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第1話

「リンゴを5つ」 「あいよ」 店主からリンゴを受け取り、その手に代金を渡す。 熊特有のゴワゴワした毛並みが少し手のひらに刺さったが、それを気にするでもなく礼を言って帰路についた。 早速1つを手にとって齧ると程よい酸味が利いていてとても美味しい。 きっと鮮度に拘っているのだろう。 またあの店に行こう、そう思える味だった。 「おい!誰かそいつ捕まえろ!!」 後ろからかかった声に反応するよりも早く誰かがオレにぶつかった。 拍子に転がる歯形付きのリンゴ。 「っ、てめぇ!......あ?」 ふわりと花の匂いがした気がした。 「さっきの兄ちゃん!ちょうどいい、あの兎 捕まえてくれ。礼はする」 追い付いた熊の店主から事情を手短に聞く。 ぶつかってきた兎は、小柄を武器に盗みを頻繁に行っているらしかった。 「盗られたのは?」 「リンゴをいくつか」 「んじゃ、これで勘弁して。足りない分は後日 金を持ってくる」 「え、ちょ…兄ちゃん!?」 リンゴを3つ渡して兎が向かった方へ走り出す。 なぜ自分がこんなにも初めて見たあいつのことが気になるのかはわからないが、とにかく放っておいてはいけない気がした。 そしてあの花の香り。 イヌ科の狼であるオレが間違えるはずがない。 きっとあいつはΩ。 オレが探し続けていた血筋の1人。 絶対に手にいれてみせる。

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