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あかん

ちょっと待て、敵が多すぎじゃないか? 斬っても斬っても、気味の悪いゾンビ達が起き上がってくる。その様は、樹木の成長を早送りしたようだ。いくら斬り殺してもキリがない。 この蘇り続けるこいつらもおよそ30はいそうだ。 「そろそろ負けを認めてもええんやない?」 「は?うっせ、寝言は寝てから言いやがれ」 どれだけ虚勢を張ったところできちらが満身創痍なのは身に見えてわかるだろう。 「それで?俺を倒してどうすんの?」 結局のところ、コイツらの目的が全くわからない。このゾンビ達が『何』なのか、この学園に何をしにきたのか。あの中庭になにが隠されているのかも。 俺の見た夢はなんだったのか、俺の背中の解決もままならないまま。 副会会長がどうしてそんなに悔しそうな表情を浮かべているのか。 すべて俺は知らない。 目の前の相手の正体すらも掴めていない。 「さあ?それはうちのボスに聞き」 わかっていたことだが、こいつは単独犯ではなく実行犯の一人に過ぎないのだろう。 このハスの一言で、俺はここでは殺されないこと、こいつの後ろになんか巨大なものが隠れいていることが確認できた。 俺をそちら側に連れていきたい理由は、きっとこの背中の痣と関係している。 もっと情報を引き出していかなければ、俺に勝ち目はない。 「副会長は、もともとそっち側の人間なわけ?」 余裕のなさそうな副会長の方へと的を変える。俺と一切視線を合わせないところから、ある種の罪悪感が汲み取れた。 「副会長サマは違うで、かわいそやから弁解しといてあげるわ。コイツの兄がな「言うな!」…おっと、こりゃ言えへんなあ」 ハスが口を開こうとした瞬間、副会長は鋭い声で黙らせた。 「あなたは、あなたの意思で今回のことに協力したんですね?」 その王子様フェイスで苦渋と後悔を噛みしめて、一言「そうだ」とだけ呟いた。 「悪あがきは終わった?じゃあ俺と一緒に来てもらうで」 筋肉がいうことを聞かない。そりゃそうだ、あれだけ腕と足を駆使したのだから。 俺、結構頑張ったと思うんだけどなあ…弱いわりには。 いつの間にか、すぐ目の前にハスがいる。嫌悪感を感じる笑い方を隠しもせずに、こちらへと手を伸ばしている。 自分が弱っちいのはわかってるのに、なーんでこんなに悔しいかな。 「…あれ、君まだ俺に立ち向かってこれんの?」 いつまで経っても襲ってこない衝撃と、ハスの違和感の溢れる標準的な口調に顔をゆっくりと上げた。 「ノア…」 「シキ、お待たせ。これ、いるかと思って」 語尾こそは震えを感じさせているが、その背中は頼もしいの一言に尽きる。 俺を庇うようにして、自分の剣をハスの眼前に突き付けているノア。 「この前の試合で、お前の弱っちい精神ズタボロにしてやったと思ったんやけどなあ」 「確かに、お前の言う通りだと思ったよ、俺はシキの役には立てないし、形だけの権力にしがみ付いていただけだ」 そんなことない、と声を掛けたかったがノアの拳は強く握りしめられその必要はないのだと悟った。 「でも、俺が役に立ちたいのはシキと友達でいたいからであって、俺があのまま立ち止まってたらいつまで経ってもシキの隣にはいられない…!俺はどんなに泥臭くても、情けなくても、汚くても!…しがみついて、見せるよ」 ハスは、目元をヒクリ、と引き攣らせた。 「ほんな、そういうキレイ事がいっちゃん嫌いやわあ…」 右手で握りしめた扇子が軋んでいる。 殺意が顔を出した瞬間、ノアの腰に刺さった俺のもう一つの愛刀を抜き、ハスを押し倒しマウントをとる。ハスの右手を刀で刺し、足も思い切り踏みつけて身動きをとらせない。 「…人が一人増えたところで、不利な状況は変わらんで…?逆にアンタは守るものが増えて、負担が増えただけやないの?」 自分がマウントをとられた状態ですらこれなのだから、まだ秘策があるのかもしれない。 「吐け、お前が知ってること全部」 「…僕が知ってるんは、こいつらは『羅紗(らしゃ)』と呼ばれ、フォレストという男が見つけた『蟲毒』を応用し、不死の傀儡人形を作り出したということだけや」 「それだけか?」 「さあな?」 隠されていたハスの瞳が覗いた瞬間、ハスの身体ごと地面に沈んでいく。 ずぶずぶと引きずり込まれていく。まるで、底なし沼だ。 「さて、行こうや?シキ君」

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