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原動力
脱落者は講堂の大きなモニターで試合を見ることができる。
ノアはペアの上級生とともにモニターを眺めていた。
「ノア君、飲み物でも買ってこようか?」
明らかに下心を持って接してくる先輩に、いつもの猫かぶりを忘れず愛想よく返す。
「大丈夫ですよ!」
話しかけてくんな、この雑魚がと内心思いつつ、ノアはモニターに向き直る。
そもそもペア戦など出るつもりはなかったのだが、それをこの横の男がしつこく誘ってくるためしぶしぶ出場したのだ。
結局早めにハチマキをとられ(先輩が)、その際に怪我をしたのだ(先輩が)。
時間の無駄だった。
苛立ちを隠して、シキの姿がモニターに映ることを願う。
シキと副会長のペアは、全校の注目の的である。なにせ異色すぎるのだ。
実際二人の脱落報告は聞いていない。
モニターに映るのは、会長や他の「ガンガン行こうぜ」といった連中の活躍ばかり。
シキが一切映らない。
モニターの端に一瞬副会長が映ったが、その横にシキは映っていなかった。
二人は別行動しているのだろうか、と思案する。
講堂内でざわめきが起こる。一体なんだ…?とモニターを見るとそこには奇形なものに、試合中の生徒たちが囲まれている。
明らかに、生ある者の風貌ではなく、化け物だ。
これをシキは知っているのか…?シキは大丈夫だろうか?その心配ばかりが、ノアを掻き立てる。
「ノア君…!?」
「うっせえ!ついてくんな!」
思い切り地の喋り方で返事をしたが、そんなことはもはやどうでも良かった。
シキに伝えなければならない。
講堂内は混乱でいっぱいだ。モニターには会長が試合を中止させ、周囲の生徒の統率を取っているのが映っている。
『友人のためになにができるのか』
それだけが、ノアの原動力だった。
*
やはりなにかがおかしい。
周りに人がいないのだ。風もなく、あたりが静まり返っている。
さっきのゾンビが関係しているのだろうか。副会長とはやく合流しなければならない。裏山といっても、平地が広がる場所がいくつかある。約束していた場所へと向かう。
「……あー、なるほど…?いや、なにがなるほど…?」
俺の視界に入ってきたのものは、約束していた副会長。
そして、その隣でいつものよう口元を隠して笑っているハス、その周りを囲むように湧いているゾンビ達だった。
いつものキラキラを放出することなく、俺の目を見ようとしない副会長の様子を見てなんとなく察しがついた。いや、ついているけどついていない。信じたくないというのが正直な感想だ。
「これは…やられたなあ…」
「よーやっと来たねえ。集合の時間よりちょっと遅いんとちゃいますか?」
「いや、お前と約束してねえもんよ…」
だからこういう胡散臭いヤツは嫌なんだよ…。もう最初から黒だったじゃん!真っ黒じゃねえか!!
「それで…?君たちはどこのだれ?なにが目的?」
考えることすら面倒だ。それなら相手に聞いてしまった方が早い。
「そんなに正直に話すと思ってるんか、平凡。君はアホなんか?」
「ええ…めっちゃ容赦なく言ってくるじゃん…俺、ガラスのハートだからすぐ傷ついちゃうんだけど…」
背中が何かに共鳴しているのか、ジクジクと存在を訴えている。背中に汗が伝った。
「教えてくれないなら、まあ力づくで聞き出さなきゃいけないんだけど…?俺、それ苦手あし、嫌なんだよねえ」
「君一人で何ができるんや?君みたいな人間、ほんま嫌いやわあ」
その嫌な笑みをフッと消し、真顔でこちらを見ているハスは不気味だ。
この眼前に広がる敵襲に、刀を握りしめる。やはり、もう一本持ってくるべきだったと、今日何度目かの後悔をする。
通信機も繋がらないこの状況、俺一人で片をつけるしかない。
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