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31カラット~婚約の音~

朝、俺を起こしに来たケルベロスにアルトの説得が長引きそうだからと ガードナーをもう一日借りたいと言って国王の所へ行かせ 今、俺の部屋にはガードナーとアルトがヴァレリーとナディアの手紙を読んでいる。 「ルーク王子!本当にヴァレリーは、妻は大丈夫なのですね」 ガードナーが涙を流しながら安堵した表情で俺に視線を向けてくる 「ええ、完全に回復なされたわけではありませんが 昨日僕が帰る時にはもう歩かれてましたし、カルトさんを叱るほどには回復していましたよ」 「ハハっ!カルトは一体何をしたんだか」 そう言ったアルトの表情にも安堵の色が見えた。 2人は手紙をテーブルに置くと 突然ソファーから立ち上がり俺の前で膝を着いた 「ルーク王子この度は本当に有難うございました。ナディアの手紙には妻はいつ息を引きとってもおかしくない状態だったと書かれていました・・・本当に感謝してもしきれません。私達家族がルーク王子とこの国を出た後、私達は貴方を全力でお守りすると・・生涯心からお仕えるすると誓います」 「え、やめて?迷惑・・」 あ、しまった  うっかり本音が・・・ 「「え・・・」」 ガードナーの言葉に俺がついうっかり本音をもらすと 2人ともキョトンとした表情をしていた。 「あの、今回の件なのですが、そんなに僕に感謝する必要はないですよ正直此方もヴァレリーさんとナディアさんのお陰で望んでいた服が手に入りそうなので大助かりなんですよ・・・それにせっかくこの国を出て自由に生きて欲しいと思ってるのに、僕に一生仕えて自ら縛られようとしないで下さいよ」 「縛られるわけではありません!俺は前から自分の意思でルーク王子に仕えたかったんです!貴方に仕える事が俺の望みなんです!俺の生きがいなんです!」 俺の言葉を聞いて食い気味にアルトが言う おっっもっ!!! アルト君や…生きがいは止めよう? 「いや、でも僕は自分の身は自分で守れますし・・・どうかそのお気持ちはご家族を守る為にお使い下さい」 そうニッコリ微笑むと、ちょっと遠慮しがちにガードナーが声をかけてきた 「あの、ルーク王子・・・妻も娘も国を出たら貴方を引き取る気でいますよ」 「へ?ひ、ひきとる・・・?」 「ええ、その・・我が家で家族として一緒に暮らすと・・・手紙にそう書いてありましたので てっきりルーク王子もご承知済みなのかと・・・」 いや、聞いてねぇよ?・・・初耳なんですけど! 何を勝手に決めてやがるんですか! 「承知してませんので、今日タイラー家に行った時にちゃんとお断りしてきます!お2人も仕えるとかもう言わないで下さいね」 「―――しかしっ!俺は!」 「アルト待て!・・・ルーク王子ちょっと失礼致します」 そう言ってガードナーはアルトを連れて少し俺から離れた位置で何やらコソコソと話をしていた 「ルーク王子息子は説得致しましたので」 「・・・本当に?(怪しい)」 俺は此方へ戻ってきたガードナーの言葉に疑いの眼差しを向けた。 「ルーク王子、もう貴方を煩わせるような事は申しません。どうかこの国を出るまで宜しくお願いいたします」 アルトは再び俺の前に跪いてそう言うが・・・その何だかスッキリした表情が納得いかない ガードナーの奴、アルトに何吹き込みやがったんだ? 「…では、話も終わりましたし ご一緒に昼食をいかがですか?」 「それは大変魅力的なお誘いですな、昨日の食事もとても素晴らしかった!しかし、本当に宜しいのですか?」 「ええ、どうぞ食べていって下さい。今準備いたしますので」 俺は扉の外で待機中だったカールの所へ行き昼食の準備を手伝って欲しいと頼んだ後 また、部屋へ戻ろうと扉の前に移動すると車椅子を後ろへと戻された。 振り向くとカールがいい笑顔をしながら俺の前に移動し 目線を合わせるようにしゃがみ込んだ 「ルーク様 此方6個手に入りましたので、どうぞお受け取り下さい」 「ありがとう、早いね もう6個も・・・」 「とりあえず楽な所から攻めていきましたので、しかしココからが少々やっかいなので少しお時間を頂戴する事になりますが」 「うん、わかった頑張って・・・でも本当に無理そうな時はいいからね」 「ええ、ですが貴方からいただけるご褒美の為ならば どんな事でもしてしまうのでしょうね私は」 オイオイ、4歳児のガキにどんなご褒美を期待してんのかねコイツは・・・ これで宝石コンプリートしたご褒美が実は只のマッサージでしたとか言ったら流石に怒るかな・・・ いや!でも俺 マッサージのプロが唸るほどのテクニシャンよ? 毎日仕事やストレスによって蓄積された そのお疲れの体を一日でリフレッシュしてさしあげてよ! 「それでですねルーク様にお願いがございまして・・・もう一度貴方と口付けしたらもっと頑張れると思うんですよね・・・駄目でしょうか?」 俺の唇を指でなぞっているカールに 俺がまあいいかと了承すると カールの唇が重なり直ぐに俺の口の中へ舌を進入させ俺の舌に絡ませて来た。 その瞬間!俺は目を見開きカールを手と足を使って勢いよく突き飛ばした その直後に、目の前を何かが横切っていったのが見えたので目で追うと それはガシャン!と音を立てて大分離れた位置で落ちた 「あれって剣?・・・何で剣がとんで・・」 「カール!!」 剣が落ちた反対側からカルトが現れた。 あっ!な~んだ~飛んできたのはカルト君の剣だったのか~・・・って!?危ねぇじゃねーか! 