54 / 127

レイ

その部屋は、真っ白で殺風景な部屋だった。真ん中にベッドがあり、部屋の端の方に、簡易トイレがある。いくつかの本が床に落ちていて、彼の足首には鎖がついていた。 「…こんな扱い……奴隷か実験体じゃないか…」 渡された鍵で、扉を開ける。恐怖心など抱かなかった。 「おにいちゃん…」 あのカルト宗教団体から救いだした少年と久しぶりの再会を果たした。 それでも、この状況では救い出したというよりは俺には、この子供を捕獲して狭い世界に閉じ込めただけのようにしか思えない。 「…おにいちゃんは、ぼくがこわくないの?」 あぁ、そうだ。この子の前で悲しい顔をするな。この子にとって俺は、一人の大人なのだから。 彼と目線を合わせて、両手を握った。その手は冷たく、その身に背負った呪いが見ているはずがないのに、ソコに存在しているのがわかる。それでもこの少年が愛おしくて溜まらない。にっこりと微笑んで、目を合わせた。 「怖くないよ、久しぶり」 怖くない、という否定が余程嬉しかったのか、年頃の子が浮かべるような無邪気な笑みを見せてくれた。 「うん、ひさしぶり」 「そうだ、名前教えてほしいな」 「なまえ…」 名前もないのか、忘れてしまったのか。その事実にまら胸が締め付けられる。ああ、痛い。 この子が一体何をしたというのだ。 「そっか…じゃあ、お兄ちゃんが君の名前をつけてもいいかな」 「うん!ほしい!」 元気よく頷くこの子に、名前をあげる。その行為に緊張が走った。 「レイ…レイはどうかな」 「ぼく、レイ!レイがいい!」 「…そっか、良かった」 名づけるということはとても大切なこと。この世界に自分を縛り付ける唯一の鎖だ。 「レイ」 彼の柔らかな黒髪をくしゃり、と撫でる。 「レイ、また会いに来る。いつかここから出ることができたら、その日は俺と一緒に旅に出よう。」 「わかった、待ってる!」 彼の身体から手を話す。ああ、あの子を助けるのは俺だ。 *** 「ニイロさん」 「シキ、学園から抜け出してきたのか」 「アオの検査結果が出たって聞いたから帰ってきたんだ」 ニイロさんの部屋に押しかけた。深夜だというのに、快く招き入れてくれたニイロさんは俺が短く要件を伝えると、合点がいったのか、書斎から書類をだしてきた。 その書類にざっと目を通す。 顔を上げると、ニイロさんも困惑気味な表情を浮かべていた。 「アオは元『人間じゃないナニカ』だっということで合ってる?」 「…そういうことに、なるね」 「アオやあのカルト宗教の地下にいた子供たちは、とある呪いの完成のために日々殺しをさせられていた。その呪いが人間で『蟲毒』を作るという実験だった。アオの時に完成していた呪いは強化され、レイに映った。だから、アオには『元』がつき、レイは現在進行形で『人間じゃないナニカ』になっている。…この解釈であってる?」 自分を理解させるために、なるべく淡々と喋っていく。俺の問いに、ニイロさんはゆっくりと頷いた。いや、実際はゆっくりではなかったのかもしれないが、俺にはそう感じたのだ。 「そう、その過程で呪いを閉じ込めることに成功したフォレストは自らその呪いを被って死に至った訳だけど… …今回のメレフのところで現れた『ゾンビ』は元『呪いの入れ物』だった。」 信じたくはないがつまりはそういうことだろう。 「…つまり、『蟲毒』はよりコンパクトで使いやすく完成形として存在し、簡単に人を人じゃないなにかに変えることができる。」 「そして必要のなくなったソレからまた呪いが抽出でき、リサイクルできる。そして入れ物だけになった人間は、意思をなくし主に従うだけのゾンビになる。」 「…じゃあ、アオはなんで今自分の意思をもって生きることができるんだ……?」 「わからないけど、彼がまだプロトタイプであったというのが一番解釈として合っている…かな」 その答えに安心したような、靄が残るような気持ちが頭を埋め尽くした。 「…この部分を見てほしいんだけど、フォレストは今は閉鎖された農村の生まれだったんだけど、どうやら親や近隣住民から迫害の対象にあったようなんだ」 「…親にも…」 「そこでその農村に古くから伝わっていた呪いを持ち出し、ソレを作ろうとした。…その結果、その村には厄災が起こり村の住民全員死亡。フォレスト自身はその時の火災で全身火傷。その後、『xxx』というカルト宗教に目を付けて拡大していったようだ。」 「…」 「ここからが、大事だ。よく聞いて。メレフはフォレストと同郷出たらしい。…どうやら、王族に養子として出され、以来あの農村には行っていないようだが、ここで繋がってしまった。」 繋がってしまった… ここまでくると、メレフの下にいたあの『ゾンビ』とフォレストの『蟲毒』が関係ないとは言い切れる訳がないのだ。 「ニイロさん…これは…」 「今団長の指揮で、その農村を探している最中だよ。でも、まだ見つかってない。……君は十分周囲に気をつけて。必ず、何かが起こるよ。」 「………はい」 近々、何かが起こるような気がしてしょうがないのだ。

ともだちにシェアしよう!