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#1 感染者隔離施設管理責任者クレア・バートンの手記

2XXX年 5月 XX日 『獣人病』最初の感染者A氏の射殺から一年が経過した。 A氏は射殺時点で感染から25日が経過していたとみられる。 獣化の第三段階を過ぎ、理性を喪失した状態で、自宅を訪ねた知人Y氏を襲い、暴行ののち殺害。 その後外へ出て通行人二名を殺害、六名に重軽傷を負わせ、駆けつけた衛兵により射殺された。 その4日後、第二・第三の感染者とみられるB氏・C氏が同様の獣化状態で隔離された。 両氏は友人関係にあり、A氏とも面識があった。 被害者を出す前に両氏が隔離されたのは、C氏がB氏を抑えた上で自ら衛兵隊へ通報したことによる。 隔離時点でB氏は感染から23日、A氏と同じく第三段階にあり、7日後に隔離された施設内で死亡。 C氏は感染から14日と、前述の二名よりも日が浅く、獣化は第二段階であった。 C氏の協力により、一連がウイルスによる感染症であることがわかった。 『獣人病』の呼称で周知されることとなったそれは、ヒトがケモノ化する変異症状。 全身が硬質な体毛に覆われ、骨格の変化、受容器官の異常発達を伴い、クマやオオカミに近い姿に変貌する。 C氏は隔離から16日後に死亡。 『獣人病』について現在わかっていることは下記の通りである。 ・感染するのは人間のアルファ個体のみ。なおA氏の感染経路は未だ明らかになっていない。 ・感染2日目で爪から順次獣化が始まり、5日を過ぎた頃から視覚・聴覚・嗅覚などの感覚が鋭くなる(第一段階)。 10日ほどで顔など見た目にもわかる程度にまで獣化が進む。 15日を過ぎると時折本能的な言動がみられるようになる(第二段階)。 20日ほどで外見が完全に獣化(第三段階)。 25日で言語・理性を喪失。 29日目で急激に衰弱し、30日目で死亡。 ・感染者はオメガのフェロモンに過剰反応する。 A氏に殺害されたY氏はオメガであり、そのフェロモンに反応したA氏に性的暴行――完全に獣化し、言葉通り獣であったA氏にその罪名が適切であるかは意見の分かれるところであるがーーを受け、項を食いちぎられた状態であったことから、本能的に番を求めるような行動をとると思われる。 発症後の治療法・延命法は現時点で見つかっておらず、感染者は直ちに専門施設にて隔離される。 これまでに二百名以上が感染、死亡。 さらに拡大するとみられていたが、ウイルス自体の繁殖力が比較的弱かったこと、病状と予防法が周知されたことにより現在、感染被害は収束傾向にある。 5月XX日現在、隔離施設内の感染者は十名。 第三段階以上が二名、第二段階が五名、第一段階が三名。 これ以上、新たな感染者が搬送されてこないことを祈る。

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