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第1話
どうか幸せに。
これからの道が、恙無く幸せでありますように。
そして願わくは、次に出逢うときはどうか―――
少女がいた。石畳の上に両膝を付き、祈るように胸の前で手を組んでいる。
少女の前には一人の老人がいた。痩身の体躯に白いローブを纏い、その表情は厳しくも哀しくも見えた。
少女の後ろには男が二人いた。顔には白く表情のない仮面を付け、腰に剣を佩いて両脇に立つ。
老人が朗々と歌うように罪状を読み上げる。
そう、これは裁きの場面。
彼女は許されない罪を犯した。
死すべきはずの一人の英雄の命を救ったのだ。
少女は世界の創世神レグルスに仕える巫女である。巫女は神のために祈り、世界のために理を読む。その身も心も、すべてレグルス神のものである。
だが少女は、一人の英雄を愛した。
世界を平定し、正しくあるべき姿に導いた雄々しい英雄を。
少女は男のために理を読み、死すべき運命にあったそれをねじ曲げた。
死神は魂の数を数えるだけで、質を問わない。
英雄の替わりの魂があれば、彼は死なない。
彼女は迷うことをしなかった。
「クラリーチェ・ファルク、そなたをここに断罪する」
老人の顔が苦々しく歪んだ。
老人は少女を幼い頃から知っている。
「何か言うことはあるか?」
老人の問いに、少女は柔らかく微笑んで首を振った。
剣が一閃した。
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