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第49話
ふん、なんだかよく分からないけど、まぁ結局、お前も皆と一緒で、連れてってくれないんだろ。
今までは可愛さアピールをしていたけど、若干疲れていた俺は不貞腐れた顔でそいつの方に尻を向け、パタリと身体を丸め目を閉じた。
「この子を、抱っこさせてもらえますか」
バッと反射的に起き上がると、さっきの男が俺を指差して、世話してくれている人間に話しかけていた。
えっ、俺の事気に入ったの?
抱っこしてくれるの?
そう考えてる間に、箱の天井がパカッと開けられて、俺の身体が持ち上がった。
すぐそこのベンチに座ったさっきの男の膝の上に乗せられる。
男の膝はゴツゴツしていて硬かった。
男は俺に積極的に触れようとしてこない。
だからちょっと踏ん張らないと滑って床に落ちてしまいそうになる。
「大丈夫です。噛まないですよ」
「あ……あぁ、そうですよね」
お世話係の人間に言われて、ようやくおずおずと俺の背中に触れる男。
あ、気持ちいい。おっきな手。
もっと撫でて欲しい。
そう思って、男を見上げた。
また目と目が合う。
今度は、笑ってくれた。
笑ったというか、ちょっとだけ口の端を持ち上げた程度。
あんまり、笑うのが上手じゃないのかな。
お世話してくれている人は、気を使って俺たちから少し離れてくれた。
二人きりになってふと、声を掛けられた。
「七緒は、茶色い犬が良いと言っていたんだ」
ん?ななおって何?
さっきよりも撫でるのが上手になった男に、こっちからも声を掛けるけどやっぱり聞こえてないみたい。
そして戻ってきたお世話係の人に、男はこう言った。
「この子にします」
……え?すんなりと決まった。
……俺を連れて行ってくれる大人、見つかった!
飛び上がって駆け回りたい気持ちだったけど、聞き分けのない犬と思われたくないから、膝の上で大人しくしていた。
こうして俺は、後日、念願だった夢がようやく叶ったのだった。
自動車という乗り物に乗せられて、着いたのはとあるマンションだった。
ここで暮らすのかぁ!
この男はあんまり笑わないのが少々ネックだけど、一緒に過ごしてくれるんだったら文句ない!
小さな箱から出られた開放感からか、とっても気分が良い。
嬉しくて「アンアンアンッ!」と声を出すと、俺を抱っこしていた男はギョッとして、俺と同じ目線になり、唇に人差し指をあてた。
「そんなに吠えないで。サプライズが台無しになってしまうだろう」
さぷらいず? 何それ、美味しいの?
男の言っている言葉がよく分からなくて首を傾げると、男は更に付け加えた。
「七緒はきっと、喜んでくれると思うよ。あの子と仲良くしてやっておくれ」
ななお。ななお。
ふふ、何だか舌が縺れそう。
ななおって、何なんだろう。新しい玩具の名前かな?
よく分からないけど、はーいと返事した。
男はドアの前で立ち止まり、鍵をカチャッと回してドアを開けた。
すると中から、ドタバタと何かが駆け回る音がする。
もしかして、俺以外にもすでに犬がいるのか?!
それは予想していなかったから身構える。
けど出てきたのは犬じゃなくて、人間だった。
身体のちいさな、男の子。
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