1 / 2

第1話

今日は天気がいい。 西日本らしく、梅と桜が同時に咲く。 (亜熱帯ちゃうよな、熱帯だろ?) 独りごちてみる。 「オカン、行ってくる。」 「おぅ、いってら。」 一時期は不登校でどうなるかと心配したが、今は好きな仕事をして同居はしてるが、自立してる。 (一人暮らししたい、か。俺一人には広過ぎるなぁ。) 週数回、近くのジムに通って身体を動かすのが、習慣になってる。 まぁ歳も歳だから、油断すると腹がでてしまうから仕方ない。 (この歳でパートナーいねーの、寂しいなぁ。(´Д`)ハァ…) 上質な豆をゴリゴリと挽きながら、今日の予定を立てる。 仕事は投資家。 子供も自立してるが、精神的にまだ不安定だし、当の自分も通院があるから社畜にはなれない。 収入は何とか安定してきて生活に不便はない。 ただ。 ただ、あんな目にあったのに、パートナーが居ない。 む、虚しい。 「1人もんなのに、キングサイズのベッドって虚しくない?」 五月蝿いわ。自分が一番よく分かってます。 「あー!アレクサンダーみたいなネコはいねーかー!!」 「ウッサイ!叫ぶなら自分の部屋で叫べや!」 慰めてもくれない子から冷たいお言葉。 3LDKのマンションに子と二人暮らし。 まだ数年なのに子は独立。 おい、もう老後なの?1人だよ。 数年前。 国の支援で生きていた時。 子は言った。 「墓に入る時、本当の自分で入った方がいいやろ?」 もう中年もいい歳だった。 ラストチャンスかもしれない。 新しい人生の第1歩を踏み出した。 「名前はどうしましょう?」 「鈴木 信一でお願いします。」 「では、次回からこのお名前でお呼びしますね。」 「よろしくお願いします。」 病院から出るとまだ真冬の寒風吹きすさぶ中、 自分の中で何かが動き出したのが分かった。 「信一?だっさい。」 「お前、全国の信一さんを敵に回したからな。」 「ね、もうさ、オカンも不自然だし。あだ名で呼んでいい?」 「ん?別にいいけど、なによ?」 「ジミー。」 「.......」 まぁいい。 それに今の自分には密かな楽しみがあるのだよ。子よ。 定期的に通ってるジムに、超べっぴんさんが来るのだ。 勿論、声なんてかけない。眺めてるだけで幸せなのだ。 その子は、ブロンドで青い目のロングヘアの男の子。声なんてかけたら下手したら犯罪かもしれないし、ジム出禁になっちゃう。 たまに目が合うと、軽く会釈する。 (ラッキー!) その日のトレーニング張り切っちゃうもんな。 でも、誰とも喋らない。 日本語出来ないのかな? 自分も英語できないけど。 時折、視線を感じるけど自惚れるな。と自戒してる。 いつものトレーニングが終われば、彼とはお別れ。 後ろ髪引かれながらも、風呂に入って帰宅。 (次も来るかな?挨拶位だったら良いかな?) 夜、仕事部屋で早く終わったんでSNSの放送を始めた。 自分はオープンなので、顔出し配信。 「おー、いらっしゃいー。コメントよろしくー。」 <あら、信ちゃん、ご機嫌ね。> 「そりゃ、あの美少年に毎回合ってますからねー。眺めてるだけだけど。」 <奥手すぎねー?> 「あのね、今の俺はどうみても男な訳。しかもタッパもあって声かけたら、怖がっちゃうでしょー。」 <そうね〜その子がゲイとも限らないしね。> 「そういう事。んー。コメントしてんの、2人だけどモグリンがいるね。」 <あら、ホント。> 「沈黙のリスナーさんが来たかな?楽しんでってね〜カオス枠だけど。」 社畜でもない自分は、社会との接点が少ない。 たまに配信して、お喋りするのが楽しみだ。 「じゃ、今日はここまで。皆さんきてくれてありがとう〜。また来てね〜。」 もう配信して1年は経ってる。 沈黙のリスナーさんも、来てくれていた。 (明日もジムにあの子、来るかな。挨拶くらいしてみようかな。) そんな淡い片想いを胸に、眠りについた。

ともだちにシェアしよう!