俺に当たったらどうすんだよ! それにカールは俺が突き飛ばさなかったらかなり危なかったんじゃないか!? やれやれ・・・ 俺の祈りも空しくこんなに早く顔を合わせてしまうとはな・・・ 幸運を呼ぶと言われてるカールの運はもう つきかけてんじゃねぇの? ツカツカと早足で此方へ来たカルトは俺を抱き上げた 「平気か?」 「え?うん僕は平気だけど・・・」 そう言ってチラッと床へ座り込んで驚いた表情で此方を見ているカールに視線を向けた 「ルーク様そんな奴、気にかけてやる必要はありませんよ!」 「ルーク【様】?・・・貴方は側近じゃないのですから、そう呼ぶ事は許されませんよ」 「何だと?自分の事は棚に上げて俺に説教か?ふざけんなよカール!それにルーク様から許可はいただいている」 「それならば、私もですよ!ルーク様の許可を得ています」 2人がにらみ合っていると俺の部屋の扉が開いた 「さっきのは何の音だ・・ん?カルトも来たのか」 「どうかなさいましたか?ルーク王子」 アルトとガードナーが騒ぎを聞きつけて様子を見に来た 「ああ、いいえ大丈夫ですので中で少し待ってていただけますか?」 「え、ええ・・・わかりました」 カールとカルトが険悪な雰囲気なのを気にしつつもガードナーはソッと扉を閉めた。 「カールの部屋で少し話しましょうか、カール部屋に入れて」 「わかりました」 カールの部屋に移動するとカルトが「さっきカールの奴が言ってた事は本当か?」と聞いてきたので 「うん」と返事をしたら俺を抱いている腕に力を込められ締め上げて来た 「お前は昨日俺が言った事をもう忘れたのか?あ゛あ゛コラ!?」 イヤーッ!!チンピラ騎士に絞め殺されるぅー!! 「覚えてるから!力緩めてよカルト!僕が言った事も覚えてるカルト?『必要なとき意外は』って言ったでしょ?」 「必要だったってのか?」 「うん、これ見て」 俺はカールから先ほど受け取った宝石をカルトに見せた 「収納石(しゅうのうせき)じゃねぇか・・・しかもこの大きさは、貴族の俺達でもそうそうお目にかかれるもんじゃねぇ」 「これをカールに手に入れるように頼んでたの、そうだよねカール?」 「はい、次の戦争までに出来る限り集めて欲しいと仰られましたので先程のは そのご褒美と言うわけです」 カールがそう答えるとカルトがカールを睨み付けた 「こんなガキに、あんな事を要求するお前はクズだ!トーケル家のジジイと変わんねぇぞ!」 「カルト、落ち着いて僕は別に口付けくらい何でもないよ寧ろそれ位で、こんな良いものが手に入るんだよ?とってもお得だと思わない?」 カルトの金色の髪をクイクイと軽く引っ張りながら笑顔で言うと 俺を抱いている反対の手で髪を引っ張っていた俺の手を摑まれた 「お も わ ね ぇ!」 「ええ~・・・あ!違う、違うの!1個じゃなくて見て見て!今回は6個もくれたんだよ?」 「・・・」 「ね!凄いでしょ?この量で口付け1回だよ?安いよね?お得だよね!?」 俺が6個の宝石を出すとカルトは少し驚いた表情をしていたが 突然『キッ!』っと睨み付ける様にカールの方へと視線を移した 「・・・わかった、カール!」 「はい」 「これは戦争の為に必要なものだ、だから褒美の要求ならばフェルド団長に言え」 「は?」 「え?」 カルトの言葉にカールは眉間に皺を寄せ口を開いたまま固まっていた。 俺も驚いてカルトの顔を凝視してしまった。 「これからはフェルドに言ってフェルドに口付けでも何でもしてもらえばいい」 「それは、私に全く特はないんですが・・・」 「チッ!じゃあ団長が嫌なら副団長の俺がしてやるよ」 そう言って俺を下に降ろすとカールに詰め寄って行った 「ちょっ!?そういう問題ではありません!どっちも要りませんよ!離れて下さい!」 「じゃあ!もう二度とルーク様に口付けを要求しないと誓え!」 「そ・・それは、出来ません!」 カールにキスをしようとしているカルトと されてなるものかと抵抗するカール。 おお!俺の目の前でボーイズラ~ブな展開が! いや~男同士だがどっちも綺麗な顔してっから目の毒にはならねぇな もし今、カメラ持ってたら撮ってたな~ 『イイねぇ!』ボタンが女性達から沢山貰えただろうな~ 面白いから このまま成り行きを見守りたい所ではあるが・・・ 俺腹減ったんだよね~・・・そろそろ止めに入るか 「カール、カルトちょっと此処に座って」 俺は近くのソファーに2人に座るように言うとカールにキスをした。 それを呆然と見ていたカルトが俺を慌ててカールから引き離した 「何やってんだお前は!?」 ちょっと怒っているカルトをよそに俺はカールに声をかけた 「カール今の口付けで頑張れるよね?」 「はい、残りの宝石も必ず手に入れて参ります」 自分の唇を一舐めした後、嬉しそうな表情でそう答えたカールに俺は宜しくと一言言うと 俺を抱きかかえているカルトにニッコリ微笑んだ 「お腹空いたね!カルトご飯一緒に食べよう?食後には甘いお菓子も出してあげるよ」 そう言って「部屋に戻ろう?」と首に抱きつけば深いため息を一つ吐いてカルトは「畏まりました」と一言言うと カールと一緒に俺の部屋へと戻ってガードナーとアルトと一緒に昼食を済ませた。 ガードナーとアルトが俺の部屋を出る時  「私共に出来る事ならば何でも致します」と何度も言うので 「では、お2人の素敵な笑顔が見たいですね・・僕はお2人の笑顔が大好きなんです」と言ってみた すると、2人は互いに顔を見合わせニッコリと微笑み俺の前に跪いた 「ルーク王子が望むのならばいくらでも、こんな私達の笑顔なんかで宜しければ」 そう言ってガードナーが俺の右手をとり 手の甲にキスを落とす。 