸を整えようと必死になった。息は十分に足りているというのにまだ呼吸を求める。 「落ち着け、ノア」  キスされ、背を撫でられる。ごめん、ごめんと謝った。大丈夫だから。気にするな。恋人にあやされる。 「ハービィ…」 「急いて悪かった。出掛けようか」  髪を撫でられ、梳かれ、気分は凪いだ。 「うん…」 「どこがいい。何か欲しいものはあるか?行きたいところは?」  セオノアは首を振る。何もない。行きたいところなど。 「ノアの好きなパフェ、食べに行くか」 「…ううん。ハービィと家にいる。明日も忙しいんでしょ」 「…ノアが望むなら、休むよ。暫くそう忙しいわけでもない」  セオノアはまた首を振った。年上の恋人はわずかな困惑を浮かべた。 「今日くらいはずっと一緒に居よ。夕飯の買い出しだけ、行こ」  恋人は微笑んだ。 「今度の休みは海にでも行くか」  起きる支度をしながら恋人が言う。セオノアはまたもや首を振った。 「海は、嫌だな。海って悲しいから」 「…そうか。嫌な思い出でもあるんだな。悪かった」  部屋を出ようする恋人の背中に抱き付く。義足が軋んだ。 「今日は随分と甘えただな」 「ごめん、ハービィ。でもハービィのことはちゃんと-」  恋人はセオノアの腕を緩く外し、振り返った。全て言い終わる前に頭を撫でられ、首に触れ、肩の形をなぞられる。 「大丈夫だ。ちゃんと分かってるから」 「うん…」  恋人は部屋を出て、階段を下りていく。セオノアも適当に衣類を身に着け、半裸のまま部屋を出た。階段脇のアーチ型の窪みにある枝のような置物に鳥が止まっている。金色の目がセオノアを見ていた。  それが貴方の役割ですか。  びっくりしてセオノアは辺りを見回した。どたどたと階段を駆け下りる。恋人はリビングでコーヒーの用意をしていた。 「君も飲むか?」 「あの鳥…怖い」  恋人はコーヒーを淹れる手を止めた。赤い瞳が輝く目を丸くする。 「鳥?」 「2階の…壁にいる…」  恋人は何度か瞬きをして部屋を出る。セオノアもついていった。階段を上がる。枝の置物があるだけだった。嘘じゃない!セオノアは叫んだ。嘘じゃない!オレじゃない!オレじゃない…信じて!シーリングファンが能天気に回っている。静かな部屋にセオノアの必死な声が響き渡った。 「きっと逃げてしまったのだろう。ここは自然が多いからな。ほら、下でコーヒーを飲もう。君はココアのほうがいいかな」  柔らかく頭の上に手を乗せられる。髪を梳きながら滑り落ち、恋人は階段を下りていった。赤い鳥がいたはずの壁を見ていた。 「ノア?」 「今行くよ」  壁に向かって言った。暫く枝の置物から目を離せなかったが、階段を下りてリビングに向かった。4人掛けのダイニングテーブルセットの対面に座った。恋人は優雅だ。ひとつひとつの所作が洗練されていて、見惚れてしまう。肘や手首の金属の擦れる音に気持ちがざわついた。 「幸せだな」  恋人のリンゴのような赤い目が細まった。射抜かれ、動けなくなる。 「君と暮らせて、君と恋人になれて。こんな幸せでいいんだろうか」  コーヒーを飲みながら彼はまた微笑む。 「照れる」 「ちゃんと伝えたい。こういうことは。ちゃんと、言葉にしたい」  目を合わせていられなくなった。顔から火が吹きそうだ。 「オレも、幸せ」 「毎日帰って来られなくてすまないな」  眉を下げ、彼は言った。そうだっただろうか。そうだったかも知れない。頭が痛んだ。そうだった。ココアの入った揃いのカップが震える。目の前の恋人の顔が曇る。 「ノア?また気分が悪いのか?」 「ううん、オレのことは気にしないで。ハービィこそ気を付けてよ。働きづめなんだから」  頭痛は瞬時に治まった。固く目を瞑る。ココアを飲み干した。