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第1話
今日は天気がいい。
西日本らしく、梅と桜が同時に咲く。
(亜熱帯ちゃうよな、熱帯だろ?)
独りごちてみる。
「オカン、行ってくる。」
「おぅ、いってら。」
一時期は不登校でどうなるかと心配したが、今は好きな仕事をして同居はしてるが、自立してる。
(一人暮らししたい、か。俺一人には広過ぎるなぁ。)
週数回、近くのジムに通って身体を動かすのが、習慣になってる。
まぁ歳も歳だから、油断すると腹がでてしまうから仕方ない。
(この歳でパートナーいねーの、寂しいなぁ。(´Д`)ハァ…)
上質な豆をゴリゴリと挽きながら、今日の予定を立てる。
仕事は投資家。
子供も自立してるが、精神的にまだ不安定だし、当の自分も通院があるから社畜にはなれない。
収入は何とか安定してきて生活に不便はない。
ただ。
ただ、あんな目にあったのに、パートナーが居ない。
む、虚しい。
「1人もんなのに、キングサイズのベッドって虚しくない?」
五月蝿いわ。自分が一番よく分かってます。
「あー!アレクサンダーみたいなネコはいねーかー!!」
「ウッサイ!叫ぶなら自分の部屋で叫べや!」
慰めてもくれない子から冷たいお言葉。
3LDKのマンションに子と二人暮らし。
まだ数年なのに子は独立。
おい、もう老後なの?1人だよ。
数年前。
国の支援で生きていた時。
子は言った。
「墓に入る時、本当の自分で入った方がいいやろ?」
もう中年もいい歳だった。
ラストチャンスかもしれない。
新しい人生の第1歩を踏み出した。
「名前はどうしましょう?」
「鈴木 信一でお願いします。」
「では、次回からこのお名前でお呼びしますね。」
「よろしくお願いします。」
病院から出るとまだ真冬の寒風吹きすさぶ中、
自分の中で何かが動き出したのが分かった。
「信一?だっさい。」
「お前、全国の信一さんを敵に回したからな。」
「ね、もうさ、オカンも不自然だし。あだ名で呼んでいい?」
「ん?別にいいけど、なによ?」
「ジミー。」
「.......」
まぁいい。
それに今の自分には密かな楽しみがあるのだよ。子よ。
定期的に通ってるジムに、超べっぴんさんが来るのだ。
勿論、声なんてかけない。眺めてるだけで幸せなのだ。
その子は、ブロンドで青い目のロングヘアの男の子。声なんてかけたら下手したら犯罪かもしれないし、ジム出禁になっちゃう。
たまに目が合うと、軽く会釈する。
(ラッキー!)
その日のトレーニング張り切っちゃうもんな。
でも、誰とも喋らない。
日本語出来ないのかな?
自分も英語できないけど。
時折、視線を感じるけど自惚れるな。と自戒してる。
いつものトレーニングが終われば、彼とはお別れ。
後ろ髪引かれながらも、風呂に入って帰宅。
(次も来るかな?挨拶位だったら良いかな?)
夜、仕事部屋で早く終わったんでSNSの放送を始めた。
自分はオープンなので、顔出し配信。
「おー、いらっしゃいー。コメントよろしくー。」
<あら、信ちゃん、ご機嫌ね。>
「そりゃ、あの美少年に毎回合ってますからねー。眺めてるだけだけど。」
<奥手すぎねー?>
「あのね、今の俺はどうみても男な訳。しかもタッパもあって声かけたら、怖がっちゃうでしょー。」
<そうね〜その子がゲイとも限らないしね。>
「そういう事。んー。コメントしてんの、2人だけどモグリンがいるね。」
<あら、ホント。>
「沈黙のリスナーさんが来たかな?楽しんでってね〜カオス枠だけど。」
社畜でもない自分は、社会との接点が少ない。
たまに配信して、お喋りするのが楽しみだ。
「じゃ、今日はここまで。皆さんきてくれてありがとう〜。また来てね〜。」
もう配信して1年は経ってる。
沈黙のリスナーさんも、来てくれていた。
(明日もジムにあの子、来るかな。挨拶くらいしてみようかな。)
そんな淡い片想いを胸に、眠りについた。
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