50 / 50

第50話

「おとうしゃんおかえり〜……えっ、ワンワン?!」 「そうだよ。今日からここで一緒に暮らすんだよ」 「わっ、ワンワン!おいでっ!こっちにおいでっ!ワンワーン!」 その男の子はこっちに手を伸ばしてくるから、俺は咄嗟におとうしゃんと呼ばれた男の胸の中で身体を丸めた。 ばしばし、と背中を叩かれる。 痛ぇ痛ぇ! グイグイ来るなこの人間! しかも何か食べてる最中だったのか、手も口周りもなんかベタベタじゃん! おとうしゃんは「優しく優しく、そっとだよ」と言い、男の子の手を持って一緒に撫でてくれる。 「耳ー、しっぽー、つめー。お毛毛生えてる。ななおとちがうー」 「うん、そうだね。七緒とは違う部分があるね」 ななお。あぁそうか。ななおって、この子の名前なのか。 くるりと体を半回転させて、ななおを見る。 ななおは、興味津々と言った様子で目を輝かせながら俺を見る。 だからほらぁ、ベトベトじゃん、口が。 でも甘くていい匂いがする。 ペロン、とななおの唇を舐めてやると、箱にいた時によく貰っていたアイスキャンディの味がした。 鼻の先まで舐められたななおは、一瞬放心状態になり、次の瞬間破顔させ、勢いよく泣きわめき始めた。 「あぁぁ食べられたぁぁ!ワンワンに食べられた〜!」 「あぁ、大丈夫だよ。食べられてはいないよ」 オロオロとななおの頭を撫でるおとうしゃん。 ななおは床にふんぞり返って泣き続けている。 俺はとりあえず玄関の隅にちょこんと座り、二人をじっと見ていた。 この泣き虫とこれから一緒に暮らすのかぁ……なんか大変そうだな。 ま、でも、俺を連れてきてくれてありがとね、おとうしゃん。 これからよろしくね、ななお。

ともだちにシェアしよう!