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第22話 -5

「そういえばさ」  散々悟志を啼かせた後、部室棟のシャワーを浴びるにもこんな体液でドロドロの状態では見つかったら大変なことになるからとウェットティッシュで肌にかかった汚れを落としてやりながら時雨が零す。 「俺が部室でセックスしてるの顧問にバレたっぽいんだよね。ロッカーに鍵かかってないし、ゴムとローション見られたかも」 「何それ、此処でしたらまずかったんじゃん」 「でも他にいいとこなんてないし? 学校の外なんて簡単には連れ出せないし、連れ出せたとしても俺んちボロアパートだしさー」 「市倉に怒られたくないから外ではしない」 「此処でしたら市倉さんだけじゃなくて顧問にも怒られるんだけどな」 「……別に、教師はどうでもいい」  教師には元から何の感情も抱いていない。自分を腫れ物扱いしてくる大人達に何かを感じるのはやめたから。  神聖な学舎の一角で不純同性交友なんてしていることがバレたら退学の可能性だってある。そのこと自体は3人共に理解していたのだが、他にいい場所がない。だから、必然的に肌を重ねるのなら此処になる。  脳内が不純なことだらけで、一度覚えた快楽に対して好奇心を留められない年頃の男子が我慢なんてできるはずない。それは普通の男子高校生からかけ離れた思考しかできない悟志も同じで、未だに服を着せられることすらしていなかった。  市倉の名前が出たのが気に入らないのか、光は叶えることなんてできるはずがない未来のことを口にし始めた。 「さと、卒業したら一緒に暮らしたいな。18歳過ぎたら市倉さんもお世話係おしまいじゃない?」 「……それは嫌だ」 「もー、親離れしないとだよ。俺が養ってあげるから自立はしなくていいけど」 「いやいや、あの人から離れるとしても一緒に住むの俺だから」 「お前らとは住まない」  甲斐甲斐しく世話を焼かれながらも2人の言葉には否定を返す。市倉との生活が終わるなんて考えるのも嫌だし、何より2人を自分の暗い未来に連れて行くわけにはいかない。  肌をつう、となぞられ腹筋がひくつく。後ろから抱き締めるようにしながら汚れを落としていた時雨は、悟志の耳許でリップ音を立て囁いた。 「俺を選ばないってのはわかってるけど、夢くらい見せてよ」 「そんなの考えるのも時間の無駄だろ」 「えー、俺悟志のためにちゃんとした事務所入って稼ごうかなって思ってるんだけど」 「それで少しでも売れたら女が放っておかなくなるだろうな」 「もしそうなっても、悟志が俺のこと見てくれるならよそ見なんてしないけどな」 「……うるさい」 「照れた? かぁわいい」  別にそんなんじゃない。ただ、自分だけを愛してくれるような言葉に変に動揺してしまっただけだ。  そんな悟志と時雨のやりとりを見て嫉妬したのか、光が強引に悟志の身体を引き寄せてきた。 「俺のさとなんだけど。  ねえさと、俺に養わせてよ。何にもしなくていいよ。さとはさととして生きてくれるだけでいい。昔からずっとそのために仕事頑張ってきたんだ。足抜けだってできるくらいお金あるから、2人だけで生きようよ。俺はさとがいるなら何処にでも行けるから、一緒に逃げよ?」 「……できない。金があったところで、血縁は今更変えられない」  法律とは厄介なところで、認知して父親の子供となっている今そう簡単に親子ではない証明はできない。それにあの父親はどんな手を使ってでも自分を取り戻しにくるはずだ。あの男が従順に言うことを聞くペットを今更手放すはずがない。  だから、たとえ光であってもその言葉には乗れない。ずっと自分が片想いをしていると思っていた相手だから、余計に。

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