舌先に軽い火傷を負った。  恋人に寄り添いながらリビングで過ごす。幸せなことだと思った。テレビを流し、報道番組には恋人の操る人型機動兵器が映っていた。カメラのフラッシュを焚かれながら社長らしき人が囲まれ、インタビューに答えている。同じ部屋にいる恋人はそれに気付かずナンバープレースと呼ばれている数字のパズルを解いていた。太線で限定された枠に縦横に1から9までの数字を当て嵌めるのだが、縦横の重なった部分とさらに既に問題として印字されている数字以外に余った残りの数字を割り振るというルールがある。頭を整理したい時にやっていたはずだ。頭痛が走る。セオノアは明滅したテレビ画面から顔を背ける。恋人は数字を整理する遊びが趣味だっただろうか。頭痛を堪えたつもりが咄嗟に小さな悲鳴を漏らしていた。 「ノア?」  ナンバープレースの問題集から顔を上げる。互いに同じ空間で別々に過ごすのが楽しかった。何もかも全て一緒でなくとも穏やかだった。そういう付き合い方に焦がれていた。頭痛。疼き、視界が光る。 「ごめん、なんでもない。ほんと、ちょっと庭の花でも見てくるね、水あげてなかったから」  たまたまウッドデッキから見えた花壇に逃げ場を見出す。 「少ししたら俺も行くよ」  恋人は穏和に笑い問題集を片付ける。 「う、うん」  セオノアは頷くと外へと出た。鈴の束が鈍く開閉を告げる音に背筋をなぞられるような嫌悪感が残ったが、特に不快な音質というわけでもなく、それが却って、さらにその音を拒絶した。外には黒いスーツの男が2人ほどいた。眉間に皺が寄る。鈍くゆっくりと沁みるような痛み。視界がどこか砂嵐のように細かくさざめく。確か不動産屋だった。セオノアは駐車場と庭の境にあるレンガタイルに覆われた蛇口を握りながらホースを持った。花壇のある柵の囲いまでホースを引っ張る。玄関扉を開き、恋人が現れた。 「よく咲いたな」  上着を掛けられ恋人を振り返った。互いにきょとんとして見つめ合い、頬にキスされる。 「今度フラワーパークに行こうか。花を買いに。あそこなら揃えも質もいい」  口より先に頭が揺れた。塔型風車が脳裏を過る。行ったことがあっただろうか。フルーツが山盛りのパフェ。食べた記憶がある。小さな頃に友人と行った時のことかも知れない。小さな頃に、友人と。友人などいたか。親しげな。恋人の顔にモザイクがかかったみたいだった。育成会だ。育成会で塔型風車が叙情的なフラワーパークに行ったのだ。けれど、花畑を見るのは退屈だ。悲しくなる。踏み荒らされ、蹂躙される。土ごと。 「ううん、休みの日は、家で一緒にいようよ」  どこにも行きたくない。一緒にいられるならどこだって変わらない。特別なことは何も要らない。恋人に抱き付く。不動産屋が家の前にいるというのに構わずキスした。それから2人で花に水をやる。幸せだと思った。冷たい風が吹く。橙と葉がざわめいた。冷えてきたな。恋人が呟く。不動産屋はまだ家の前をうろついていた。あの人に連れて行かれる。あの不動産屋に。冷えた風が頭痛を呼ぶ。 「中、入ろう?もう少ししたら買い出しに行ってさ」  ホースを片付け、恋人の袖を引いた。そうだな、と言って恋人は犬みたいにセオノアに引かれていく。玄関扉の恐怖すら覚える鈴の鈍い音はドアの嵌まる音で掻き消えた。 「どうした?少し顔色が悪い」  顔を覗き込まれ、恋人は首を傾げる。冷えた金属の指が頬を摩る。プラスチックの手の甲に自身の手を重ね、さらに顔へと押し付けた。冷たく固いけれど恋人の掌だった。 「大丈夫。ハービィと一緒なのが嬉しくて、ちょっと興奮しちゃっただけ」 「ノアは可愛いことを言うな」  額に唇が落ち、セオノアの上着を脱がせる。セオノアも恋人の上着を脱がせた。恋人の匂い混じった洗剤がふわりと薫る。