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第9話 -8

 家を出てから、たった2週間。  それだけでも悟志に変化が訪れていることをクラスメイト達ですら感じていた。  九条家にいた頃は毎日生気がなく、義務的に登校しているのを見るだけ。会話すれども声色すら棘だらけで、近寄ろうと思うことすら許さないと感じさせていた。  それが九条家を出てからというもの、日を追うごとに雰囲気が柔和になり、幼馴染の光やいつの間にやら仲良くなっていた時雨との会話にも棘など見当たらない。その甘い顔立ちも相俟って、主に女子生徒達から接触を試みたいと声が上がるのも無理はなかった。  ただ、悟志自身がそれを嫌がる。不用意に近寄られることも拒み、まるで猫のように逃げていく。だから、時雨に対してフラストレーションが溜まっているようだ。 「伊野波、昨日言ったのもう忘れたわけ?」 「えー、俺は呼ばれたから迎えに行っただけだよ」  悟志に自分達を改めて紹介しろなんて、誰が受けるか。時雨は男勝りな女子の話を受け流し、解き終わったプリントを机の中にしまい込み代わりに本を取り出した。 「ちょっと、伊野波」 「俺をダシにしようとしないでよ。俺だって大して仲良いわけじゃないんだし」  脅迫じみたことをしてセックスしただけで、仲が良いわけではない。むしろ嫌われているかもしれない。それでも他の生徒より接点があるのは明らかだ。不満そうな女子生徒のことは無視して、時雨は本に視線を落とした。  本の返却期限は過ぎてしまったが、あれからおすすめは聞かれていない。海外文学は肌に合わなかったか、それともただ単に自分にもう聞きたくないだけか。多分後者な気がするな。そう思いながらページを捲っていく。  これはもう何度も読んだ本だ。一度図書室で借りてから、気に入って本屋で購入したもの。  最近は本を読んでいるところを見るのも少なくなった。今度図書室にでも誘ってみようか。学校の図書室なら、護衛もいない本当に自由な読書の時間がとれる。それで本当に気に入るジャンルを探していけばいい。悟志に対して偏見まみれの教師や司書は自分と共に行けば白い目で見てくるようなこともないはず。  まぁ、それ以前についてきてくれるかどうかが問題なのだが。  悟志が爆睡し始めてそろそろ40分。2時限目も終わり、HRが始まってしまう。流石に今回は班決めも行うから起きていてもらわねば困る。多少は悟志のことを理解している自分と、何も知らないが故に地雷を踏んでくるかもしれない他人。どちらと班になるか選んでもらわなければ。

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