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第22話 -6
「――あんたは、他人に優しすぎます」
あの二人を相手にまた身体に触れることを許してしまった。
市倉には秘密でいようとしたのだが、放課後迎えに来た彼には一瞬で見抜かれてしまったらしい。
抱えられる形で車椅子から後部座席に移され、家へと帰る中悟志は懇々と説教されていた。
「優しくなんてしてない」
「なら甘いです。何でもかんでも許してしまってつけ上がらせて、俺の忠告なんて聞く気がないんでしょう」
「……したいからした」
「そうやって守ろうとしてるのも甘いんですよ。どうせ奴らに抱かせてほしいって言われてなし崩しに許可したんでしょう? 誰が見ているかもわからない、警備も厳重じゃない学校なんかで」
正論が耳に刺さる。悟志はごろんと後部座席に寝転がり、拗ねたように何も言わなくなる。
確かに、学校でなんていけないのはわかってる。でもあいつらに会えるのは学校だけで、場所なんて関係なく愛してくれるなら、なんて考えてしまう。
悟志は自分でも薄らとは理解しているが、愛に飢えている。自分そのものを認めて、愛してくれる誰かを求めて、それに応えてくれる相手の前では自制が効かなくなってしまう。
「もう駄目です、なんて言ってもあんたは絶対聞かないんでしょうね。それなら俺にも考えがあります」
「……なんだ」
「あんたが俺の忠告をきちんと聞く気になるまで、俺はあんたの世話係から離れます」
「……」
「帰ったら澤谷に引き継ぎます。好きなんでしょう、『なお』を揶揄うのは」
「……」
「なんなら、これから先ずっと世話係は俺じゃなくてあいつにしましょうか」
「……嫌だ」
自分を認めてくれる人間が、自分から離れるなんて嫌だ。
それも、小さい頃からずっと一緒にいる市倉がなんて余計に。
「心配しなくても送り迎えはしますし、最低限の生活の世話はしますよ。それ以外は澤谷に頼みましょうね。寝付けないならあいつに子守唄でも歌ってもらったらどうでしょう?」
「嫌だ、お前がいい」
「なら俺の言うこと聞けよ」
語気が強くなり、悟志はまた黙り込んでしまう。
言うことを聞かないから、呆れてしまっているのだ。どれだけ忠告しても、どれだけ守るために何を言っても真逆のことをする子供に対して怒るのは当然のことだ。だから、市倉が世話係を降りたいと思うのだって――。
「俺のこと、もう嫌なのか」
「……そんなこと、あるわけないでしょう」
停車させたことで、マンションに着いたのだとわかる。市倉は悟志を慣れたようにまた車椅子へと移動させ、エレベーターに乗ってから視線を合わせるためしゃがみ込んだ。
「あんたが自分一人の足で立てるように、その世話をしたいだけです。誰かに寄りかかるのはその後でいいでしょう、その相手が誰だったとしても」
悟志の今の優しさ、甘さは結局自分のためにならない。
今誰かに依存して自分の足で立たないまま生きていくことだけ覚えてしまえば、悟志は一生誰かに寄りかかって生きていくことにだってなってしまう。
だから今は不特定多数から手を差し伸べられても断って、一人で生きていけるように忠告し続けてきた。それを聞いてくれないのなら、自分がいる意味なんてないだろう。
それを、自分から一生離れることはないと思っている相手から告げられた。
市倉の言葉に、悟志は何も返せなかった。
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