訳の分からない不安が襲った。恋人との関係がよく分からなくなってしまう。恋人のはずだ。好きだ。隣にいて幸せだ。痺れるような頭痛が伴い、考えるのをやめた。何か迷った感覚は残っているが何を突き詰めようとしていたのかを忘れた。リビングに行こうとする背中に追い付き、肉感のない腕を取る。 「ハービィ、今日はやっぱり出前にしてさ…その、ちゃんと、したい…」 「ノア。気にしなくていいんだぞ」 「オレがちゃんと、ハービィのこと、愛したい……この時間なら、明日に響かないでしょ…?」  恋人は少し困ったように笑う。自分でも破綻した理論だと思った。まだ日も暮れていない。年上の、少し背の高い恋人はセオノアに幼い子を相手にするみたいに目線の高さを揃えてから、後頭部に手を回し、額と額をくっつける。体温があった。 「ありがとう」  どちらともいえないことを言って恋人はリビングに向かっていった。セオノアは1分経たない間突っ立ていたが、2階へと上った。  貴方はこの役割を全うしますか。礎になりますか。踏み固められた土に、なれますか。自己という犠牲を出してでも、果たして必要なことなのか、分からないまま?  階段脇の壁の窪みには太い枝の置物しかなかった。天井をぐるりと見渡す。シーリングファンの奥にカメラが生えていた。レンズと目が合う。そのカメラに赤い鳥は止まっていた。セオノアをレンズ同様に見下ろしている。目を擦った。まだ赤い鳥はいる。廊下に飾られた花瓶を手に取った。天井と壁の境目に生えたカメラに投げ付ける。派手な音と破片が飛び散る。赤い鳥は羽ばたいた。階段が騒がしくなった。 「ノア?どうしたんだ?怪我してないか?拾うな、よせ」  破片を拾おうとするセオノアを制し、恋人はセオノアの両肩を押さえて花瓶の墓場から遠去ける。皮膚のない指が大きな破片を拾い集めていく。作業中の広い背中に縋り付く。泣きたくなった。 「ごめん、ハービィ。なんかよく分からないんだ。ハービィ、オレ、ハービィのこと好きだよね?オレ、ハービィのこと好きなつもりなんだ。愛してるつもりなんだ。オレはハービィを愛してる?」 「ノアは俺のことを愛してくれているよ。そんなこと、俺に言わせるのか?」  照れ臭そうに恋人は答える。迷いはない。金属の手が炎のような色味の羽根を拾い、セオノアはそれを奪った。危ないだろう。少し怒気を含んだ声で注意される。頭が痛くなった。赤い鳥がいるんだ。訳の分からないことを言うんだ。花瓶割っちゃってごめん。あのカメラ壊しちゃったかな。喋ろうとして止まった。シーリングファンの影が視界を混ぜかえす。赤い鳥はペットだ。確か赤い鳥を飼っていた。寂しくないようによく喋る。軍役中に負った障害で不便がないように防犯カメラがあるのだし、彼は花瓶を集めるのが好きなのだから仕方がない。 「ごめん」  結局出せたのはこれだけだった。 「君に怪我がないならいいんだ。気にするな。形のあるものだからいつか壊れる覚悟はある」  セオノアに微笑みかける。セオノアは情けなくなり顔をくしゃりと歪めた。 「ハービィ」 「…片付けたら、その……しよう」  頷いた。  シャワー上がりの恋人がベッドに身を沈めた。シリコンカバーに覆われた義手にまだ少し水滴が残り、セオノアは湿ったタオルで拭き取る。恋人は義手義足を遠慮しているらしかった。セオノアは深く気にしていなかつた。朝の続きのつもりで、濃密な口付けを交わす。 「は…ァ、あ…」  舌が絡むだけで恋人の目は潤み、セオノアもまた下腹部に熱が集まっていった。離れても繋がった粘性を持った唾液の糸を勿体ないとばかりに指で拭いながら舐め取ると恋人は顔を背けた。胸を撫で、突起を両手で愛撫する。悩ましげな眉がさらに寄って触れ合っている下肢が震えている。