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ちはながれ

思わず護衛対象の目の前に立ちはだかり、銃声のした方へと警戒を強める。 「私の後ろに隠れなさい」 シノの父ちゃんが、少し前に身を乗り出した俺に目配せをする。確かに今は潜入捜査中で、俺は今女の格好をしている。それでも、俺はこの人の護衛しなくてはならないのだから、これくらいは許して欲しいものだ。 『シキ!どうする!』 無線機能のついたカフスからは銃声を発した地点に一番近いレイスの焦りを感じる。 「落ち着け、そいつの目的がわからない。今回の目的は、エレクアント氏の護衛だ。不審人物の排除じゃない。」 『シキ、そいつが持ってる銃は自警団所有のピストルだよ。』 自警団の武器が盗み出されたのか、はたまた発砲元が身内か。もしくは… 戸惑う客たちと、警備たちの慌ただしい足音に辺りは騒然としている。人の壁でできたその中心を見ることは出来ないが、どうやら、いるようだ。 「お前ら金持ちがこの世界を不幸にしているんだろ!」 「庶民を食いもんにしやがって!」 たった一人の男が叫ぶ絶叫が、広く寒い会場に響いた。その叫びに、一人の女が嘲笑浴びせる。 「あら、それでしたら陛下が悪いのではなくて?」 「俺達は関係ないだろう」 「だから、今の王族ではなく我々に任せれば良いものを…」 顔は見えないが、拳銃をもった肩を震わせている男を中心に貴族たちがぐるりと囲む。 なんだ、これは…狂っている。 背筋が冷え、今自分は何を見せられているのかわからなくなった。視線の先には、このパーティの主催者であるメレフが円の中心から少し離れてワインを飲み下していた。 その口元は微かに歪み、目は光惚としている。 なんなんだ…この違和感は…… 嫌な予感しかなかった。この予感はこのパーティーが始まってから、もしくはもっと前からわかっていたのかもしれない。この足が走れと言っている。 そして一発の銃声がまた、響いた。 人の壁の下から溢れるの赤い血は一体誰のものだ。視界が揺らぎ、その壁の隙間をぬってその撃たれた人物の元へと急ぐ。 「セイッ…」 小声でしかし聞こえるようにウエイターの恰好をしたセイウンが腹を抑えて転がっている。ドレスの裾をちぎって止血をする。目をうっすらと開けたセイがこちらを睨んで「任務に集中しろ」と訴えている。セイの隣で腰を抜かしている少年に手を差し伸べ立たせる。 いって、と伝えると彼はコクンと一つ頷くとまた壁へと向かっていった。 「エレク氏の側にレイス、ライトついて。エルはその場で待機。ニイロさん、情報ください」 『犯人は東に逃亡中』 「了解」 『ちょっと、シキ。一人でどうするつもり?』 エルの落ち着いた、しかし焦りのにじませた声音に俺はひとつ息を吐いた。 「…どうもしないよ、彼を助けに行く」 破れたドレスを上手く動きやすい短めのスカートにして、白い太ももを露出させる。 一度、エレクアントの方を見ると彼はあの食えない笑みを浮かべて頷いた。それに会釈を返し、東の方角へ走り出す。 東の方角にあるもの、それはメレフ家の本邸だ。

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