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絶体絶命
睨み合い、胃の奥からどろりとした高揚感がせり上がってくる。
相手のまばたきを、見ろ。呼吸を、
瞳孔の開き具合、武器を手にする筋肉の張り、風の靡き、
すべてを見過ごしてはならない。
刹那、相手の瞼が閉じた瞬間
風のように動く。背中を押し出してくれるような風の動き、自分が動くことによって発生する風も全て味方にするのだ。
「…へえ、よく見切りましたね」
思い切り上から斬りかかったが、馬鹿でかい斧で受け止められた。下から見上げるようにニヤリ、と笑った会計を見つめる。
その瞬間会計の後ろから鋭い矢が迫ってくる。顔を左に逸らすと右の頬にツゥーーと赤が射す。
相手の力を利用して後ろへと飛ぶと、追いかけてくるように会計が斧を振りかぶっている。地面についた肩足で踏み込み、横へと跳ねる。床に着地した瞬間、足から力が抜けていくのがわかる。耐えるが、熱に浮かされたように上手く力が入らない。
「…毒矢か」
「安心しろ、死にはしない」
淡々とそう言って退ける書記に腹が立つ。いや、マジかよ…マジかよ!!
意識が朦朧としているが、なんとか立ち続ける。
身体に染みついた『ダガー』としての根性が俺を叩き起こしつづけている。
「はあ…しんど…」
つい、本音が漏れる。
絶対このまま寝たら気持ちいのに、それでも何かが邪魔をして相手の目の前に立っているのだ。
「ま、これで終わりっしょ」
会計の声がすぐ側で聞こえた。
上半身から思い切り地面に叩きつけられ、その衝撃で思わず目を瞑る。
いってえな…もっと優しくしてくれ
微睡む意識の中、そっと目を開けると目の前にはハチマキを握った会計の姿。
「平凡君、大したことないじゃーん。なんで副会長も会長もこいつにこだわって…イ”ッ!?」
無いに等しい腹筋を使って相手に頭突きを決め、形勢逆転をする。
俺だって石頭じゃないから、めちゃくちゃ痛い。
「…せんぱい、気抜いちゃダメですよ」
「おい!自分のハチマキをとられたらその場で脱落だぞ!」
不意打ちを狙った攻撃にお冠の会計は口調を崩して俺の下で喚いている。
「残念、あんた持ってるそのハチマキ。俺のチームのじゃなくて、俺が奪い取ったやつでしたー」
頭を思い切りぶつけたせいで、チカチカとする。俺の右手には会計が隠し持っていたハチマキ。それを会計の目の前に翳してやった。
「あ!?いつの間に…!」
ゆっくりと会計の上から退いて、地面に転がっていた自分の愛刀を拾う。
その場で立ったまま動かない書記の横を、何も言わずに通り過ぎようとすると、引き留められた。
「…あの毒矢は、かなり強力な睡眠薬なのに何故立ってられる…?」
掴まれた腕を振り払い、まだ痛む額を抑えた。
「…ある程度、薬には耐性あるんで」
時間を見れば丁度約束の時間だ。はあ…疲れた。もう帰りたい。
後ろから送られてくる二つの視線を背中で感じた。
肩甲骨のところまで痣がジクジクと上がってきている気がする。
「あ”ーーーーー布団に潜りたい」
頬の傷口が糸で縫い合わせていくように、治癒されていく。
俺はそのことに気が付くことはなかった。
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