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神との接触
奴のその三日月に割れた口元に身体が震える。
奴のこれは、狂気、だ。
自分の身体を叱咤し、脚に力を込める。
ーー逃げるな、戦え。
歯を食いしばり、目線をフォレストに合わせた瞬間ーー、
「……ッ、グは、ぁ、ァア?、ッァガ…ぐ」
フォレストは突然苦しみだし、奴は自ら車椅子から降り床に身体を叩きつける。
その様子にアオは、静かに言った。
「呪いに身体が耐えられないんだ。」
やがて奴の動きが止まり、フォレストの身体は爆発したかのように飛散した。
俺達のところまでフォレストの血肉が飛んできて、血の匂いが鼻についた。頭から被った為に、酷い匂いとべちょりとした感覚に吐き気がした。
どれくらい、俺達はそこにいたのかはわからない。10分くらいのような気もしたし、1時間くらい突っ立ってたかもしれない。
無線で『シキ、帰ってこい』というセツカの声が聞こえて俺はやっと、呪縛から解かれた。
「帰ろう」
俺はアオの群青に染まる瞳を見つめて、そう言った。
***
ーーー、××、ごめんね、ごめんね、
……………あ、ああ……いいんだ、かあさん…
ごめんね、ごめん、
いいんだ、ただひとつおねがい……
私に祈ってくれるかい………?
***
なんとも最後は呆気なく終わったこの任務。
上にいた信者達は突然正気を戻したかのように、「俺達なにしてたんだっけ?」と、今までの記憶も無かったそうだ。
俺達が地下から帰る時も、階段は登りではなく降り。俺たちはあの時、階段を降りたはずなのに。
自分達がいたのは屋上だったことに気づき、あの呪いとやらは相当な力を持っていて、洗脳や、空間変化までさせてしまう代物らしい。
さらに、レイスやエルを襲ったのは人形だったようで、これも未だ謎が残される。
自警団に帰り、アオと少年は精密検査を受けてもらい少年は一度精神科に顔を出すようだった。
俺はこの日一日有給をもらい、寮にて休養をもらっている。何故かあの時の情景が目から離れない。
フォレストは何故アソコまで、神に執着していたのだろうか……?何かキッカケが………?そもそも、どこであの呪いを知ったのだろうか?
悩めば悩むほど、尽きない疑問に俺は頭が痛い気がする。いや、気がするのではない、え、なんかめっちゃ痛い。は?西○記の悟○ってこんな痛い思いしてたんかな!?え、痛い痛い痛い!!
俺はその痛みに耐えきれなくて、意識を飛ばしてしまった。
***
「…………………ここは……」
目蓋を開けるとそこは、以前夢で見た荒れ果てた地にいる。服装も学ランだ。
ということは、これは夢か。
するとどこから現れたのか、そこにはアオに良く似た少年がいる。
「あぁ、この姿だけど、ボクはアオ君じゃないよ?」
少年は、楽しそうに言い放つ。
「君は、誰なの?」
「ボク?ボクは神さまだよ!」
……………………夢だから、変な夢を見てもしょうがないか。
「夢だけど、本物だってば!!」
「は、はあ?だって神さまって見えないんじゃ、」
「本当は隠してなきゃいけないの!でも、緊急事態だから、でてきたの!!!」
「……………、?ちょっと理解出来ないです。」
「じゃあ、これを見て」
そう言って自称神さまが映し出したのは、俺がみんなに囲まれてる映像。俺には色々医療器具が取り付けられ、周りのみんなも心配そうに俺を見つめている。
「こ、れは……?」
「これは、現実!!今の君の状態だよ。」
「………俺は、死ぬんですか?」
「冷静だね、」
「いえ、心の中は荒ぶってます」
「このままなら死ぬね、確実に」
「でも、俺は生きたいです。」
「………君は、呪いをモロに被ってしまったね」
「………?」
眉を思わずひそめると、答えは簡単に帰ってくる。
「あのカワイソウナコの血肉を浴びただろう?」
カワイソウナコ……フォレストのことか?
それならば、と合点がつく。つまり俺の最期はフォレストと同じってか。
「今君は昏睡状態だ。あと二、三時間もすれば死ぬよ。」
「…………」
「でも、今回はトクベツ。助けてあげる」
「え?」
「だって、たしかに今回はボクのせいだもんね」
「……いや、これは人間の咎です。貴方のせいじゃ、」
「聞いて、シキ。確かにボクは君達に干渉しない。創造してそのまま。君達を見守ることだけに徹している。」
「だけど、俺にはしてるじゃないですか」
「君が全て背負う覚悟を決めたからだよ。」
「…………?」
「それを見て、あぁ人間はまだ美しいんだな、って思ったんだ。」
「…………」
「君は、これからなにもかもを背負って生きていく。それはとても辛くて辛くて逃げ出してしまいたくなるかもしれないよ。」
「…………それでも、」
「ん?」
「それでも、俺にはみんながついてますから。」
俺はアオによく似た少年、いや神様をまっすぐに見つめる。
「んー!!あーあ、ボクのせいにしても良かったのになあ!!もう!!君は不器用だね!!!」
え、なんか罵倒されてるんですけど。
神さまは、フッと優しい顔をして微笑んだ。
「こんな神さまで、ごめんね?」
その台詞を聞いた瞬間に、どっと眠気が襲ってくる。
意識が遠のいていく。え、待って、待ってください、
なんで、人間に干渉しなくなったのか、とか
なんで、俺がこの世界に来てしまったのか、とか
神の力ってなんだよ!!とか
アオとあの少年は大丈夫なのか、とか!!
まだ聞きたいことがーー、!!
「君に神の祝福をーーー、」
その言葉がやけに俺の頭に残った。
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