片手は胸の突起を捏ね、片手は臍の周りを指でくすぐった。割れた腹筋を辿り、手触りの変わった火傷の痕は指の腹のさらに先端が触れるか触れないかという触り方をした。 「あ…ぅ、」  男性器があった箇所を掌で摩った。 「そ、こ…触っ…ぅん、」  突起を粘膜に押し潰すと首が反った。浮き上がる喉の隆起に噛み付きたくなる。 「痛い?」 「ぞわぞわするから…」  縫合の痕から指を逸らし、指を舐め、さらにその下の襞に手を伸ばす。 「待て…ま、て…」 「ゆっくりするから」  濡れていた。口吸いで溢れる唾液よりも粘性が強い蜜に覆われている。肉感のある腰を掴んで顔を埋めた。 「やめっ…そんなとこ…ぁっあ!」  襞を柔らかく唇で挟んだ。両端に粘膜の窪みを覆うようにある。教科書で見たことのある女性器とも少し違うようだった。もう少し単純な形状をしていたし、何より排泄器官がない。頭に靄がかかったような痛みがあった。振り払うように舌で粘膜を舐め、蜜を吸った。 「んぁ、も、いい…ッ変に、なる…!」  腰を浮かせ、シリコン越しの手が黒髪を掴む。言葉とは裏腹に下半身を捩り、ねだっているような感じがあった。単孔の周辺を吸い、舌を挿し込んだ。腰がさらに浮き、シリコンに覆われた指が黒髪を滑る。耳の裏で髪がくしゃりと音をたてた。柔らかな肉に包まれた舌が締め付けられる。唇にまで蜜が溢れた。水音が増し、意地悪く奏でてみた。 「あっ…ァあ、…だめ、だ…舐め、るな…はぁ、ん、」  背を曲げ恋人は悶える。口を放した。粘液に濡れた唇を舐める。 「中、感じる?」  泣きそうな顔をして恋人は何度も頷いた。 「言って」 「そ、んな…っぁ、ぁん…ア…」  溢れて止まらない蜜を指に塗り、孔に少しずつ挿入した。ゼリー状のような生温かい中を探る。 「よ、せ、やだ…ぁっぁ、」 「言って?気持ちいい?感じる?痛いかな?気持ち悪い?」  銀髪を振り乱す。上擦った声がセオノアを意地悪くした。腹側を内壁を軽くノックした。止め処なく溢れる蜜が手を包む。縫合痕を上を舌でなぞった。 「きも、ちいい…っ、ぁんっぁっ、感じる、感じ、るっンんっ」  切除された性感帯が全てそこに集まってでもいるかのように恋人は泣きそうになって喘いだ。嬌声と内部の動きが触ってもいないセオノアの茎を誘う。 「指でイく?舌がいい?」 「あっぁん、あぁ、ノア、ノアっ、ノアぁ…」  指で腹側の奥を抜いたり挿したりしながら問う。背中をベッドに打ちつけ、恋人は普段の落ち着きが嘘のように乱れて悶えた。顔を覗き込む。首に腕が回る。関節部の金属の小さな軋んだ。濡れた瞳が近付き、唇が触れ合いそうで触れ合わなかった。熱い吐息がかかる。 「オレ?」 「ッぁ、挿れ、て…奥まで、ほし…ぁっ」  セオノアは間近にある唇を塞いだ。2人分の体重がベッドにかかる。屹立が下着から飛び出て、自身の手で幾度か扱くと、恋人の身体を横向きに回し、その背中に寄り添う。腿を閉じさせ、その間に肉棒を挟んだ。 「ノアぁ、んぁ、」 「オレのこと、好き?」  肩や首筋に口付けながら腰を動かし、恋人の腿に擦り付ける。濡れた襞も雄芯に擦れた。 「ノア、好きだ…」  恋人が振り返ってキスする。勃起を挟む腿が違う方向に動く。 「ぅあ、」  セオノアも快感に声を漏らす。誘うような動きと息遣いだった。泣いているようにも思えた。 「ノア、は…?俺、こんな身体で、気持ち悪くない…か…?」  恋人の腿を持ち上げ、単孔へ突き入れる。引き攣った粘膜の柔らかな感触と体温にセオノアは達しそうになった。恋人もゆっくりと息を吐いた。 「すご、い……気持ちいい…好き、ハービィ、好き」 「ぁあんぁあ、や…め、ま、だ…動くなァ…」  激しい呼吸をしている恋人の背中にキスする。