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発情

 それから一時間後。俺は少しの荷物だけ持って、城下町にいた。  もともと屋敷は出て行く予定だったし。捨てられるのなんかごめんだ。だったら、俺から捨てた方がいい。  胸が痛くなった気がしたのは、気のせいだ。惹かれかけていたようなのも、多分気のせい。優しくされたから、勘違いしただけ。  あてもなく歩きながら、 「とりあえず、仕事を探さないとなー」  親父さんなら喜んで雇ってくれるだろうが、すぐにリュカに見つかるだろう。 (あいつに、探す気があれば、だけど……)  あの宿屋に戻って、リュカが探しにこなかったら、そしたら。 (俺のこと、いらないってことなんだよな……) 「……!」  ドクンっと心臓が大きく鼓動した。  全身が、焼けるように熱い。息苦しくて喘ぐ。  周囲の人間が、数人落ち着きなさそうに周りを見渡し始める。 (多分これは)  ヒートだ。  反応しているのは、アルファ。 (さいっあくのタイミングだ)  屋敷にいるときならば、とりあえず襲われる心配はなかった。  だが、城下町では危ない。  早く、人気のないところに行かなくては。  正直動ける状態ではなかったが、俺は足を引きずるようにして、路地裏に移動した。  座りこんで、建物に寄りかかる。  休んで、多少ましになったら、医者に行って、抑制剤をもらおう。オメガは施設にいるものとはいえ、抑制剤を扱う闇医者はいるはず。手持ちが心もとなくなるが、抑制剤は必須だ。仕方ない。  回らない思考でそう考えていたとき、 「おい。この匂い、オメガじゃね?」 「バーカ。こんなとこにオメガ様がいるはずねーだろ」  近くで、男たちの話し声がした。 (俺を見つけるなよ) そう念じながら、息をひそめる。 「だってこの甘い匂い……」  声と足音が、近づいてくる。  マズいかもしれない。  移動するか、と腰をあげようとしたとき。 「見ぃつけた」    息がかかるほど近くで、男の声がした。 「わけーし、顔可愛いな」 「!」  逃げようと立ち上がったところを、手をつかまれる。  人間の二人組だ。 「そんなに慌てなくてもいいじゃん」 「そうそう。何でオメガ様がこんなとこに一人でいるのか知らねーけど、俺たちと気持ちいいことして、ヒートが収まるならお互いいいことづくめだろ?」 「いいわけ……」  ない。そう言おうとした唇をふさがれる。 (気持ち悪い)  リュカにされたのと全然違う。  嫌悪感で吐きそうだ。唇から逃れようともがいても全然力は入らないし、第一二人がかりで俺に勝ち目はない。  唇の間からぬるりと入りこんできた舌を、思いっきり噛む。 「いって!」  やっと唇が離れて、俺は袖口でごしごしと拭いた。 「顔のわりにお行儀が悪いみてーだな」 「オメガなんか突っ込めばおとなしくなるだろ」 「そうだな」  石畳の上に勢いよく押し倒されて、押さえつけられる。シャツを開かれて、トラウザーズが下ろされた。  俺の意思とは反して、飛び出た自身は立ち上がって、蜜まで出ている。俺は抱かれたくなんかないのに、体はまるで抱かれたがっているかのようだ。こいつらを受け入れてなどいないのに。  男たちがごくりと喉を鳴らす音がした。 「やめ……!」  必死で手足を振り回して抵抗するが、二人で押さえつけられるとどうしようもなかった。胸の飾りをいじられ、後孔に指を突っ込まれて、気持ちが悪いのに、俺の体はすんなりと受け入れる。 (これが……オメガのヒートか)  番になれば別だろうが、まだ俺はリュカと番になったわけではないから、誰でも受け入れられるようになっているのだろう。  俺以外に結婚したい相手がいるのだとしても、初めては、リュカがよかった。リュカ以外とはしたくなかった。  後孔に指とは違う固いものが当てられる。 (入れられたくない……!)

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