2 / 2
第2話
躾に厳しかった父もかなり前に他界した。
僕は自由になったはずだった。
会社では他人の視線に怯え、ボディタッチの度に悪寒が走った。
限界だった。
それは、父の視線や僕の身体をまさぐるソレに似ていて、耐えられなかったのだ。
「お前はかぁさんソックリだ。美しいな。」
独り身になって10年以上経つ。何気にSNSで顔出し配信している枠に辿り着いた。
基本的に僕はモグリン。コメントをしないので、配信者からよく追い出されてしまう。
暇潰しに、配信枠を廻っていたら、
「ん?1人多いね。モグリンかな?いらっしゃいー。気にしないでゆっくりしてってねー。」
珍しいな。中性的な顔立ちボーイッシュかな。
それから、この配信者の所によく行くようになった。音楽を流しながらお喋りやお絵描き。
ジャズやポップス、僕も好きな曲ばかりだ。
気がついたら、常連組になってた。
<1人多くね?>
「いいんだよ。うちは来る者拒まず去るもの追わずだから。」
呼名は沈黙のリスナーと呼ばれるようになっていた。配信者の話題も基本、下世話だったり下ネタだったり。かと思えば、人生相談だったり。余りにサバサバしていたから、女性で、しかも年上と分かった時は驚いた。
とても淡い片想いは終わった。ネットだから、普通にありえるけど僕の恋愛対象は男性だから。
でも、リアルで付き合ったり触れ合ったりなんて考えられないから、こうやってネット上で1人で片想いしては失恋することの繰り返しなのだ。
心は女性で身体は男性。
通っていた精神科の医師から診断を受けた。なぜそうなったのかは、多分父だ。
母の代わり。これが全てだった。
診断を受けた所で、外科的治療をする気はないので身体はそのまま。
会社も辞めたし、不都合もないので自然体で生きる事にした。
(でも、このまんまじゃ、ゲイなんだよなぁ。まぁ付き合えないからいいけど。)
心に反して身体を鍛えよう、知識を付けようと体育大学に進学したけど筋肉が付きにくくて、線は細いまんま。
美容院も苦手だから、髪はロングヘアで自分で切っている。
「お?お1人いらっしゃいー。良かったらコメントしてねー。」
今日はお絵描きか。上手いもんだな。僕にはお絵描きのセンスがない。コメントしないから、配信者も喋らず、音楽を聴きながらみてる。
「今いる人、どこ住みかな?自分は九州だよ。もう10月なのに暑いんだよ!熱帯だよ、もう!」
そうか、九州か。行ったことないな。
「今、沈黙のリスナーさんだけかな。」
ふと僕に語りかけてきた。
「あのさ、自分今は完全な女性の体なんだけどさ、こないだね、精査したらさ。」
驚きの独白だった。コメントするべきか悩んだ。
「コメント、無理にしなくていいよ。これから、治療に入ると思うから配信が減ると思ってね。」
(寂しいな。)
「全てが終わったら、生まれ変わった自分とまたここで、遊ぼうね。」
(うん、待つよ。)
確かに待つつもりだった。でも、僕の中で何かが動いたんだ。
この配信者は僕の中では、男性だった。あの淡い片想いは諦めきれなかった。
会いたい。会ってなにするの?わからない。だけど、傍に居たい。
一年近くずっと沈黙のリスナーとして受け入れてくれた人の役にたちたい。
配信者の顔と在住する県、通ってるジムは分かる。
行こう。彼女、いや彼に会いたい。
今思えば、ほぼストーカーだけど、恋は盲目。
翌日には、雲の上に居た。
彼に一言、DMを送って。
<明日、会いに行きます。沈黙のリスナーより>
返事は
<何時に到着?>
ともだちにシェアしよう!