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伝承者

軍事学校生徒会執行部副会長、エイノ。庶民の出でありながら、優秀な成績、容姿の良さもあり、学園の生徒から圧倒的な支持を集めている。 その王子様フェイスとも呼ばれる美貌で周りの生徒を魅了し、確固とした実力も持ち合わせていた。 そんな彼には、優秀な兄がいた。 名はソラと言い、自警団第二師団団長である。第二師団と言えば、情報収集を主とし、戦闘の際には第六師団と主に後援部隊に回る。 ソラという男が、行方不明になった。時期で言えば、メレフ家主催のパーティーが行われた直後になる。 第二師団団長が行方不明になったという情報は自警団の中でも箝口令が敷かれ、極秘として扱われた。師団長の意思で、行方不明なったのか。それとも敵に捕らわれているのか、検討がつかなかったのである。 そこで敵である東倭国は、弟であるエイノに目を付けた。 『兄の安全を保障するかわりに、協力しろ』 副会長としては、新聞部の掌握を。エイノ個人としては、兄の安全を、悪魔に願ったのだ。 それが今回の騒動のきっかけとなったのである。 「……ですが、今回のことで兄の身の潔白は証明されました。兄は、東倭国に捕らわれています…あの人は、この国を裏切ったわけではありません」 トーカは見下ろした相手への威圧をやめない。冷たい視線で、エイノを突き刺していく。 「だからと言って、お前のようなガキが単独で行動する必要はなかった。それならば、自警団の人間に相談でもすればよかっただろう」 「…そうですが……」 「お前の兄は、自警団が総力を以てして取り返す。もうお前が出る幕ではない」 うつむき、何も言えなくなってしまったエイノを理事長が庇う。 「まあまあ、今回のことで被害よりも利益の方が多かった。エイノ君、君は確かに間違ったことはしたけれど、君の気持ちはよくわかる。次はない。いいね?」 小さく頷き、理事長室から出ていった副会長に続いて、会長も追いかけるように後を追った。ノアもまた小さく会釈をし、理事長室から出ていこうとする。 「…おいそこのチビ …コイツが世話になってるな」 トーカは隣にいたシキの頭をわし掴み、ノアを引き留めた。 「……いえ、友人ですから」 シキは大人しく、トーカに頭を触られ続けていた。 * 「蓮(ハス)、帰ってくるにしては身が軽そうやなあ」 「猩々緋様、申し訳ございません…しかし、例の物は手に入りました」 平伏した先、『猩々緋』と呼ばれた男は「例の物」を受け取り、その端正な顔をさらに美しく綻ばせ微笑んだ。 「これが『蟲毒』の源」 禍々しい気を放つ箱は、周りは煤を纏ったように黒く、読めない文字が羅列している。 「左様でございます。その失敗作(フォレスト)がその呪いを作る際、教わった人物にいた。では、誰が『蟲毒』という呪いを受け継ぎ、伝承していったのか」 「伝承者が隠した、最初で最後の『蟲毒』がこれか」 ハスは再び左様でございますと頭を下げた。その瞬間、首がごとり、と床に落ち、首が外れた胴体は膝をつき、ゆっくりと生命機能が停止していく。 「…ど、して…」 人間は頭と胴体が離れても、しばらくの間意識があるという。 「阿呆、我が欲すはあの黒や。今や、この箱よりもあの(メレフ)の作る呪いの方がまた美味やわ」 美しい男は、動かなくなった死体を一瞥することもなく家臣に掃除させる。 「…それにしてもこの箱、一体どこで…」 その瞬間、手にしていた箱が雷に当たったようにはじけ飛び、その残骸ごと溶けだした。 箱を手にしていた猩々緋の掌は、(ただ)れている。 「…シビュラめ、やってくれはりましたね」 不気味に再生していく皮膚を眺め、悔しそうに西の方角を見た。 東の国と、神が住まう国が剣を交えるその瞬間は、刻一刻と迫っている。 第四章・終

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