それに続く様にアルトも「貴方のお陰で私達は笑顔でいられるのです。今度は私共がルーク王子の素敵な笑顔をお守りする為に動く番でございます、貴方がお困りの時は いつでも御呼び下さい必ず駆けつけ お守り致します」と言って俺の左手にガードナーと同じように口付けてきた。 ぎゃーーー!!神ホストキターー!!!そうそうこれよコレ! この笑顔がまた、見たくて頑張ってきたのよ! ほんと!この親子の笑顔は癒されるわ~ アタシまた、このホストクラブに来れる様に今日もお仕事ガンバっちゃうわよっ!というわけで・・・ 今夜もカルト君とタイラー家へ来ておるのです・・・が・・何この状況・・・ 「…あの、一体これは?」 「え?あら!?ルーク王子!すみません気づかなくて!」 俺がナディアに声をかけると、驚いたように慌てて俺の前で頭をさげた。 俺とカルトはタイラー家の呼び鈴を鳴らしても迎えの馬車が来なかったので 徒歩で玄関前まで来たのだが、その理由が今わかった・・・ タイラー家の白い馬と夜が喧嘩をしていたからだと 「夜!何してるの!ちょっとこっちおいで!」 白い馬に牙を剥いて威嚇してた夜が俺の声を聞き狼の姿のままカルトに抱かれている俺の前まで来た。 「カルト降ろして」 「ん?・・・ああ」 「夜くん?何してんのかな君は?ちょっと此処に座りなさい!」 俺はカルトに地面に降ろされ目の前でお座りをしている夜に言った。 「さっきから此処に座って居るだろ・・・」 「ん、そうだった・・で?何でこんな事になってんの?」 夜は身を低くして俺の耳元でポツポツと話し始めた 「・・・白い獣は特にそうなんだ・・・黒い獣を毛嫌いする・・・あいつが言ったんだ、出て行け!目障りだ、同じ敷地内に来るなと・・・黒の者は汚(けが)らわしいから生きている意味はないと・・・それでも俺は此処の人間を守る為に此処を離れないって言った・・・そしたら、人間を殺してお前も死ね・・・って」 そこで、夜は口を閉ざしてしまったが 恐らく他にも何か言われてんな 余程言われたのが悔しかったのだろう 少し震えながら夜は唸りをあげていた。 俺は夜の顔を撫でながら白い馬に視線を向けると見下すように此方を見ていた 俺と視線が合うとちょっとムカつく感じにそっぽ向かれた。 「私が――!私がいけないのです!夜さんに馬車にコレを持っていくように頼んでしまったのが原因なんです!私が見ていない時に何か嫌な事をされたのですわ!」 戸惑った様子のナディアのその手には膝掛けが握り締められていた 「ナディアさん有難うございます。今夜は寒いので僕の為に膝掛けを用意してくれたんですよね?すみませんが、この奴隷の馬に喋る許可をしていただけませんか?奴隷は主の許可がないと人間の前で喋れないのですよね?」 「え?でも・・・そんな事して本当によろしいのですか?」 心配した表情で夜と白い馬を見るナディアに俺はお願いしますと頼んだ。 そして、この白い馬と話をしたいのでカルトにお菓子を渡してナディアさんと先に家に入って食べながら待っていて欲しいと家の中に入らせた。 これで、ゆっくりと話が出来ると白い馬に声をかけてみるが完全無視である・・・ 「おい!ウチの可愛い夜くんをよくも苛めてくれたな・・・夜はいい子だ、他人を蔑むテメェの方がよっぽど穢れてっからな もし次ウチの子にちょっかいかけてみろ、馬刺しにして食ってやるから覚えておけよ!」 俺が白い馬に指差しながら怒鳴ると白い馬は不機嫌そうな顔で此方を見た 「私が穢れているですって?どの獣よりも美しい私に向かって言っているのですか?無知な人間の子供・・・良いことを教えてあげましょう。獣の中で黒い獣こそがこの世で一番醜く穢れた存在だと言う事を覚えておくといい、そして白い獣はこの世で一番気高さと美しさと強さを兼ね備えた気品ある存在だという事をその小さな頭に叩き込んでおきなさい」 「何?お前自分が美しいとか思っちゃってるわけ?ハッ!とんだナルシストだな、あいにく俺にはお前より夜の方が断然綺麗な生き物に見えるぜ?俺からも自意識過剰なお前に良い事教えてやるよ、お前さぁ自分が美しいって思ってるみてぇだけど、正直そうでもねぇよ?別に普通だぜ?その辺の馬と大して変わらねぇから…美しいって思い込んでるんなら今すぐ止めたほうが良いぞ?かなり痛い奴だぜ?」 「自意識過剰?この私が?ハァ・・・どうやら君には美的感覚と言うものが欠落しているようですね・・・まさかこの私の美しさがわからない者が存在するなんて憐れです・・・まあ確かに今の私はこの拘束具のせいで本来の美しさが少々損なわれているのかもしれませんが」 「いや?寧ろその錆びた首輪がお前には良くにあってるぜ?」 「――今、私が枷をしている事を幸運に思うがいい・・・そうでなかったら私は君を今の発言の直後に首を切り落とし殺していたでしょうからね」 此方を睨み付け低い声で白い馬は言ってくるが、俺はそれを聞いてケラケラと笑い出した。 「本当に自意識過剰だな、お前その枷がなかったら俺を殺せるとか思ってんだ 小物(こもの)のくせに中々笑える冗談言うじゃねぇか」 「何!?私がお前のような幼い人間の子すら殺せないとでも言うのかっ!?」 「わかったわかった!じゃあ枷外してやるから 殺せるものなら殺してみろよ、その代わり俺が勝ったら夜に詫びいれろ・・・いいな」 最後の言葉凄んで言うと白い馬は少し怯んだが「いいでしょう」と答えが返って来たので  俺が枷を外すと暫く驚いた表情で枷が付いていた自分の足を眺めていたが 俺が「ほら、どうした?