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四つの顔と、二人の男
以前トーカと二人で世界を旅したことを思い出す。
この世界は、美しくて儚く、時に残酷だ。
それは俺が12年を過ごした元の世界でも、きっと変わらない。命あるところに、豊かさが生まれ感情が芽生え、そして争いが起こる。
世界を超えても、ちっぽけな俺にはわからないことだらけだ。
講堂の観客席にてステージ上で繰り広げられ熱戦を見つめる。ここに来て、俺なんかよりもずっと努力して、輝いて必死に生きている奴等ばかりだ。
なんで、神様は俺達を創ったのだろうか。そんな問いが、唐突に頭に残る。
わかっている。こんなことを考えたって仕方がないし、きっと答えはでない。
元の世界で呼んだ自己啓発本になんて書いてあっただろうか。それすらも忘れてしまった。きっと薄っぺらい言葉が書き連ねてあって、途中で読むのを放り出してしまいそうだ。
ふと、東の国での出来事を思い出す。
東の国、東倭国(とうわこく)はこの世界で唯一四季がある国として有名だ。皆で田畑を耕し自給自足をする時間の流れがゆっくりで、とても美しい国だった。
まるで昔の日本にタイムスリップしたような場所、のっぺりとした顔立ちの人々、日本食に似た優しい味付け。ここは日本ではないというのに、郷愁にふけったことを覚えている。
あの国の人々は皆神を信じていた。その信じ方がシビュラとは違いまた独特で、森羅万象に神の発言を認め、強く信じていた。
本当に、ここは日本なのではないかと疑ってしまうほどに、故郷に酷似した国であった。
『世界は五つの国にわけられた
東には美しい四つの顔を 西には情熱を 南には自然との調和を 北には生命の息吹を
そして その四つの国の軸が合わさる地を 神の住まう国としよう
世界の均衡が 崩れる其時 その地の崩壊が 約束される』
東の国で見たその書物がふと、蘇る。…なぜ、それが今思い出されたのか。どこで読んだのか、思い出すことができない。
『四つの軸が合わさる地』…?そのフレーズに引っ掛かりを覚える。
そればかりが頭を駆け巡り、意識を集中させた瞬間周りから大きな完成が起こり、思わず身体を揺らした。
講堂の中心、ステージを見るとそこでは、三年生のトーナメント準決勝が行われ丁度試合が終わったところだった。
「副会長様ー!」「さすがですー!」
黄色い声と、野太い声が入り混じってもはや茶色い声だ。
どうやら決勝に進むのは会長と副会長らしく、会場は熱いままだ。
っていうか、あいつら三年だったんだな…。
この学園は四年制だがほとんどの四年生は、研修生として第五師団で預かりらしい。つまり、この学園の最高学年はほとんど三年といっても差し支えない、と聞いた。それを知った時、それすらも知らなかった俺の周りへの無関心さに驚いたのは思い出す。
ステージに立つ副会長はこの距離で見ても、あのキラキラオーラを振りまいているのがわかる。しかし、その厳しい視線はステージに上がってくるこの後すぐに行われる試合相手へと注がれる。
生徒会長も、副会長もお互い余裕そうな笑みを浮かべているが、相手への敵意は隠せていない。何か話しているようだが、この距離では聞こえないし、読唇術も使えない。
そして、会場のボルテージも高まった。
お互いが武器を構え、自分こそが強者だという強い意志を指先に乗せている。
将来、優秀な仲間になるであろう奴等の姿を見つめた。
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