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怪しいふたり
『生徒会副会長 次のお相手は一年の姫…!?』
一面にあの腹黒副会長とノアがキスしている写真が一面に張り出されている。
角度によってしているように見えるだけかもしれないが、疑うことなく生徒たちは阿鼻叫喚としている。
未だ教室に来ないノアを心配していると、シノとクロが教室に入ってきた。
なんだ最近コイツら仲良いな…そう言えば、最近シノと一緒に教室まで来ないし、コイツらまさか俺に内緒で裏庭の猫でも愛でに行ってるんじゃないだろうな…?
「お前ら、最近仲良いな?」
「そ、そうか!?」
急に挙動不審にになったシノに、じと目で見つめるとクロも少しバツが悪そうに視線を逸らす。
怪しい…
怪しいぞ…コイツら…
そうは思ったものの、どうせコイツらのことだからいずれ教えてくれるだろうと踏む。
もしかしたらイケメンキャラの二人のことだから、猫が好きとかいうのがバレるのが恥ずかしいのかもしれない。そんな恥じらい今更だとは思うが。
「表の見たか、シキ」
あからさまに話題を変えてきたが、優先順位としてはそちらの方が遥かに高い。
「見たよ、あれだけ副会長のことを嫌っているノアのことだ。何かの間違いだとは思うが…これだけ学園が荒れるのは酷いな…」
国管轄のこの学園がこれだけ荒れるというのは、王族を疑いたくなる勢いだ。
今日は俺の机の落書きは増えておらず、ノアの机の方が荒れている。
花が潰された状態の物が机にばらまかれ、描きたてほやほやの落書きで埋め尽くされている。
「……とりあえず、新聞部を抑えなくちゃどうにもならなくないか?
生徒会は一体何をやっているんだ」
バ会長の顔がチラつく。
そもそも新聞部が荒れるようなネタを書かなければいいのだ。こんな制裁、いや虐めという名の暴力を助長するような記事を許容している事自体がおかしいのだ。この考えをシノに伝えると、シノは困ったように首を横に振った。
「いや、新聞部の出す記事には生徒会は口出しができないんだ」
「…?一体どういうこと?」
顔にはてなを浮かべ、シノの顔を見つめると、シノとクロが困惑した顔を見合わせている。
…なんだよ、本当に仲いいな
「新聞部を生徒会の管轄にすると、言論の自由が無くなってしまう恐れがあるからね。
この学園は二つの権力によって支えられてる。」
そう言ってシノが指を二本立てる。
「この二つが均衡することによって、この危うい空間が保っているんだ。
でも、この学園で最も大切なものはなんだと思う?」
最も、大切な物…
「それは、情報だよ。我が国シビュラが先の大戦で勝利したのも情報を握り、上手く操ったからだ。それだけ情報・言葉というのは力をもつ」
確かにその考え方には大いに同意する。実際俺達ダガーは情報戦で今まで任務をこなしていると言っても過言ではない。
「だから、それぞれの権力が新聞部というこの学園の情報を握り、言葉を発信するものを所持してはならないんだ」
シノはそう言って少し残念そうにうつむいた。
「いや、それは関係なくね?」
三人の間に気持ち良いほどに冷たく澄んだ空気が流れ込んだ。
「え?」
「だからと言ってこの状況を放置するのはおかしいだろ」
「いや、そうだけど…」
それに、と付け足す。
「俺は、転校生で春まで部外者だったんだ、そんなこと知るかっつうんだ」
「シキ…」
チャイムの音が鳴る。まだノアが登校してくる様子は無かった。
迷うことなく教室から出ようとすると、どこ行くの!?という声が上がる。
「ノアを探しに行こう、もしかしたら制裁にあっているかもしれない!」
そう叫べば、シノとノアは顔を見合わせて俺の跡をついてくる。
クラスメイト達は心底バツが悪そうに、視線を前の机へと逸らした。
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