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第1話
「大きくなったら桜とけっこんする!」
背伸びした精一杯のプロポーズに。
「・・・。」
微笑みながら何か言葉を発しているかのように口がぱくぱくする。
「・・・きろ」
キロ?
「起きろって!!!!」
耳元で怒鳴られキーンと身体が鈍く震える。
何も耳元で怒鳴らなくても。
恐る恐る目を開けば、
「・・・・・・。」
見慣れた顔が呆れてため息をつく姿が見えた。
さらさらの黒髪は顔の角度を変える度に流れ、光を帯びて艶めき、アーモンドの形の瞳は愛らしく猫みたいだ。
褒めすぎかもしれない、と回らない頭で眺める。
「もう昼なんだから、起きて仕事をしてくれ、悠翔(はると)」
「昼なのになんでいんの・・・?仕事は?」
「お前がいうな!戻って来たんだよ。俺と違ってお前はフリーランスなんだから全然フリーじゃないんだからな!」
意味不明な事を口走っているようだが実際その通りなのだった。
自由にできる時間も確かに多いが本人ができることは任され、管理しなくてはならない事も多い。
「ほんとだー・・・束縛されてる。仕事という名の柵に。」
「しがら・・・いや起きたならいいんだよ。」
目尻を軽く押さえ、首をコキッと鳴らし、ため息をついて部屋を出ていこうとする。
あ、人が本当に疲れた時にする仕草だ。
「じゃあ、いってくるから。」
パタン、とドアが閉められる音がした。
わざと返事はしなかった。
5秒待ってから。
「昼飯。」
「タマゴサンド。」
間髪入れずに返答があり、扉の向こうに気配を感じる。
「やった!気を付けてな」
そのあとはトントンと階段を降りる音がした。
多分今の俺の頭には音符が浮かんでいるだろう。
「♪」
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