掛かって来いよ」と言うと物凄い速さで此方へ来たと思ったら 俺の足元の地面から俺の身長より長い突起物が幾つも次々と音を立てて突き出てくる。 一瞬驚いたものの俺はそれを全て避けた 「へぇ・・・お前【土】の属性持ちか?速さは中々いいじゃねぇか今まで会った奴の中じゃあダントツに速い・・・でも他は駄目(クソ)だな、打撃に弱過ぎ、もっと根性みせろよ・・・はい、俺の勝ち~」 俺は白い馬の首を両足と両腕で締め上げると再び奴隷の枷を首に着けた。 「白馬(はくば)である、この私が人間の子供などに・・・!なんと無様な・・・っ!」 「ほら、約束は~?うちの夜くんに謝ってよ」 「っ・・・!私は間違った事は言ってないですよ!」 「おや、おや~?約束も守れない奴って それこそ美しくないんじゃなぁい?」 「くっ・・・!このっ!謝罪をすれば満足なのでしょう!?しますよ!」 そう言って白い馬は夜を睨み付けたり視線を逸らしたりを繰り返し 一向に謝罪の言葉が出てこないのでイラついた俺が一発蹴りを入れると投げやりな感じだったがすぐに「すみませんでした!」と言ったので取りあえず今回はこれでヨシとする事にした。 「夜今回はこの辺で許してやれ、でも次言ったら徹底的にやるから俺にちゃんと報告しろよ!」 「ああ・・・けど、お前やり過ぎだ さすがにちょっとアイツに同情したぜ」 夜に呆れた顔で見られた 「え?ヤリ過ぎって・・・軽く済ませたつもりだけど?」 俺が首を捻ってそう言ったら深くため息を吐いて夜は首を軽く左右に振り俺を抱きかかえてタイラー家へと入っていった。 「やっと来たか これは、どうやって食べたらいいんだ?」 部屋へ入るなりカルトが3本のロールケーキを指差した。 ちなみにプレーンとチョコと抹茶味のロールケーキがテーブルに並べられている 「どうやってって・・・普通に好きな大きさに切って食べて下さい」 ナイフをナディアから受け取ったカルトが暫く悩み 切り方はこうで良いのか?と聞いてきた後ロールケーキの真ん中にナイフを入れて半分を自分の皿に置いた。 「いや、それはとり過ぎだよカルト・・・ナディアさんとヴァレリーさんの分は僕が切り分けますので上で一緒に食べましょう」 「俺のも」 夜が抱いている俺の膝をトントンと叩いてきた 「わかってるよ、カルトは・・・半分ずつ残しておくから、それ食べててよ」 すでに夢中で食べ始めているカルトを置いてヴァレリーの部屋へと向かった。 部屋へ入って俺はその光景にヴァレリーをキッと睨みつけると  後ろめたそうな面持ちで俺に挨拶をしてきた。 「あ~・・えっと・・・ルーク王子お、お待ちしておりましたわ」 「・・・僕の言った事を守りませんでしたね?何ですか?コレは!」 俺は部屋の隅に掛かっていた服を指差した。 「ナディと一緒に作っていたら楽しくなってきてしまって・・・気づいたら出来上がっていましたの」 「僕は言いましたよね暫くは安静にして、服作りもまだ駄目だと」 「ですが、もうこの通り元気ですので大丈夫ですよ?それよりもルーク王子完成した服を着てみて下さらないかしら?」 「私も見たいわお願い致しますルーク王子!」 ヴァレリーとナディアが期待に満ちた瞳で俺を見てくるので仕方なく俺は完成した衣装に着替えた。 着替えると女性人はキャッキャ言いながら服のチェックを始めた 「ルーク王子、図案にはなかったのですが 此方の装飾品をココに付けたらどうかしら?」 う~ん、そうだな悪くないな 「いいですね、お願いしますナディアさん」 「はい、お任せ下さい!こんな珍しい作りの服を私もこんなに早く完成させられるだなんて思っていませんでしたが、楽しくて夢中で作っていたらあっと言う間でしたわ!夜さんもお手伝いしてくださったので、凄く早く出来上がったんですのよ!本当に助かりましたわ」 ナディアがそう言った後 俺は夜の近くまで歩いて行って「何やってんだ、お前は」と言うと「やる事がなかったから、ちょっと手伝っただけだ」と少し照れたように答えた。 「とにかく今後はもっとゆっくりでお願いしますよ。睡眠はキチンととって、ちゃんと休憩を挟む事!いいですね!?夜もちゃんと見張ってるように!後、此方ガードナー様とアルト様の手紙です 読み終えたらまた此方で処分させていただきます」 俺はヴァレリーとナディアに手紙を渡した後 ガードナー達にも言ったように城を出たら一人で大丈夫なので俺の面倒とかは見る必要はないと言うと アッサリとヴァレリーとナディアはニッコリ微笑み「わかりました」と返事をした・・・怪しい・・・あの手紙に何か書いてあったっぽいな・・・ガードナーの奴一体なにを吹き込んだんだ? 2時半頃俺とカルトはタイラー家を後にし次の目的地ノヴァ家へと向かっていた。 「家の敷地内に入ったら静かにしてろよ、見つかったら厄介だからな」 「わかった」 カルトの言葉に俺はコクリと頷く。 「着いたぞ」 「これは・・・また・・・敷地広いねぇ・・・何?この高級感溢れる門は・・・カルト本当に貴族だったんだねぇ・・・」 「あ゛?どう言う意味だ」 え?だって今まで顔の綺麗なチンピラ騎士だと思ってたからね。 忘れてたよ、騎士の殆どが貴族って事を・・・カルトがタイラー家はこじんまりしてる方だと言っていたが これと比べてしまうと確かに納得だな。 ノヴァ家は大きな門の向こう側にだだっ広い庭があり  その先に暗くて良く見えないが屋敷らしき建物の窓から明りが見える 門から家までの距離はタイラー家よりはるかに長そうだ 「ん?カルト行かないの?ここからまた馬車に乗って行くんだよね?」 