腿を持ち上げたままで横向きになりながらの挿入は少し体勢的にはきつかった。 「痛い?」 「違…ぁっ、ぁ、今動いた、ら…すぐ、イく…」 「イったらいいよ」  腰を一度引いただけで恋人は甘く鳴いた。 「だめ、まだ…やめ、ぁ、イくっ!イっあああっあ!」  強く突き上げるとぬるついた内部はセオノアを引き絞り、攣り、何度も食い締めた。さらにぬるつきが増し、下生えの辺りが少し濡れた感じがあった。 「すごく気持ちいいよ」  まだ内部の痙攣は治まっていなかったが腰を揺らす。 「ぁ…あ、ぁあっ今、イッたばっかなんだ…ぁ、あひっ」 「ハービィ、気持ち良すぎて破裂しそう。好き、ハービィ…」  身体を小刻みに震わせ、逃げようとする恋人の身体を抱き込む。 「あっあぁ、だめだ…っ、ノア、ノアぁっ放せっ、また、イく、またイくっ、ぁあっ」  身体が縺れ、恋人の背に覆い被さる。そのまま結合している腰を持ち上げさせた。動物のように交わり、柔らかな体内を穿つ。一度大きく貫くと恋人は高く声を上げてベッドに上体を崩した。銀髪が揺れる。スプリングがギシギシ鳴いた。 「トんじゃった?」  汗ばんだ背中を舐め、両胸の小さな凝りを虐める。 「ノア……あっそんな、あぁあっ」  内部がセオノアの芯を揉むようにうねった。荒くなった吐息が大きく聞こえた。情欲に濡れた瞳に睨まれる。首を捻らて口付けた。 「オレも、もう出そう」  耳を舐める。鍛えられた胸筋を肌で愉しみ、そして首筋に痕を付ける。揺さぶり続けながら魚の骨の図案に似た縫合の痕を撫でる。執拗になぞると中がうねり、強く貫かずにはいられなくなった。 「あっあぁ、っあっあっぅあっまた、イく…」 「うん、イこ?一緒に」 「あ、あぁ…っぁあああっ」 「…っく、」  律動が早くなる。肉と肉がぶつかる音が大きくなり、最奥に精を放つ。内壁に包まれたままの絶頂に身動きを忘れた。視界が白くなる。茎が脈動するたびに滑らかな内壁が呼応する。抜く時もまた壮絶な快感が駆け抜け、不機嫌とも受け取りかねないほど眉を顰め、恋人に寄り添うのがやっとのままベッドに倒れ込んでしまう。 「ノア…好きだ、ノア…」  銀髪に手を伸ばす。返事が出来なかった。紅い瞳が蕩けている。 「ハービィ」  ゆっくりと瞼を閉じ、また同じくらいゆっくりと瞼を開けた。手を握られる。 「俺の手はもう無いけれど、こうして君の体温を感じられるよ」  シリコンカバーに覆われた腕を見た。熱感知センサー搭載。脳波コントロール型の。最新式モデル。どこかで聞いた会社名。次々に単語が浮かび、頭痛に襲われる。唇を噛み、強く手を握り返した。 「ノア?また頭痛か。明日、病院に行こう」 「明日、仕事でしょ…」 「君の体調が悪いなら休める…何かあってからじゃ遅い」 「すぐ治まるよ。大丈夫」  シリコンカバーの掌が額に乗る。 「ノア。心配くらいさせてくれ」 「だって、ハービィはオレだけのハービィじゃないから。みんながハービィを待ってるんだよ」  次世代の神。人と神との融合。象徴。小さく唸った。 「お腹減った、だけかも。何、頼む?」  恋人の表情はまだ曇っている。 「君だけの、俺じゃない…?俺は、君のものじゃない、のか…?」 「少なくともオレだけのものじゃない…」 「嫌だ。君だけのものになりたい。俺は君だけのために生きたい。ノア。俺は君だけのものだ。他の奴等に振り回されて、君を疎かにすることなんてできない」  両肩を掴まれる。セオノアは戸惑った。 「頼む、もうそんなことは言わないでくれ。俺は君のものだから。君だけのものだ」  抱き締められ、目の前にあった銃弾の傷痕を舐めた。

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