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血の箱と、呪い
この建物に入った瞬間、俺は様々なことを思い出していた。なにをしていたのか、なにをしてしまったのか。
最初に俺の力が発現した時に見せた両親の表情と言ったら絶望以外のなにものでも無かった。
あの時、俺が住んでいた地域は閉鎖的な村で、力は恐れられ疎まれた。
両親は俺をこの宗教集団に捨て去り、俺から離れていった。
そこで俺は他の子供達と一緒に暮らしていたが、ある日ひとり、またひとりと子供が減っていく。
その時俺には二歳程下の親友がいた。
この親友を守るべく俺はオトナに自分の価値を売った。その代わり、こどもに手を出すな、と。
オトナ達は、俺を連れて『粛清』を行う。
俺の力は随分と重宝された。
だけど、しばらくしての事。
奴は俺にある呪いを掛けた。
とある箱を見せられ、「神になる為だ」と言ってオトナは俺の身体にその箱の中身をかけたんだ。
俺の足元を見ると、赤い血液と指……?や形を成していない肉のようなもの。
俺はその現実が信じられずオトナを見ると、
「ホラ、友達が犠牲になってくれたんだから感謝しなきゃね」
俺はそこからの記憶は一切無い。
そして、俺は第七師団に連れてこられ、
『アオ』と名付けられた。空の青、海の青、しーの好きな色。ずっと側にいてくれる色。
俺は、しーのそばに居られれば、良かったんだ。
ーーーそれだけで、良かったのに。
***
「そこにいる元xはその日行なった『粛清』において今までにない力が発現した。だけど、ご覧の通り、敵も味方もわからなくなってしまってね?私もこのザマさ。私が目覚めた時にはもう君はいなかったよ」
そう語るフォレストという男に嫌悪感を抱いた。
いや、これは嫌悪感なんてもんじゃない。
「おや、君は怒っているのか?すごい殺気だ。」
「人間は神になどなれない。
そのお前の言う責任は俺達が背負うべきものだ。決して力を持った子供に負うものではない。
……テメェのモンくらいテメェで背負うんだよ!」
「何を言っているんだね、君は。
………責任は私達人間には無いのだよ。
それは創造したーー、「神にある、って言うなら貴方は馬鹿だ。俺達人間は………、考えることができる。思うことができる。自由だ。神なんかに決められて良いモンじゃねえ。俺達人間が意識を持った時点で自由も責任も全部俺のモンだ。」
「…………君とは相反する考え方のようだ。君は私と同じだと思ったのに。」
「っ、しーはお前とは違う!」
アオが叫ぶと、フォレストは笑い始めた。それはもう、不吉に。
「違う?それはオカシイ。我々は全て同種。お前らのように力を持ったモノにはわからない。」
そう言うと、奴は一つの箱を取り出した。
「…………っそれは!?」
「そうだよ、元x。これはあの時お前が被ったモノと同じ。だが、お前で失敗した時に解ったよ。器は一気に膨大な力を取り込めない。だから、その今のxで試したんだ。」
「………僕?」
背中にいる少年が反応する。
「毎日少しずつ少しずつ、身体に取り込むんだよ。
だからこそ、彼には食事を与えなかった。……案の定、彼は友達の肉を食べていたね。」
ーーーーーゾッとした、なんてことを。この少年にも同じ、いやそれ以上の呪いをかけたというのか。
「彼らはいい血肉だ。この箱に入れる人数は多ければ多いほど力は増す。」
フォレストは、まるで盃のようにソレを飲み干した。
「これで、私はチカラを持ったんだ。」
その三日月のように裂ける口は恐ろしいものだった。
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