「・・・いや、この門からは入らない馬車も使わない・・言ったろ?見つかったら厄介だと誰にも見られないように家に入るんだ」 「え?じゃあ何処から行くの?」 「少し遠回りになるが 別の場所から入る、俺の部屋の近くに使われていない厨房がある そこから入る」 カルトが門から左回りで壁に沿って走り出しカルトの息も切れて来た頃ピタッと壁に向かってカルトが停止した。 「今から此処を登って中へ入る・・・いいか?家の者以外がこの壁を登ろうとすれば、この壁に埋め込まれている魔石が反応して警報音が鳴り響くようになってる だから俺が登りきるまで ちゃんと俺に摑まってろよ俺から絶対に離れるな わかったな」 「うん、わかった」 俺はギュッとカルトにしがみつくとカルトは壁に手をかざした。 すると壁に氷の突起物が現れ、その上を爪先と右手だけで素早くジャンプして登り 中へ入って庭を暫く行くと屋敷の小さな扉のドアを開け中へ入った。 「ここが、厨房ですか?広いですね・・・」 「俺が騎士団に入る前までは使ってたんだが、今はもう使っていない」 「カルトが使ってたの?」 「いや、殆ど此処には入った事はないな、俺の専属の執事と料理人なんかが使ってたんだ」 「凄いね・・・カルト専属の料理人がいたんだ」 「今は俺の部屋位しかこの辺の部屋は使ってないが・・・昔は俺の使用人達が住み込みで働いてたんだ、俺の食事もだが使用人達の食事もここで作ってたな」 カルトが話している最中 俺は何者かの気配を感じ取った。 「カルト・・・誰か居るよ?」 「何・・・?」 俺が気配のする方に視線を向けて言うとカルトも其方の方へと顔を向けた 「カル・・・お前こんな夜中に何をコソコソとやってるかと思えば、幼い少女を誘拐か?」 声と共に突然部屋の明かりが点けられその人物の姿がハッキリと見えるようになった。 カルトに似た顔立ちの黒髪の深い青い色の瞳に、左目に泣き黒子がある男が此方を見て立っていた。 「・・・っ!?シャルか、アンタ何でここに・・・家に帰って来てたのか」 「カルト何度も言わせるな、ちゃんと『兄さん』と呼べといつも言っているだろうが」 「それより何でこんな時間にこんな所にいる」 「お前が最近家に帰っていると聞いたんでな、どうせ次の戦の準備でアタフタしているのだろうと思って兄として俺も何か餞別でもやろうと思って来てみたんだが・・・お前は家を抜け出した後のようだったから此処で張っていたんだ・・・カルは昔から抜け出す時はこの厨房を使ってたからな、くくくっ・・・お前も変わらんな、ああ・・・いや変わったか?俺の記憶ではお前は子供が好きではなかったはずだが」 そう言って男は俺に視線を移したので目が合った俺は慌てて挨拶をした。 「初めまして、ツバキと言います。こんな夜更けにお邪魔して申し訳ございません」 「ん?ツバキ・・さん、ですか・・・どっかで聞いた名だな・・・私はカルトの兄で【シャルロット】だ、それで何故君はカルと一緒に・・」 「オイ!それで?餞別って何だ?訳に立たない物ならいらんぞ」 俺とシャルロットが挨拶をしているとカルトが兄から俺を隠すように体の向きを変えた。 「ああ、私の部屋の魔石を好きなだけ持っていけ魔石なら訳に立つだろう?少なくとも食器よりは訳に立つと思うのだが?」 「母さんから聞いたのか・・・食器は食器で必要だから、母さんに頼んだんだ。だがシャルが持ってる魔石か・・・シャル!今好きなだけって言ったな、遠慮なくアンタの持ってる魔石もらっていくぞ!」 「では、俺の部屋に来い・・・早く選んで持って行ってくれ 俺はもう眠い・・・明日の・・いやもう今日か、朝には城へ戻らないといけないからな」 カルトとシャルロットがそう言って厨房の部屋から出て長い廊下を歩いている途中俺は小さな声でカルトに聞いた。 「城?お兄さんも騎士なの?」 「いや違う、シャルは城の魔石の管理と宝物庫の管理なんかをしてるらしい・・・俺もアイツの仕事内容はそれぐらいしか知らねぇな」 そんな話をカルトと歩きながらしていると行き成り近くの大きな扉が開いた。 「ただいま~今日もいなかったわぁ・・・もう~どうして~?」 「え?母さん?こんな時間に一体どこへ行っていたんですか?」 どうやら俺達はちょうど玄関の前を歩いている時にアウラーが帰って来たようで 何処となくグッタリとしたアウラーにシャルロットが少し驚いた表情で声をかけ カルトはアウラーを見たとたん眉間に皺を寄せ小さく舌打ちをした。 「カルディアちゃんのお店ぇ~シャルちゃんはまだ起きてたのねぇ」 「そうだ!思い出したぞ!ツバキって最近母さんが言ってた子か!」 シャルロットが俺に視線を向けると、アウラーもそれを見て此方に顔を向けた 「あら、カルちゃ・・・え?・・・え!?えっ!!?何!?何で!?ツバキちゃん!?嘘!?ええ~~!!??どういう事なのぉ!?どうして家にいるのぉ!?」 「こんばんは、お久しぶりですアウラーさん こんな時間にお邪魔してしまって申し訳ございません」 俺の存在に驚いているアウラーに挨拶をして最後に頭を下げるとカルトが先程と同じように俺を隠すように体の向きを変えた 「母さん俺達は今急いでる、話なら後にしてくれ・・・シャル行くぞ」 急いで此処を離れようとしたカルトだったが慌てて駆け寄って来たアウラーに腕を掴まれそれは叶わなかった 「えっ!?嫌!カルちゃん待って!ツバキちゃんを連れて行かないでちょうだい!せっかく会えたのにぃ・・・どうして、そんな酷い事言うのぉ?ツバキちゃんに会いに私がカルディアちゃんのお店に毎日行ってる事知ってるでしょぉ?