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8年ぶりの同窓会
今回の同窓会は高校時代のモノで。
会場は前回と同じ居酒屋にした。
前回から何と! 8年ぶりの集まりになる。
開始時間の大体30分前位から、懐かしい顔が
集まり始めた。
全員、28才から29才。
アラフォー目前のおっさん集団ってとこかな。
仕事に就いている者は結構責任のあるポストへ
就いていたりもする。
と、言っても、大半が店長・マネージャー・主任、
クラスの役職だが。
お酒など入らぬうちから、懐かしい話に華が咲き。
気分はすっかり高校生(ティーンエージャー)だ。
もうすぐ7時になろうとするギリギリの時間――。
当時、ほとんどの野郎共(偏屈な俺を除く)が
憧れていた、
(母校は中高一貫教育の男子校だった)
”理系クラスの王子様=:羽柴 清貴 ”が来た。
彼が現れた途端、ソコだけ時の流れが止まり、
一面ピンク色に染まって。
おまけに薔薇の花びらまで舞い散っているように
見える。
彼はうちらの3学年先輩なので33~4才だが、
学生時代と全く変わらない凛々しい佇まいと
端正な顔立ち。
今日集まったメンツの誰もがそう思ったに違いない。
みんな一瞬言葉を失ったように、ただ ただ
彼を見ていた。
最初の乾杯と共にお待ちかねの祝宴が始まる。
乾杯の後は各々の簡単な挨拶=近況報告。
前回もそうだったが、男子達は地元残留6割り、
残り4割りは地方に転勤していたり、
海外勤務だったりと色々。
既婚率は約8割。
乾杯の後はそれぞれの席に座って
隣の人間との会話をしていたが、
30分も過ぎると席なんてあってないようなものに
なっていた。
……俺はまだ自分の席に座ったままで
料理にはしをつけていた。
「―― そう言やぁりつとは最後の学園祭のあと
デートしたっけね。覚えてる?」
「もちろん覚えてるよ。よりによって野郎とデートなんて、
俺の人生で数えるほどしかないもん」
先輩はバスケ部のポイントゲッター。
「先輩ってば後輩の中にはもちろん、他校にだって
ファンがたっくさんいたのに、彼女作らなかった
よねー。俺の感が当たってたとしたら……
好きな女子いたでしょ?」
「それはお互い様だろ~」
「え?」
「だって、俺と噂になった時だって全く普段と
同んなじだったし、デートだってあんまり
楽しかなかったろ?」
「そ、そんな事ないよー」
「今さらお世辞なんか言わなくていいから。
俺ねー実は、りつが誰を好きだったのか、
大体分かってるんだぜ」
「いや、分からないと思うけどなー」
「クラスの連中じゃなく、上級生の中にいたんと
ちゃう? りつの本命くん」
(うわ ―― なんでそんな事、知っとるん?
それが俺のマジな初恋で、初失恋だった。
そりゃまぁ、俺だって自分の程度はわきまえてる
つもりだけど、まさか、告白と同時にあんな
理由でごめんなさいされるとは思っても
見なかったのである)
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ホントは、あのままずっと告るつもりはなかった
なのに! お節介焼きのあつしが、俺の意中の彼を
放課後・校舎裏の空き地に呼び出してしまって……
案の定、彼からは”ごめんなさい”とお詫びされ、
「ほんとにごめんね。べ、別にキミが嫌いとか言う
ワケじゃないんだ。僕……」
「あ、いいよ いいよ。気にしないでぇ。ダメ元で
言っただけだから」
「……キミ、口は固そうだから思い切って言っちゃう
けど……」
(え ―― 思い切って、って何を?)
やおら彼は後方の非常口へ向かって
『たっちゃん』と明るい声で呼びかけた。
と、その非常口から、学年いちのツッパリと
言われている男子が出て来て、彼に歩み寄り
当たり前って感じで彼の隣へ止まってその腰へ
手を回した。
(ちょ、ちょっと待って……コレってもしや)
「僕、**達也と付き合ってるんだ」
(あー、やっぱりぃ~)
「お前、1年の小鳥遊だったな。**に告った勇気は
認めてやる。が、**は俺のもんだ。この先こいつに
ちょっとでも妙な真似しやがったら、この俺が許さ
ねぇ。分かったか」
そう、ドスの利いた声で宣言した**に
俺はただ黙って頷くしか出来なかった。
===============
「……」
「お前さ、根性無さ過ぎ。
あの時のデートにしたって、いっそ俺が断れば
よかったかなと思ってる」
「ちょっと待って ―― そこまで知ってるなら
土田先輩がゲイだったって事も知ってたんじゃ
ない?」
「…………」
「やっぱりね~」
「まさかお前、告ったのか?」
「悪い?」
「い、いや、別に悪かぁねぇけど」
羽柴先輩と俺が何やら真顔で話し込んでいるのを見た
連中がやんやと騒ぎ出す ――
「おいおい、14年前の噂のカップルが今また
恋再燃かぁ?」
「同窓会で不倫しちゃうの多いみたいだぞー」
”不倫”って何だよ……俺らはまだ2人とも独身、
……だよね?
「ちょっと! 先輩と俺は何もなかったし。俺にも
先輩にも他に好きな人いたんだからね」
「えっ? そうなの? 2人は付き合ってたんじゃ
なかったの?」
「残念でした。俺は他に意中の人がおったし、
先輩だって……ね?」
「そうなのか? キヨは他に彼いたのか?
初耳だぞ」
「んなもんいないよ。俺、もてなかったし」
「だから今ね、先輩に説教してるの。
って事だからもう少し2人だけにさせてね」
「はぃはぃ ――」
「―― 結婚は、しなかったの?」
「したよ。でも、カミさんには先立たれた」
「あ ―― 俺ってばごめん」
「いいよ。もう、5年も前の事だ。今はお転婆娘の
子育てに右往左往してる」
「へぇー、先輩が子育てかぁ。何か想像つかないや」
「そっかぁ? りつは?」
「え?」
「だから、子供。あ、ってか、結婚はしたのか?」
「あ、う、うん……ま、色々とあって、今はフリー」
「なんだぁ、俺ら似たような境遇なんじゃん。
で、子供は?」
「出来てたらこんな萎れてないよ」
「そりゃあそうだ……」
「え、えっと ―― 今日は思いっきり飲も」
「お ―― おぅ、そうだな」
先輩の空のグラスへビールを注ぎながら、
高鳴る鼓動を必死に抑える律だった。
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