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第9話 -9

 授業終了のチャイムが鳴ってから、机に突っ伏し身動きひとつとらない悟志の席に近付いた。視線が合うようにしゃがみ込み、肩を軽く揺する。 「くーじょーう。次修学旅行の話するから起きないと駄目だよ」 「……」 「九条ー、起きろー」  何度揺さぶっても起きない。困り果てていると、担任に続き芸能コースの数名が教室に入ってきた。この2週間毎日のように訪れていた所為か光だけならもう誰も騒がなくなっていたのだが、まず入ってくることのない優やその他現役アイドルの登場に黄色い声が上がった。  3時限目が始まるというのに、優と雑談をしていた光は眠っている悟志を見るなりすぐに飛んでくる。 「さと寝ちゃってるの?」 「全然起きないんだ。光は起こせる?」 「幼稚園の頃から一回寝ると自分のタイミングじゃないと起きてくれないんだよねー」 「光が無理なら俺ならもっと無理か」 「まあさとのことは俺が一番よくわかるし、今日は起こさなくてもいいんじゃない?」  光は手首につけていたヘアゴムを取り、悟志の後ろ髪を勝手に纏めて結び始めた。それを眺めていると、時雨だけが席に戻れと担任に怒られてしまう。  休み時間が終わるのに芸能コースの生徒達が帰らないことに皆ざわつきを抑えられないようだ。それはそうだろう、そう思いながら時雨は自分の席に戻り大人しく前を向く。  チャイムが鳴り、日直が号令をかけると担任はプリントを数枚配っていく。プリントには修学旅行についての詳細と、芸能コースの生徒達の苗字が普通科のクラス毎に記載してある。 「えー、今配ったプリントにも書いてありますが、今回は芸能コースの学生も修学旅行への参加ができる人数が多い関係で合同で行動してもらうことになりました。うちのクラスは遠野と栂野と前田と村木の4人が参加になります。今日決めるのは班決めと班長決め、自由行動のコース決めも今日から1週間で決めてもらいます。質問ある人?」  芸能コースの男子生徒が4人も自分達と共に行動する。きゃあきゃあと黄色い声が止まらない。そんな中、光が手を挙げた。 「九条くんは何人もSPとかつけることになるんだし、俺達の班は九条くんと一緒の方がいいと思いまーす」  悟志が起きていれば寧ろ危険に巻き込む可能性があるからと拒否されるだろうが、眠ってしまっているから今がチャンス。その光の言葉に担任がそうだな、と肯定のような言葉を発すると、女子生徒は騒めきから一転水を打ったように静かになる。  手元にあるプリントには、行動班の人数は4人から6人と書いてある。つまり芸能コースの4人と悟志が一緒に行動するということは、あと一緒に行動できるのは残り1人。  バトルが勃発する前に、と今度は時雨が手を挙げた。 「なら俺一緒がいいなー。駄目ですか?」 「九条も伊野波とは仲良いらしいし、それがいいかもな。元から班決めは自由にっていうことなので、他の人も自由に組んでください。全員で組み終わったら提出用のプリントを配るので班長が取りに来るように」  視線が突き刺さるが、このメンツで話したことのない自分が参加できると思える方がおかしいだろう。時雨は悟志の席に近付き、起きる様子が全くない悟志の結ばれた髪に触れる。  触るな、なんて光に小さく小突かれるが、意に介さず優達が来るまで触り続けた。

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