でも、何でカルちゃんと居るのぉ?・・・まさか!?この間私がフェルちゃんから奪っちゃえって言ったからって、カルちゃん貴方・・ツバキちゃんを無理やり・・・」 「カル、お前やはり誘拐してきたのか?」 「そんな訳ねぇだろうが!」 アウラーとシャルロットに疑いの目を向けられたカルトが大きな声で否定した 「あの!違うんです!私・・昨晩カルトさんに4人の男性に絡まれている所を助けていただいたんです・・・その時のカルトさんがとても格好よくて、その後私・・・断られるとわかっていたのですが勇気を出して自分の気持ちを伝えたんです・・・そしたらカルトさんも私と同じ気持ちだと知って 嬉しくて出来る限りカルトさんのお側にいたいと無理を言って今日は家に連れて来てもらいました」 「なっ・・・!?」 「ええ~~!!!?じゃあじゃあ!もしかしてカルちゃんとツバキちゃんは・・・」 俺が頬を染めながら恥らったように言うとカルトは驚いた表情で俺の方を見て アウラーも驚きの表情と声で俺とカルトの顔を交互に見た 「はい、カルトさんとお付き合いさせていただいております・・・でも、私のような子供が大事な息子さんとお付き合いしているなんてご家族の方は不安ですよね・・・だけど私カルトさん以外考えられないんです!本当にどうしようもないくらい好きなんです・・・お願いです・・・私カルトさんに相応しい女性になるよう何でも致します・・・ですから、どうか私とカルトさんを引き離そうとなさらないで下さい・・・ずっと一緒に居たいんです・・・ごめんなさい」 そう言って最後の台詞は消え入りそうな声で涙を浮かべた表情をアウラーとシャルロットにしっかりとアピールした後  カルトの首にしがみ付き「なっ!?オイ・・・」と今にも怒鳴りだしそうなカルトの耳元で 「カルト、他に誤魔化せそうな言い訳があれば言ってもいいけど?それに昨日僕が『カルトと結婚する』って言ったらカルト『ああ』って返事したよ?」と言うとカルトはピタッと口を閉じた 「・・・オイ、だがフェルドに知られたら面倒な事になる」 「そん時は、そん時だよ 面倒な事になったら別れたらいいんじゃない?」 カルトとコソコソそんな会話をしているとアウラーとシャルロットが此方へ駆け寄ってきてカルトを挟むように左右に立った 「泣かないでツバキちゃん!誰も反対なんかしないわ!私前にも言ったじゃない、うちのカルちゃんと結婚を前提にお付き合いをしてみない?って、だから反対どころかスッゴク嬉しいのよぉ~」 「そうだ、君とカルの結婚を反対する者などこの家にはいない 安心して交際を続けるといい・・・カル、必ずこの子を幸せにするんだぞ!ツバキさん もしカルに泣かされたら、いつでも私の所へ来るといい 私は君の味方だ」 「ああ~!ズルイわシャルちゃん!私も勿論ツバキちゃんの味方よ!でも・・ツバキちゃん本当にカルちゃんでいいの?母親の私が言うのも何だけどカルちゃん顔怖いでしょぉ?ツバキちゃん位の歳の子は皆泣いて逃げて行くのよぉ?」 「いいえ、とても優しい人です。お付き合いする前からいつも私の身の心配をして下さって 危ない時は颯爽と現れて助けてくれるんです、カルトさんはこの国で一番カッコイイ私の騎士なんです」 俺がそう言ってカルトの頬に自分の頬をくっ付けて満面の笑みで言った後カルトから顔を少し離し頬にキスをすると、ウンザリした顔をしていたカルトが俺を睨み付けてきた。 だが俺の次に発した一言でカルトの表情が変わる 「今僕の口に口付け出来たらご褒美に甘いお菓子がいっぱい入ってる石をあげるよ?」 カルトの耳元でそう呟くと俺と視線を合わせ少し考えているようだったが  柔らかい笑みを浮かべ俺に軽くキスをして来た。 「これでいいだろう?」と言う表情で微笑みながら俺を見つめて来るカルトに俺も満足げに微笑み返した。 呆然と口を開きそれを見ていたアウラーとシャルロットが未だ信じられない様な光景を見るような面持ちでゆっくりと口を開いた。 「本当に好きなのね・・・(あの子供嫌いのカルちゃんが子供を抱き上げていた事にも驚いたけど・・・あんな表情したカルちゃん初めてみたわ)」 「本気なんだな、カル・・・(子供が嫌いなあのカルがあんなに小さな子と付き合っている事にも驚きだが、まさか人前で しかも俺達の前であんな事するとは)」 「あの・・・御2人にお願いがあるのですが、私とカルトさんがお付き合いしている事は誰にも言わないで欲しいのです」 「ええ~!?どうしてぇ」 「理由を聞いてもいいかな?」 俺が困った表情で言うとアウラーとシャルロットが問いただしてきた 「もし、この事がフェルドさんの耳に入ってカルトさんと気まずくなったりしたら嫌なんです・・・特に今は戦争の準備で大変な時なので・・・ですので、カルトさんが戦場から帰って来て落ち着いてきたら自分達の口からフェルドさんに報告しますので、その時まではどうかお願い致します」 「そうね!それがいいわね!私誰にも言わないわ!シャルちゃんも良いわね!」 「ええ、わかりました」 それを聞いた俺とカルトは取り敢えず暫くは大丈夫だろうと互いに視線を合わせ微笑んだ。 その後、お茶の用意をして別の部屋で待ってると言ったアウラーと別れた俺達は シャルロットの部屋に行った。  カルトは部屋に入るなり俺をソファーへ降ろすとケースに綺麗に並べられていた大量の石を無視して部屋中の引き出しを開けたり高い本棚の上などを踏み台を持って来て確認していた。 