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第2話

躾に厳しかった父もかなり前に他界した。 僕は自由になったはずだった。 会社では他人の視線に怯え、ボディタッチの度に悪寒が走った。 限界だった。 それは、父の視線や僕の身体をまさぐるソレに似ていて、耐えられなかったのだ。 「お前はかぁさんソックリだ。美しいな。」 独り身になって10年以上経つ。何気にSNSで顔出し配信している枠に辿り着いた。 基本的に僕はモグリン。コメントをしないので、配信者からよく追い出されてしまう。 暇潰しに、配信枠を廻っていたら、 「ん?1人多いね。モグリンかな?いらっしゃいー。気にしないでゆっくりしてってねー。」 珍しいな。中性的な顔立ちボーイッシュかな。 それから、この配信者の所によく行くようになった。音楽を流しながらお喋りやお絵描き。 ジャズやポップス、僕も好きな曲ばかりだ。 気がついたら、常連組になってた。 <1人多くね?> 「いいんだよ。うちは来る者拒まず去るもの追わずだから。」 呼名は沈黙のリスナーと呼ばれるようになっていた。配信者の話題も基本、下世話だったり下ネタだったり。かと思えば、人生相談だったり。余りにサバサバしていたから、女性で、しかも年上と分かった時は驚いた。 とても淡い片想いは終わった。ネットだから、普通にありえるけど僕の恋愛対象は男性だから。 でも、リアルで付き合ったり触れ合ったりなんて考えられないから、こうやってネット上で1人で片想いしては失恋することの繰り返しなのだ。 心は女性で身体は男性。 通っていた精神科の医師から診断を受けた。なぜそうなったのかは、多分父だ。 母の代わり。これが全てだった。 診断を受けた所で、外科的治療をする気はないので身体はそのまま。 会社も辞めたし、不都合もないので自然体で生きる事にした。 (でも、このまんまじゃ、ゲイなんだよなぁ。まぁ付き合えないからいいけど。) 心に反して身体を鍛えよう、知識を付けようと体育大学に進学したけど筋肉が付きにくくて、線は細いまんま。 美容院も苦手だから、髪はロングヘアで自分で切っている。 「お?お1人いらっしゃいー。良かったらコメントしてねー。」 今日はお絵描きか。上手いもんだな。僕にはお絵描きのセンスがない。コメントしないから、配信者も喋らず、音楽を聴きながらみてる。 「今いる人、どこ住みかな?自分は九州だよ。もう10月なのに暑いんだよ!熱帯だよ、もう!」 そうか、九州か。行ったことないな。 「今、沈黙のリスナーさんだけかな。」 ふと僕に語りかけてきた。 「あのさ、自分今は完全な女性の体なんだけどさ、こないだね、精査したらさ。」 驚きの独白だった。コメントするべきか悩んだ。 「コメント、無理にしなくていいよ。これから、治療に入ると思うから配信が減ると思ってね。」 (寂しいな。) 「全てが終わったら、生まれ変わった自分とまたここで、遊ぼうね。」 (うん、待つよ。) 確かに待つつもりだった。でも、僕の中で何かが動いたんだ。 この配信者は僕の中では、男性だった。あの淡い片想いは諦めきれなかった。 会いたい。会ってなにするの?わからない。だけど、傍に居たい。 一年近くずっと沈黙のリスナーとして受け入れてくれた人の役にたちたい。 配信者の顔と在住する県、通ってるジムは分かる。 行こう。彼女、いや彼に会いたい。 今思えば、ほぼストーカーだけど、恋は盲目。 翌日には、雲の上に居た。 彼に一言、DMを送って。 <明日、会いに行きます。沈黙のリスナーより> 返事は <何時に到着?>

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