どうやら初めから高価な石を何個か目につけていたらしく、シャルロットが隠していたにも拘らずカルトは高価な石を見つけ出しては それを見ていたシャルロットと2人で口論していた 結局見つけ出した魔石とケースに並べられていた大量の石も全て 手に持っていた袋に詰めてしまったカルトにシャルロットはガックリと肩を落としていた。 石の入っている袋を俺に持たせ再び俺を抱き上げたカルトが満足げに部屋を出た  その後ろをゲッソリとした面持ちのシャルロットが続いて部屋から出ると「必ず返せよ」と念を押していた。 廊下を進んでいるとシャルロットが「先に母さんの所に行ってるからな」と言い残し途中で別れた。 「ねぇ、カルトどこ行くの?」 「倉庫部屋だ、そこに使ってない食器がある。お前が適当に選んでくれ 調理器具なんかも置いてあるから必要なら好きなものを持って行っていい」 「あ!直接見て欲しいって食器の事だったんだね、その為に僕を家に呼んだんだね?」 「まあ・・・そう・・だな」 あれ?何だか歯切れの悪いお返事・・ 気になってカルトの顔に視線を向けると 先程まで大量の魔石を手に入れて上機嫌だったのが、今険しい顔をしている。 「カル」 「着いたぞ、この部屋から必要なものを持って行くといい」 俺がカルトにどうかしたのか聞こうと声を掛けたが目的の部屋へ着いてしまった為、聞けなかった。 カルトが部屋を開けると中は倉庫部屋と言っていたが普通の部屋と変わらず、 食器などもちゃんと棚に綺麗に並べて収納されていた。 「俺は此処で待ってる、お前は好きなのを選んで持って行くといい」 俺を床に降ろして石の入った袋を持って近くのソファーに座るカルトに俺は「わかった」とだけ返事を返し、 一通り見て回った後 使えそうな食器や調理器具を収納用の石に入れていたらカルトが声を掛けてきた。 「ルーク」 「ん?何?」 「さっき甘い菓子が入ってる石を俺にくれるって言ってたよな」 「言ったよ、何?今欲しいの?」 「ああ、お前を待ってる間暇だしな」 カルトはソファーから立ち上がると俺の元まで歩いて来た。 それを見てカルト用に作っておいたお菓子の入ってる収納石を出してカルトに渡した。 「はい、これがカルト用の石ね・・・あと中に入ってるお菓子の名前を書いた紙ね」 「ああ・・・・・・なあ、お前が最初に俺に出したあの菓子は入ってるか?」 「最初?・・・ああ、カルトが大金置いて行った時のあれか・・・入ってるよ」 「どれだ!?」 俺がお菓子の収納石と中に入ってるリストの紙を渡した後 どうやらパフェがまた食べたいようで目を輝かせて紙を俺に向けてきた。 「そんなに気に入ったの?ここの『パフェ』って書いてあるのがそうだよ、色々種類はあるけど・・・えっと・・あった、これがカルトが食べた『チョコレートパフェ』だよ 他にもイチゴと抹茶と葡萄と栗とカボチャなんかもあるから色々な味を楽しめると思うよ・・・だけどパフェにあんな大金置いてくなんて、相当変な騎士だと思って僕かなり引いたよ」 「あれは本当に衝撃的だったんだ、一口食っただけで全身が震えたぜ・・・渡したあの金でも安い位だぞ」 「ぜんぜん安くないよ!あんな大金渡されて僕がどれだけ焦ったと思ってるの!?まったく・・・それよりさっきよく僕に口付け出来たね・・・もっと渋るかと思ったけど、まさか本当に口にするとは思わなかったよ」 「お前な・・・まあそうだな、多少は躊躇ったがお前が嫌がっていないならいいかと思ってな・・・だからカールへの褒美だが お前が嫌じゃないなら目を瞑る事にした、だが次からはあいつに褒美をくれてやる時は必ず俺を呼べ・・・俺が立ち会うから いいな!必ずだ!」 「え~・・・絶対カール嫌がるよ~」 「もしお前が嫌がってると俺が判断したら、すぐに止めに入る」 カルトは最後念を押すように「分かったな!」と睨み付けながら強く言うので仕方なく「は~い」と返事をした。 暫く黙って黙々とパフェを食べていたカルトだったが再び口を開いた。 「そういえば、金幸際の時の黒い獣の奴隷を城で見かけねぇと思ったら タイラー家にいたんだな」 「え?うん、僕が戦争から帰って来るまで預かってもらおうと思って」 「・・・なあ、結局ヴァレリー様は何の病だったんだ?」 「・・・さあ~、何だったんだろうね」 「俺には話せないって事か?」 「そんなに気になるの?助かったんだし別にもういいじゃん」 「よくねぇよ・・・タイラー家には俺もフェルドも餓鬼の頃から世話になってんだ、特に俺はガードナー様とアルト様に助けていただいた恩がある。ヴァレリー様が病にかかったと知った時 ノヴァ家とデフェール家でこの国の医師だけでなく他の近隣国の医師にも頼み込んで来て貰ったんだが、結局病状はわからないままだった・・・それをお前は意図も簡単に治しちまった・・・!」 「あ!そうだった!ヴァレリーさんの病気が治った事は誰にも言わないでね、フェルドさんにも言ったら駄目だよ」 「・・・ちゃんと理由を言えば絶対に言わないと約束する」 「わかった・・・言うよ、ヴァレリーさんの病の原因は『毒』だよ」 「――っ!?毒だと!?何者かに命を狙われてたって事か?」 驚いてソファーから立ち上がったカルトに俺は国王と第一王子が毒を送っていた事を話した 「クソがっ――!!これだから王族は嫌いなんだ!ヴァレリー様だけでなく、まさかナディアにも毒を!まさかそこまでしてるなんて!脅されていたのは知っていたが、専属の騎士にさせる為だけに その家族の命を平気で奪うのか!王族ってやつは!――――・・・待て・・・俺は第一王子の専属騎士を断った・・・まさか、俺も・・・」 そう言って蒼白になったカルトの顔を見て俺は手に持っていた食器を棚に戻しカルトにソファーに座るように言って俺もその隣に座った 「カルトの場合、ちゃんと国王が僕の騎士にするって言ったし、もしタイラー家のようにご家族に何かあっても僕がちゃんと対処するから大丈夫だよ・・・今回、ヴァレリーさんとナディアさんを助けられたのはフェルドさんとカルトが金幸際の時に教えてくれたからタイラー家の人達を助けられたんだよ」 「俺の家族が危なくなった時も お前が助けてくれるって言うのか・・・?」 「当たり前でしょ・・・カルトは僕の騎士で婚約者でもあるんだから」 「そうか、それは・・・――あ゛?『婚約者』だと?」 「そうでしょ?ご家族にもお付き合いを認めてもらえたし、口付けまでしたしね・・・でもカルト今回はあれでいいけど、出来れば次回はもうちょっと深い口付けがいいかなぁ・・・」 「次回?そんなもんはねぇ。二度とやるかあんな事・・・なあ、ウチの家族に王族から何か貰ったりしたら気をつけるように言うのはありか?」 「んー?まあ、それくらいなら大丈夫かな・・・カルトも気をつけた方がいいよ~?王族から貰った食べ物には毒が入ってる可能性があるからね」 そう言って俺はソファーから立ち上がり食器棚に向かいながらカルトの食べているパフェを指さした。 「これに毒が入ってても俺は食うけどな、これを食って死ねるなら本望だ」 そう言って笑みを浮かべながらパフェを食べ始めた。 「・・・おい、まだ掛かるのか?」 「欲しい物は決まってるんだけど、一々(いちいち)踏み台を移動していかなきゃいけないから時間がかかるんだよ」 「しょうがねぇ、俺が抱えて移動してやるから急げ」 パフェを食べ終えたカルトがソファーから立ち上がり俺を抱えあげた 「ありがとうカルト、助かるよ」 「このままじゃあ夜が明けちまいそうだからな・・・あ?・・・お前膝どうした?怪我してんぞ」 「ん?ああ・・・これね、昨日あの4人組の男にぶつかった時に転んで擦り剥いた」 「何でカールに言って治してもらわねぇんだ?」 「これくらいで?言わないよ、こんなかすり傷で」 「まったく、お前は・・・――そうだルークこの魔石に光の力を流し込んでみろ」 「これに?」 「そうだ」 カルトは袋から一つの宝石を手にとって俺の前に差し出した それに光の魔力を流し込むと その石を俺の膝へカルトが当てた 「あ!治った」 「これなら、大丈夫そうだな・・・もしお前が怪我をしたら この石に力を注いでから治療すれば怪我をしても自分で治せるだろう・・・だが、この石だとかすり傷を治す程度の事しか出来ねぇから 戦場へ行く時はもっと質の良い魔石を用意しておく」 「へぇ~この石を通せば僕も自分の治療が出来るんだ」 「・・・一つ聞いておきたい事がある、今俺は攻撃か防御どちらの魔石を優先して買うかで迷っている・・・フェルドに聞いてもどっちでもいいとか言って全部俺に丸投げだ!ルークお前は光魔法はどの程度習得している?出来るのは治療魔法のみか?防御壁は使えないのか?」 「自分を守る程度なら防御壁魔法使えるけど・・・」 「上等だ・・・お前の守りは大丈夫そうだな、じゃあ攻撃用の魔石を」 「待ってカルト!買うなら防御の石にして」 「なんでだ?」 うっ!それは… もし俺が戦う破目になったら 戦闘しながら兵士達の治療もとかキツイ・・・ってか無理だ! だからせめて俺が戦ってる時は魔石で自分の身は自分達で守って欲しいんだよな 「えっと、攻撃よりも防御で身を守る方が大事な気がするの・・・防御優先にしよう?カルト」 「・・・まあ、いいか。明日防御用の石を購入してくるか・・・治療用の石はどうするか・・・治療魔法は全面的に任せて平気なのか?もし、不安なようなら治療石を買っておくが」 「う~ん・・・そうだね大きい怪我は治すけど小さい怪我なんかは自分達で治して欲しいから、それと同じ石を全員分買って置いてほしいかな」 俺は先ほど俺の膝に治療で使った石を指差した 「治療石(ちりょうせき)と防御石(ぼうぎょせき)を購入したらお前が石に魔力を入れてくれないか?」 「え?魔力を入れるって・・・今みたいに?」 「ああ、中身が空の状態の魔石だとかなり安く済む・・・それに石の質だけでなく中に込められいる魔力の質でも値段が変わってくるんだが・・・店で売られている魔力入りの石は満タンの状態で売りに出すのが決まりなのに・・・下手すると量も少なく質の悪い物が混ざってる事があるんだ・・・その点お前なら信用出来る」 「そうなんだ わかった、買ったら僕のとこに持って来て・・・あ、治療用の石はカールにも手伝わせたらいいんじゃない?」 「ああ、そうだな そういえばアイツも治療魔法使えたな」 「明日カールに頼んでみるね」 「・・・もしまた何か要求されたら俺に言えよ」 「・・・大丈夫だよ、それにしても・・信用ないねーカール かわいそう」 「お前もカールには気をつけろよ」 「はいはい」 その後、アウラーとシャルロットとお茶をしてノヴァ家を後にした。 「明日・・・じゃねぇな、今日午前中に買い物を済ませたら昼頃部屋に行くから昼飯は食わずに待ってろ」 「・・・また、僕の部屋でご飯食べてくの?」 「悪いか?」 「別に良いですけど・・・」 「じゃあまた後でなルーク、昼メシ楽しみにしてる」 「カルトが楽しみなのは、食後のお菓子でしょ?」 「何だ、わかってるじゃねぇか」 そう言ってクツクツと笑いながら去って行くカルトの後姿を見届けた後 俺も城へと帰っていった。

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